
急成長が続くAIの世界で、今注目が集まっているのがフィジカルAIです。
大量の現場データを持つ日本企業は、「フィジカル系」の世界に強いと言われてきました。実際に世界の工場で使われる生産ロボットは、ファナックや安川電機などの日本メーカーが存在感があります。
一方で中国は「産業用ロボットの国産化」の方針を打ち出し、生成AI技術を駆使して、ヒューマノイド(人型ロボット)などで、開発スピード・低コスト・膨大な試行錯誤データを活かして、様々な企業がこの市場に参入しようとしています。
こんな状況で、日本企業はどうすべきなのでしょうか?
そこで参考になるのが、ファナックの取り組みです。
これまでのファナックは自前主義で、自社の技術を公開してきませんでした。そのファナックが2025年12月、オープン化に舵を切るこんな発表をしました。
ファナックのロボットを駆動する専用ドライバを、オープンソースソフトとして世界に公開したのです。
具体的には、GitHub※1)にこのドライバーをオープンソースとして公開しました。同社のロボットはAI開発で広く使われるプログラミング言語「Python」も、標準で搭載しています。このおかげでファナックの生産用ロボットは、外部のAIリソース(クラウドのデータセンターやエッジサーバー)と共存できるようになります。
※1)GitHub:ソースコードの保存・共有・管理ができる世界最大級の開発プラットフォーム
こうした取り組みについて、同社の山口賢治社長兼CEOは、週刊東洋経済2026.2.14号のインタビュー記事でこう語っています。
『顧客の要望に合わせ米エヌビディアなどの外部環境と「共存」するが、制御のコア部分は明け渡さない。外部AIの指令について、自社コントローラーが安全性を判断し、危険な動きをブロックする「最後の砦」を握り続ける』
『ロボットの寿命は最長30年だが、GPUの進化は1〜2年と速い。外付けすることで、コントローラーは堅牢なまま、最新の計算能力を取り込める。顧客にとって、スケーラビリティ(拡張性)の高い構成にこだわった』
つまり「オープン化しても、コア部分は絶対に明け渡さない」と、いうことです。
実際、ファナックはすべてをオープンにしたのではありません。外部とのインターフェイス(ドライバー)のみをオープンソース化しました。コア部分はクローズなままです。
こうしてファナックはフィジカルAIの世界で、最新AI技術の進化を享受しつつ、自社の強みも活かそうとしているのです。
これは個人的な意見ですが、恐らくその先で狙うのは、「AI×ロボットの世界では、ファナックのドライバーを使うのが当たり前」という世界かもしれません。
ファナックの挑戦は、オープン&クローズ戦略に忠実です。
「あうん」のすり合わせが得意な日本では、独自の強み(「秘伝のタレ」)を持つ企業が数多くあります。かつて高度成長期の日本企業は、こうした「秘伝のタレ」をクローズにして様々な商品を生み出して、成長してきました。
しかし時代がデジタル世界になってオープン・イノベーションが広がってきました。新たな時代では、積極的に技術をオープンに公開して世界中に仲間を増やし、大規模な競争で技術をスピーディに進化させていきます。
クローズ技術が強かった日本企業にとって、こうしたオープンな世界は苦手な世界でした。
そこで「秘伝のタレ」の一部をオープンに公開することで仲間を増やしてマスの効果を狙う一方で、自社が稼げるコアな部分(最後の砦)はクローズにして絶対に公開しないのが、オープン&クローズ戦略です。
ファナックの山口CEOが『外部環境と「共存」するが、制御のコア部分は明け渡さない』と語っているように、ファナックはまさにオープン&クローズ戦略を仕掛けています。
オープン&クローズ戦略を仕掛ける日本企業は少なくありません。
エアコン市場で世界で成長するダイキンは、7,000万台の国内需要がある中国の家庭用エアコン市場に進出するにあたって、2008年、当時中国で普及率7%だった自社インバーター技術を、ライバルの中国企業・格力に公開しました。
広大な中国のエアコン市場では格力が圧倒的に強く、ダイキンだけでは営業や販売は限界だったのです。
格力にインバーター技術を公開した結果、自社インバーター技術は中国国内標準になり、量産効果でコスト削減でき、特許収益も得られました。
一方でインバーターは、機種毎に細かいソフトウェアの調整が必要でした。これは教えようにも教えられない職人技のすり合わせ技術です。この部分こそ、まさに公開できない「最後の砦」です。
こうして中国の国内インバーター比率は2018年に76%になり、ダイキンの中国国内売上は倍増して3000億円になりました。さらに他の地域にもインバーター技術を普及展開しました。
三菱電機ファクトリーオートメーションも、自社が開発した産業ネットワーク技術を、第三者の協会に提出して、日本発のオープンネットワークを整備。数千社のパートナーを獲得する一方で、接続機器を自動制御するPLC※2)などの幅広い製品を提供しています。
※2)PLC:Programmable Logic Controller
急成長する新しいテクノロジーは、日本企業にとって脅威かもしれません。しかし自社だけの「秘伝のタレ」を生かし、「最後の砦」を守るオープン&クローズ戦略を考え抜き、したたかに展開することで、新しいテクノロジーを「成長する武器」に転じることができるのです。
あなたの会社では、公開できる「秘伝のタレ」と、守るべき「最後の砦」は何でしょうか?
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年3月3日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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