
ニデック株式会社HPより
不祥事を生む「声が出ない企業」
ニデックで発覚した不適切会計問題は、単なる一企業の不祥事として片付けるには示唆が大きい。
企業不祥事はしばしば
- 倫理の問題
- ガバナンス不足
- 企業文化
といった言葉で説明される。
しかし、本当に重要なのは別の問いではないだろうか。
なぜ問題は内部で修正されなかったのか。
ここに、不祥事を生む組織構造がある。
不祥事は突然起きるわけではない
多くの企業不祥事には共通の過程がある。
- 問題の兆候が現れる
- 内部で気づく人がいる
- しかし声が出ない
- 問題が放置される
- 最終的に外部に露見する
つまり不祥事とは、
問題が長期間修正されなかった結果として表面化する。
不正が最初から大きな形で始まることはほとんどない。多くの場合、最初は小さな歪みである。
しかしその歪みが内部で修正されないまま積み重なると、やがて企業全体を揺るがす問題へと成長する。
組織論の古典:「声」と「退出」
この現象を説明する概念がある。
経済学者アルバート・ハーシュマンが提示した
「声(Voice)」と「退出(Exit)」
という考え方だ。
組織に不満を持った人は二つの行動を取る。
- 声を上げて改善を求める
- 組織を去る
問題は、この二つの行動が組織の中でどう扱われるかである。
声が歓迎される組織では、問題は内部で修正される。
しかし声が抑えられる組織では、問題は放置される。
そしてやがて、人は声を上げる代わりに組織を去るようになる。
声が出ない組織で起きること
もし組織の中で
- 異論が歓迎されない
- 問題提起が評価されない
- 上司への反論が許されない
という環境があるとどうなるか。
人はまず声を上げることをやめる。
それでも改善できない場合、「組織を去る(退出)」という選択が増える。
こうして組織からは、問題を指摘する人が静かに減っていく。
現場で起きている「責任による沈黙」
多くの企業で、改善提案をすると次のような言葉が返ってくる。
「失敗したら責任を取るのは私なんだぞ」
「お前一人の責任で済む話じゃない」
「お前にこの責任取れるのか?取れもしない癖に勝手を言うな」
一見すると合理的な判断のように聞こえる。
しかしこの言葉が繰り返される組織では、やがて誰も提案をしなくなる。
挑戦することよりも、失敗を避けることが優先されるからだ。
こうして組織からは、問題を指摘する声が静かに消えていく。
企業が本来必要としている人材
皮肉なことに、組織を去る人材には共通点がある。
- 改善意識が高い
- 問題発見能力がある
- 組織を良くしようとする
- 責任を引き受けようとする
つまり彼らは、
企業が本来もっとも必要としている人材
でもある。
そしてここに重要な点がある。
こうした人材は、単に能力が高いだけではない。組織の問題を発見し、修正する役割を担う人材でもある。
彼らが去るとき、企業は人材を失うだけではない。
組織の修正能力そのものを失う。
組織の強さを決める「修正能力」
ここで重要なのは、問題があるかどうかではない。
どんな企業でも問題は起きる。違いは、それを修正できるかどうかである。
- 問題を議論できる
- 異論を検証できる
- 方針を修正できる
こうした能力を持つ組織は強い。
逆に、問題を指摘する声が消える組織は弱い。
なぜ問題は修正されなかったのか(ニデックの企業風土)
では、なぜ問題は修正されなかったのか。
第三者委員会の報告では、ニデックの企業風土として
- 短期利益を強く重視する
- 目標未達を許容しない
- トップの意向を強く意識する
といった点が指摘されている。
こうした環境では、現場で問題に気づいても声を上げることが難しくなる。もし問題を指摘すれば、目標達成を妨げる存在と見なされるかもしれない。
その結果として起きるのは、
「沈黙」あるいは「退出」
である。
つまり問題は存在していても、組織の内部で修正されない。
その状態が長く続いたとき、問題はやがて外部で発見されることになる。
声が消えた組織で起きる逆転
声が出ない組織では、ある逆転が起きる。
改善提案をする人が辞める。、残るのは
- 摩擦を避ける人
- 指示待ちの人
- 現状維持を好む人
こうして組織は静かに弱くなる。
修正能力を失った組織では問題は内部で解決されず、それが不正や会計問題という形で外部に現れる。
不祥事を生むのは倫理ではなく構造
企業不祥事は、単なる倫理問題として語られることが多い。
しかし本質はそこではない。
不祥事を防ぐ企業とは、声が出る企業である。
問題を指摘する人が残り、議論が許され、方針が修正される。
もし企業が本当に不祥事を防ぎたいなら、
コンプライアンス研修よりも先にこの問いに向き合う必要がある。
この会社では、問題を指摘する声が本当に生き残れるだろうか。







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