ニデック問題が示した組織の弱点

ニデック株式会社HPより

不祥事を生む「声が出ない企業」

ニデックで発覚した不適切会計問題は、単なる一企業の不祥事として片付けるには示唆が大きい。

企業不祥事はしばしば

  • 倫理の問題
  • ガバナンス不足
  • 企業文化

といった言葉で説明される。

しかし、本当に重要なのは別の問いではないだろうか。

なぜ問題は内部で修正されなかったのか。

ここに、不祥事を生む組織構造がある。

不祥事は突然起きるわけではない

多くの企業不祥事には共通の過程がある。

  1. 問題の兆候が現れる
  2. 内部で気づく人がいる
  3. しかし声が出ない
  4. 問題が放置される
  5. 最終的に外部に露見する

つまり不祥事とは、

問題が長期間修正されなかった結果として表面化する。

不正が最初から大きな形で始まることはほとんどない。多くの場合、最初は小さな歪みである。

しかしその歪みが内部で修正されないまま積み重なると、やがて企業全体を揺るがす問題へと成長する。

組織論の古典:「声」と「退出」

この現象を説明する概念がある。

経済学者アルバート・ハーシュマンが提示した

「声(Voice)」と「退出(Exit)」

という考え方だ。

組織に不満を持った人は二つの行動を取る。

  • 声を上げて改善を求める
  • 組織を去る

問題は、この二つの行動が組織の中でどう扱われるかである。

声が歓迎される組織では、問題は内部で修正される。
しかし声が抑えられる組織では、問題は放置される。

そしてやがて、人は声を上げる代わりに組織を去るようになる。

声が出ない組織で起きること

もし組織の中で

  • 異論が歓迎されない
  • 問題提起が評価されない
  • 上司への反論が許されない

という環境があるとどうなるか。

人はまず声を上げることをやめる。

それでも改善できない場合、「組織を去る(退出)」という選択が増える。

こうして組織からは、問題を指摘する人が静かに減っていく。

現場で起きている「責任による沈黙」

多くの企業で、改善提案をすると次のような言葉が返ってくる。

「失敗したら責任を取るのは私なんだぞ」
「お前一人の責任で済む話じゃない」
「お前にこの責任取れるのか?取れもしない癖に勝手を言うな」

一見すると合理的な判断のように聞こえる。

しかしこの言葉が繰り返される組織では、やがて誰も提案をしなくなる。

挑戦することよりも、失敗を避けることが優先されるからだ。

こうして組織からは、問題を指摘する声が静かに消えていく。

企業が本来必要としている人材

皮肉なことに、組織を去る人材には共通点がある。

  • 改善意識が高い
  • 問題発見能力がある
  • 組織を良くしようとする
  • 責任を引き受けようとする

つまり彼らは、

企業が本来もっとも必要としている人材

でもある。

そしてここに重要な点がある。

こうした人材は、単に能力が高いだけではない。組織の問題を発見し、修正する役割を担う人材でもある。

彼らが去るとき、企業は人材を失うだけではない。

組織の修正能力そのものを失う。

組織の強さを決める「修正能力」

ここで重要なのは、問題があるかどうかではない。

どんな企業でも問題は起きる。違いは、それを修正できるかどうかである。

  • 問題を議論できる
  • 異論を検証できる
  • 方針を修正できる

こうした能力を持つ組織は強い。

逆に、問題を指摘する声が消える組織は弱い。

なぜ問題は修正されなかったのか(ニデックの企業風土)

では、なぜ問題は修正されなかったのか。

第三者委員会の報告では、ニデックの企業風土として

  • 短期利益を強く重視する
  • 目標未達を許容しない
  • トップの意向を強く意識する

といった点が指摘されている。

こうした環境では、現場で問題に気づいても声を上げることが難しくなる。もし問題を指摘すれば、目標達成を妨げる存在と見なされるかもしれない。

その結果として起きるのは、

「沈黙」あるいは「退出」

である。

つまり問題は存在していても、組織の内部で修正されない。

その状態が長く続いたとき、問題はやがて外部で発見されることになる。

声が消えた組織で起きる逆転

声が出ない組織では、ある逆転が起きる。

改善提案をする人が辞める。、残るのは

  • 摩擦を避ける人
  • 指示待ちの人
  • 現状維持を好む人

こうして組織は静かに弱くなる。

修正能力を失った組織では問題は内部で解決されず、それが不正や会計問題という形で外部に現れる。

不祥事を生むのは倫理ではなく構造

企業不祥事は、単なる倫理問題として語られることが多い。

しかし本質はそこではない。

不祥事を防ぐ企業とは、声が出る企業である。

問題を指摘する人が残り、議論が許され、方針が修正される。

もし企業が本当に不祥事を防ぎたいなら、

コンプライアンス研修よりも先にこの問いに向き合う必要がある。

この会社では、問題を指摘する声が本当に生き残れるだろうか。

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