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市場の縮小や人手不足により、ビジネス環境が年々厳しくなっていく中で、「1年に1回しか営業するな」と提言されたら、あなたは荒唐無稽だと感じるでしょうか?
しかし、「これこそ企業が儲かる体質に変わる秘策だ」と語るのは、展示会営業の専門家で中小企業診断士の清永健一氏。その理由を、氏の著書『展示会のプロが見つけた儲かっている会社は1年に「1回」しか営業しない理由!』から読み解きます。
記憶に残るのは「体験」
自社の商品やサービスを紹介するために、たくさんの企業が集まる展示会は、日常から離れた少し特殊な環境です。間断なく売り込みの言葉が耳に入ってくるため、来場者は頭が疲れてしまい、次第にブースを回るのが億劫になってきます。
そんな来場者の思考停止状態を解除し、ブースに興味を持ってもらうための効果的な方法の一つが「体験アトラクション」です。商品の良さを単に説明するのではなく、来場者自身になにかを体験してもらうことで、強く記憶に残して印象づけましょう。
例えば私のクライアントは、超硬チップソーという切削工具を製造販売しているのですが、ブースの軒先に自社製と一般のチップソーを吊るし、「叩いて“振動と音”の違いを確かめてみてください」という体験アトラクションを実施しました。
来場者が実際に叩いてみると、自社製のチップソーは一般の物と比べてほとんど振動せず、大きな音も出ません。この差を体感することで、来場者は「なぜ音がこんなに違うのだろう?」という疑問を抱き、スタッフの説明に耳を傾けるようになります。単に口頭で「高精度な切断を実現します」と説明するよりも、自ら体験して疑問を持った方が、話の内容がはるかに記憶に残りやすくなるのです。
また、このアトラクションの「大きな音」は、周囲の来場者の注意を引き、自然と人だかりを作ってくれるという、別の効果もありました。まさに一石二鳥ですね。
別のクライアントの例では、シロアリ駆除・防除の会社が実施したクイズ形式の体験アトラクションがあります。「浴室で羽アリが200匹浮いていた場合、そのヤマトシロアリのコロニーの仲間は土中に何匹いるでしょう?」というクイズを出題し、来場者自身に「解答はこちら」と書かれたしおりを引っ張ってもらうことで、答え(2万匹)が現れる仕組みです。
難しい問題に「くっそ〜残念!」と悔しがるなど、来場者の感情が動くことによって、その体験はさらに鮮明な記憶として残ります。このクイズは、来場者の思考停止状態を解除した上で興味を抱いてもらい、同社の専門性をアピールできる自然な会話へとつなげることに成功しました。
効果的な体験アトラクションを考える
アトラクションを効果的なものにするためには、以下のような6つの視点が必要です。
(1)来場者に身体を動かしてもらうことはできないか?
(2)来場者を驚かせることはできないか?
(3)何かと比べることはできないか?
(4)たとえたり、置き換えたりすることはできないか?
(5)クイズ形式にすることはできないか?
(6)実況中継できないか?
展示会を「舞台」、スタッフを「役者」、来場者を「観客」に例えると、イメージしやすいのではないでしょうか。つまり、会社は脚本家として、スタッフが演じやすく、来場者の記憶に残る「舞台装置」を工夫してみる、というわけですね。演出を実施する会社側としても、楽しんで取り組んでいただけるのではないかと思います。
会社の未来を語る「志プレゼン」で共感を呼ぶ
体験アトラクションで来場者の足を止めることに成功したら、次に取り組むべきは、「自社の想いや志を来場者に発信する」ことです。単に個別の商品メリットを伝えるのではなく、「あなたの会社や出展商材がもたらす明るい未来」、すなわち世の中全体に与える良いインパクトを発信することで、共感してもらえることを目指します。
私のオリジナルである展示会営業ノウハウでは、これを「志プレゼン」と呼んでいるのですが、なぜ、展示会で自社の想いや志を発信するべきなのでしょうか。その理由は3つあります。まず、展示会会場で即売れることは稀なので、価格や納期といった後日の商談で伝えることが可能な取引条件よりも、自社がどんな会社なのかを知ってもらうほうが大事なことだからです。
次に、たとえ取引条件を説明したとしても、来場者は多くのブースで同じような情報を聞かされて思考停止状態なので、いちいち覚えていられません。一方、想いや志は会社によって違いがありますので、記憶に残りやすいものです。
最後の理由は、来場者がその会社を「応援したくなる」からで、これが最も重要かもしれません。人間には、何かを目指して一生懸命に頑張っている人を見ると、自然と応援したくなるアンダードッグ効果という心理傾向があるのです。
「志プレゼン」では、3年以内のような短期的な目標ではなく、10年後、20年後といった長期的な時間軸で、自社が実現したい未来を語ります。例えば、介護施設に清掃サービスを提供する会社であれば、「日本全国の介護施設からノロウイルスを撲滅し、入所者さんやヘルパーさんたちがイキイキ明るく過ごせる毎日をサポートします。そうすることで、日本を元気にしたいです。」といった内容が考えられます。
どちらかというと、「必ず実現する」というコミットメントではなく、「このような未来の実現を目指して取り組んでいきます」と宣言するようなイメージです。
プレゼンターは、プロのナレーターやコンパニオンではなく、社長や幹部社員、あるいは若手社員が務めるのがベスト。上手な語り口よりも、一生懸命に心を込めて語る姿勢こそが、来場者の心を動かします。あまり長いと離脱してしまうので、志プレゼンは800文字程度にまとめると良いでしょう。
効果的な志プレゼンを行うためのコツ
志プレゼンを効果的に行うためには、コツがあります。それは、対比構造にすること。来場者は頭が疲れている状態なので、分かりやすく伝えるためには、実現したい未来とその対極にある現状(真逆の状況)をセットで描写すると良いでしょう。例えば私の場合、「従来の一般的な営業」と「私のオリジナルである展示会営業」を対比させています。
「今までの営業は堅い、真面目」なのに対し、「展示会営業は楽しい、喜怒哀楽豊かな人気者になる」という比較や、「今までの営業は、お客さんと対立する」に対し、「展示会営業は、お客さんと共通の目標像を目指す同志になる」という違い、「今までの営業は、お客さんは神様」に対し、「展示会営業は、お客さんだって生身の人間だから悩みも間違いもある。そんな愛すべきお客さんとともに、明るい未来を目指す同志になろう」といった、自分がサービスにかける想いを伝えられる対比などです。
展示会は、単なる商品・サービスの説明会ではありません。中小企業が自社の想いや志を、来場者や世の中に堂々と宣言し、共感を呼び込むための最高の舞台になりうるのです。演出が成功すれば、単なる営業を超え、ブースが大企業以上に輝き、見込み客の心を強く掴むことができるでしょう。展示会をきっかけに、顧客に深く愛される中小企業が増えることを、心から願っています。
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清永 健一
株式会社展示会営業マーケティング代表取締役。中小企業診断士、展示会営業(R)コンサルタント。奈良生まれ、東京在住。神戸大学経営学部卒。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」など多くのメディアで取材を受けている。支援実績は1300社を超え、ほぼ毎週、東京ビッグサイトに出没している。NHKラジオ総合第一で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関して、テレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。 著書の『最新版 飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』、『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない』など合計7作はいずれもamazon部門1位を獲得している。
公式サイト https://tenjikaieigyo.com
X(旧Twitter) @tenzikai
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年11月14日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。








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