ケガや病気で働けなくなった際に健康保険から支給される傷病手当金の支給額が、5年で1.6倍になったことが話題となっています。
主な原因はメンタルトラブルの増加です。
【参考リンク】メンタル不調増加、膨らむ傷病手当金 5年で1.6倍、健康保険から

SNS上の反応を見ると、
「業務量がどんどん増えているせいだ」
「日本人はあまりにも働かされすぎ」
といったレスが主流です。でも、筆者はそういう見方には懐疑的ですね。
なぜかと言えば、長期的にほぼ一貫して、日本人の労働時間は減少し続けているからです。少なくとも「業務量が増えたから」というロジックは成立しませんね。

データブック国際労働比較2024より
ちなみにこうした見方に対しては「2000年以降は高齢者や専業主婦が非正規雇用として労働市場に参入したせいで全体の労働時間は下がって見えるが、働き盛りの男性正社員については90年代以前と変わらない」という指摘がしばしばされます。
これは全くその通りなんですけど、少なくとも働き方改革(2019年)以降は「働き盛りの男性正社員」がもっとも労働時間が下がっていたりするので、やはりここでも「業務量が増えたから」というロジックは不成立です。
とはいえ、何らかの理由で仕事が脳の限界を超えちゃっているのは事実でしょう。
労働時間は減っているのにメンタルトラブルは増えているという矛盾。昔はあって今足りないものってなんでしょう? https://t.co/TPreicsyYS
— jo shigeyuki (@joshigeyuki) March 23, 2026
労働時間でないとすると、みんなの脳を追い込んじゃってるものって何でしょうか。
ストレス?それともプレッシャー? 意外と花粉とか?
逆に、昔はそこら中にあって「頼れる相棒」として脳を支えてくれていたのに、近年急激に減ってしまったもの、あったりします?
美味しい空気や水、エアコン無しでも寝られる夏とか?
というわけで、今回はメンタルとキャリアについてまとめたいと思います。多分万人にとって重要なテーマでしょう。

労働者を追い詰めたのは新たな脅威か、それとも大切なものの喪失か
上記の報道には色んなレスがついてるんですが、(労働時間を除くと)近年増えた負担としては「ITやスマホによるストレス」を挙げる人が目につきますね。
確かにスマホなんてどこでも手軽にリモートで仕事ができる便利なツールではあるんですが、裏を返せば24時間どこでも作業が要求されうる状況でもありますね。実際、負担を感じる人もいるでしょう。
ただ、ちょうど一人一台PCが支給され始めた頃(90年代半ば)と携帯電話が当たり前になった時期(90年代後半)を経験している身から言わせてもらうと、技術の進歩で「ストレスを感じていた」のは45歳以上の世代の一部でしかありませんでしたね。
「なんで最近の端末は親指シフトじゃないんだ!誰か親指シフトのキーボード探してこい!」みたいな。※1
それ以外の多数派はむしろ事務作業や打ち合わせといったアナログ仕事が減って喜んでた印象があります。
実際、スマホや携帯が無かった時代に戻りたいという人っています?自身も含め、筆者はそんな人には会ったことないですね。
他には「競争」を挙げる人もいましたね。昔より競争が強化されたため、それで従業員の負担感が強まっているとするロジックです。
そういう人は恐らく、
昔 =年功序列でみんな横並びなので競争無い、牧歌的
現在 =脱年功序列、ジョブ化で競争激化
みたいなイメージなんでしょうが、昔からこてこての日本企業ほど社内での出世競争は熾烈を極めていましたね。
年功序列って確かにバカでもある程度(だいたい30歳過ぎくらい)までは昇給させてもらえますけど、そこから先は「年功の積み重ねを競う熾烈な減点主義レース」なので、ストレスはんぱないですから。※2
という具合に、筆者は「新たなる脅威が出現して労働者を追い詰めている説」には懐疑的なスタンスです。
では逆に「昔はありふれていたのに、今は手が届かなくなってしまったもの」って、何かあるでしょうか。
少数ですけど、ちゃんと指摘している声はありましたね。
10年後はもっと世の中良くなってるだろうという希望
— 細太郎 (@hosotaro9) March 23, 2026
希望じゃないでしょうか?
働いたら負け
社会保険料とられ
社会保険料の上限を超えたあたりで所得税で取られ
全ての所得制限が降ってきて
起業しても金融所得課税増税
出口が塞がれ
最後は相続税で全部持ってかれる
共産主義国家の国民が…— 中村ミレイ@本当の保守派 (@NakamuraMilei) March 23, 2026
やりがい、夢、将来性。人によっていろんな言い方があるでしょうし、その対象も一個人のものから社会全体を含んだものまで幅広いと思います。
ここはシンプルに“希望”としましょう。
昔の日本企業にあって今は足りていないもの、それは希望であり、それこそが近年のメンタルトラブル増加と大きく関係しているというのが筆者のスタンスです。
ちょっと想像してほしいんですが、大海原の真ん中でみんなでボートを漕いでいるケース。
船長が「向こうに陸地があるぞ、頑張って漕げば三日で到着だ」と言って、実際みんながそれを信じることが出来たら。
三日どころか一週間くらいは頑張って漕げるはず。
でも陸地までどれくらいかかるのか皆目見当もつかない、というか本当に到着できるかすらわからない状態だと、果たして人は頑張れるでしょうか。たぶん半日後にはみんな嫌になってオールを放り出す人も出ていることでしょう。
この両者のギャップを生み出すものこそが希望なんですね。
※1 「親指シフトって何?」という人は70歳以上の元ビジネスパーソンに聞いてみましょう
※2 終身雇用下での減点レースがどれほど過酷で陰湿かイメージできないという人は「半沢直樹」がオススメです。
諸刃の剣として使われてきた“希望”
なんて書くと「でもすべての人が希望なんて持ってるわけじゃないぞ」という人もいるでしょう。確かにワンカップ片手にパチンコうってるオッサンや、毎日寝転がってワイドショー見てるオバサンが希望を抱いているようには見えません。
そう、希望なんて無くったって人は惰性で生きていけるものなんですね。
ただし、人を拘束してずーっと働かせるのなら、まして主体的に考えさせたり行動させたりしたいのなら、希望は不可欠です。
そしてそれを出来るだけ多くの従業員に提示することが、人事制度の本質的役割だと筆者は考えています。
ちなみに従来の日本型雇用で希望はどのようなものだったかというと、
- 年功序列により必ず40歳以降にそれなりのポストを保証されるという希望
- それを可能とするため、少なくとも自分の会社だけは今後も成長を続けるだろうという希望
ですね。言うまでもないですが、今これを信じられるというビジネスパーソンは、総合商社や財閥系不動産開発といった極々一部の優良企業の総合職だけでしょう。
要するに、従業員に希望を与えるという点では、既にほとんどの企業の人事制度は機能不全を起こしているということになります。
もともと終身雇用とその根幹であるメンバーシップ制度というのは、すべての構成員に希望があまねく存在していることが大前提なんです。
好きでもない仕事や、評価されるかわからないような仕事、自身の成長に全く寄与しないであろう仕事も、会社から与えられた仕事は全部こなさないといけませんから。
それを可能とするには「それをしっかりこなせば将来は今よりずっと良い処遇が得られる」という希望は絶対に不可欠なんですね。
ここが世界標準のジョブ型雇用との最大の違いです。
余談ですけど、実は上記ロジックは筆者オリジナルのものでもなんでもなくて、20年以上の職歴のあるベテラン人事の人間ならみんな理解しているはずです。
2000年前後に幅広い業種のJTCでリストラが大流行しましたが、今と違い当時はデフレ最盛期、つまりほっておいても賃金高止まりという「従業員にとってのボーナスステージ」でしたから誰もなかなか手を挙げません。
そこで“追い出し部屋”という名の「早期退職に追い込むための臨時組織」があちこちに作られていました。
といって、鞭で打ったり膝の上に石板を置いたりするわけではありません。
当時もっとも人気のあった追い込み方は「何も与えないこと」
仕事はもちろん、他部署や同僚とのつながりも全部断ったうえで、ファイル整理みたいな「明らかにどうでもいいとわかる作業」を延々やらせるわけです。
そう、希望を奪うために。
すると、だいたい半年でほとんどの人が辞めるんですね。
腕のいい人事の人間は、希望を奪えば人は壊れるということをよく分かってます。
ただそれが、追い出し部屋なんて必要なくなった今、形を変えて普通の職場にじわじわ浸透してくることまでは予想してなかったんでしょうね。
そうそう、そういえばつい先日、熊本の公務員のオッサンが業務中にアダルトサイト見まくって懲戒処分された件が話題となってましたね。
【参考リンク】勤務中にアダルトサイト閲覧 熊本県職員に停職4カ月 業務用パソコンで

「公務員ぬるすぎ」「とっととクビにしろ」みたいなレスがほとんどなんですが、これ完全に壊れちゃってるケースだと思いますね。
精通したての中学生とかならともかく、50代のオッサンが一度見つかって処分された後にまた、それもわざわざ自宅からメモリースティックに入れて持参したエロ動画を職場で見ますかね?
恐らく仕事も居場所も、そしてもちろん希望もないままただ週五日定時いっぱいそこに居続けることにメンタルが耐えられなくなってたんでしょう。
職場でエロ動画を(恐らくあえて見つかるように)視聴するという行為は、オッサンの「俺はここにいるんだぞ、俺は生きてるんだぞ」という魂の叫びだったような気がします。
要はSOSですね。
■
以降、
希望を取り戻すために必要なこと
Q:「理工系の女子枠の就活はどうなる?」
→A:「学校推薦制度に止めをさすんじゃないですかね」
Q:「博士課程の就職について」
→A:「研究職は学校推薦が中心となります」
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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2026年4月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。








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