オルツ、ニデック、KDDI。不正会計が続いている。最も異常なのがニデックだ。
不正の手口ではない。不正を見つけるための体制が尋常ではないのだ。年間60件を超える内部監査。内部通報に対処する特別調査。外部採用した公認会計士ら16名で構成される監査部門。極めつけは「特命監査部長」という役職の存在だ。
特命監査部長とは何者か? ニデックの監査経験者によると
「不正を闇で処理する存在」
だという。監査能力は極めて高い。永守会長(当時)の「特命」だけを遂行し、通常業務に従事しない。情報は共有しない。同僚とさえ話さない。
同部署の一人は、「机を並べているとはいえ、全く交流はなく(中略)具体的に何をしているかは全く分からなかった」と言う。
調査結果を報告するのは永守氏の他限られた幹部のみ。いや、永守氏さえ信用していないフシがある。
「会長の手元に残すと他の人の目に留まるおそれがあるので」
と、調査報告書を手渡さない。なんともニヒル。まるでハードボイルド小説だ。

永守会長(当時) ニデックHPより
特命監査部長の誕生
特命監査部長誕生のきっかけは投書だった。1990年代以降、永守氏は、各拠点を訪問し「正しい経理(王道経理)」の大切さを説いていた。すると、各拠点から不正告発の投書が、永守氏宛に届くようになった。
不正は是正したい。だが、表沙汰にはしたくない。監査部に任せず、監査法人に知られることなく「秘密裏」に処理する者が必要だ。
そこで、つくられたのが「特命監査部長」という役職である。抜擢されたのは「A氏」。組織に馴染もうとしないが、監査能力が高い。その評判を聞きつけ、永守氏が子会社から登用した人物だ。任務は、永守氏宛に告発された不正事案を調査し「秘密裏」に是正すること。
そのための体制も組まれた。他の部門が手出しできなくなったのだ。特命監査で指摘した案件は、監査部門では取り上げない。法務部門への内部通報と重複した場合は、特命監査を優先する。そう取り決められた。
だが、秘密と是正は相反することがある。金額の大きい不正は、秘密裏に是正できないのだ。だから直ちに処理しない。目立たぬよう複数期間に分ける。外部監査法人・内部監査部門に気づかれぬよう注意を払う。その様子が、A氏の週報から窺がえる。
「目立たぬ様にQ2で修正する指導を致しました」
「KAC(外部監査法人)が10月海外監査先として要望しており、受査(監査を受けること)回避を最優先」
こうして、2011年頃から2020年までおよそ8年間、A氏は約300件(約350億円)の不正を、摘出していく。だが、活動の詳細は不明のままだ。
「退職時に報告書は処分していると思う」。永守氏はA氏についてこう語る。調査委員会の調査においてもごく一部のデータしか発見できていない。A氏にヒアリングを要請したものの、応答はないという。退職した今でも、A氏は秘密を守り続けている。
特命監査の終わり
特命監査が終了したのは2022年6月。理由はA氏自身の不正疑惑だった。
2020年2月、A氏が非常勤監査役を務めていたニデックの子会社において不正会計が発覚した。A氏にも以下の疑いが浮上している。
・戻入(返金)を前提とした売上など不正行為を知りながら、それを是正しなかった
・調査が行われることを知り、同社経営幹部らに関係資料の廃棄を指示した
A氏はいずれも否定している。事実認定もされていない。だが、同年4月、経営管理監査部の執行役員は、代表取締役副会長に以下のメールを送っている。
「A氏のやり方自体が会社のリスクとなっています。(中略)A氏は過去からの様々な不祥事案件を知っており、彼を敵に回し会社に弓を引かれるとリスクは大きく、扱い方は悩むところです」
リスクを防ぐため創設した特命監査部長がリスクになる、という皮肉な状況に陥っていた。
同年6月28日以降、特命監査の報告書は提出されなくなった。A氏は、肩書きが「顧問」に変更され、報酬が40%カットされた後、2年を経て退職している。
何がニデックに必要か
A氏は漏洩リスクを減らすため一人で業務を遂行してきた。代わる人材はおらず、A氏の退職で特命監査は終了となった。
永守氏は以下のように語る。
「(ニデックの内部通報制度は)通報先を法律事務所にしているが、それでは大物は見つからない。本当に悪いことをしている者は、そのようなところには通報しない」
ここにニデックの異常性がある。
ニデックに求められるのは「大物・悪者」を見つけることではない。「正しいことをしている者」が報われる企業風土を醸成することである。







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