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メディアを見ると、こんな言葉をよく見かけます。
「ファーストペンギンを目指せ!」
「とにかく飛び込め」
ファーストペンギンとは、こんな例えから来てます。
- そもそもペンギンは、非常にデリケート。群れで行動します
- 数百匹のペンギン集団が海に飛び込まなければならない時、最初に飛び込む勇敢で知力・体力・胆力に優れた「ファーストペンギン」の行動のおかげで、集団は海に飛び込めます
- シャチなどの天敵がいるかもしれません。しかしファーストペンギンがリスクを取ることで、集団は発展します
こう言われると「僕もファーストペンギンになろう!」と思ってしまいますよね。
しかし現実には、成功企業はセカンドペンギンが多いのです。
ここで言うセカンドペンギンとは、市場が立ち上がる黎明期に、先行者の成功と失敗から学ぶ企業のことです。
【インターネット検索】
1995年、世界で初めて話題になったのはAltaVista。Googleの原型が生まれたのは1996年、会社設立は1998年でした。
【SNS】
Friendsterが2002年、Myspaceが2003年。Facebookは2004年で後発でした。
【スマホ】
メジャーどころではBlackBerryが2002年、HTCがWindows Mobile OSを搭載したスマホを発表したのが2005年。ジョブズが「世の中のスマホってスマートじゃないよね」と言ってiPhoneを発表したのが2007年。iPhoneは後発でした。
【EV】
クルマが生まれた19世紀には電動車も数多くありましたが、T型フォードが大量生産されてガソリン車が主流に。その後、1996年にGMがEV1、1997年にトヨタがRAV4 EVなどを発売しましたが、性能が低くて市場化に失敗。2003年にTeslaが創業され、2008年に高性能バッテリーを大量に搭載した高性能スポーツカーRoadsterを発売。テスラも後発でした。(ちなみに当時、イーロン・マスクの主な仕事はスペースXで、テスラには出資者の立場で、会長として週1回関わっていました)
経営学者アダム・グラントは、著書「ORIGINALS」で、セカンド・ペンギンの優位性をこんな数字で裏付けています。
■ 失敗率は、先発企業が47%、後発企業は8%
■ 生き残った場合の市場占有率は、先発企業が平均10%、後発企業が平均28%
つまりファーストペンギンは、シャチに食べられてしまう可能性が高いのです。
では、なぜ「ファーストペンギンを目指せ」と言われるのでしょうか?
これにはいくつか理由が考えられます。
① リスクを取らない人たちへの後押し
多くの人たちはリスクを取りたがりません。特に日本では、こうしたマインドが強すぎて何も挑戦せず、成長していないと言われています。だから「まず最初に飛び込め」というくらいの方がいい、という考え方があります。
② 生存者バイアス
成功した会社が残っていて「ファーストペンギンだ」と思われているケースも少なくありません。Google、Facebook、iPhone、Teslaはセカンドペンギンですが、多くの人が「市場を作ったファーストペンギンは彼らだ」と思っています。
これは「生存者バイアス」の一種です。私たちは生き残った人だけを基準に判断しがちで、生き残らなかった人たちのことが見えていないのです。
③ 「ファーストペンギン」はメディアの大好物
メディアもそうした「ファーストペンギン伝説」を好んで取り上げたがります。
以上がファーストペンギンを目指せと言われる理由ですが、現実にはファーストペンギンは失敗することも多いのです。
「じゃぁ、あなたは『リスクを取るな』っていいたいの?」と言われそうですが、それも違います。
挑戦しない限り、チャンスは掴めません。
しかし何も学ばずに自己流でガムシャラにやっても、失敗するだけです。
ファーストペンギンは尊い存在です。
挑戦もどんどんやるべきです。
しかしリスクは下げる必要があります。
だから、先行者グループに入った上で、ファーストペンギンから学ぶべきなのです。
ペンギン全体の8〜9割は、「この海はシャチがいるんでしょ。絶対にイヤ」と言って、海に飛び込みません。
「リスクがあるけど、チャンスだな」と考えるのは、残りの1-2割です。
そしてこの中で真っ先にシャチに食べられるのは、1匹目のファーストペンギンです。
残りのセカンド・ペンギンたちは…
「なるほどねぇ。ああやって飛び込むと、シャチに見つかるんだな」
「こっち側から飛び込むと、シャチに見つからずにうまくいくな」
「じゃぁ、こんな方法で飛び込んで見るか」
と学んで、生存確率を上げます。
このように、ファーストペンギンのグループに入って、ファーストペンギンから学ぶことが大事なのです。
自分が失敗するよりも他人の失敗から学ぶ方が、コストも時間も少なくて済みます。
ただしこれには条件があって、あらゆる手(ただし正当な手段)を使って、真剣に学ぶことです。
ここでヒントになるのが、マクドナルド創業者レイ・クロックの自伝『成功はゴミ箱の中に』です。
この自伝のタイトルは、本書のこんな一節から取られています。
『「競争相手のすべてを知りたければゴミ箱の中を調べればいい。知りたいものは全部転がっている」/私が深夜二時に競争相手のゴミ箱を漁って、前日に肉を何箱、パンをどれだけ消費したのか調べたことは一度や三度ではない。』
同書p.182
つまり「ライバルのゴミ箱を漁ってでも、あなたはライバルから学ぼうとしていますか?」と言うことです。
ちなみにファストリテイリング会長/社長の柳井正さんは、本書の冒頭に「これが僕の人生のバイブル!」という文章を寄せています。
泥臭く学ぶ必要性は、現代でも重要です。
「シリコンバレーのドン」とも称されるピーター・ティールは、ファーストペンギンのイメージが圧倒的に強い人物ですが、著書『ZERO to ONE』でこう語っています。
「ファーストムーバー・アドバンテージ、先手必勝とよく言われる。(中略)でも、先手を打つのは手段であって目的ではない。(中略) 最後の参入者になる方がはるかにいい──つまり、特定の市場でいちばん最後に大きく発展して、その後何年、何十年と独占利益を享受する方が良いと言うことだ」
同書p.87
「すべての起業家は、自身の市場でラストムーバーとなるような戦略を立てるべきだ」
同書p.215
つまり「0から1を生み出せ」「市場を独占せよ」と主張するティールも、ファーストペンギンであることは必ずしも肯定していないのです。
ちなみにティールが言う「ラストムーバー」とは、最終的に市場をゴッソリ支配して利益を独占する人のことです。
彼が言うように、最終的な目的は、顧客から見て意味があり、他社が真似できない独自性を生み出して、持続的な競争優位性を獲得することです。
ただしタイミングが遅すぎると負けます。
iPhoneがセカンドペンギンなのに成功したのは、参入時期がスマホの黎明期だったからです。Appleを見ていると、市場が立ち上がろうとしている絶妙なタイミングで、先行する各社から学んで、先進技術を組み合わせて使い勝手を徹底的に高めた商品を投入しています。
一方でAmazonがスマホ市場にFirePhoneで参入したのは、iPhoneから7年後の2014年でした。この時点でスマホ市場は、先が見えない黎明期から、iPhoneとアンドロイドがしのぎを削る成長期〜成熟期に変わっていました。このタイミングに大量のヒトモノカネをかけても、なかなか勝つことができません。
必要なことは、最初に飛び込むことではなく、誰よりも学んだ上で、ベストタイミングで、最も有利な場所から海に飛び込むことなのです。
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年4月21日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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