「旧宮家から養子をとる」って何するの?

前回のこども版記事で、

愛子さまは天皇になれないの?
今、国会では皇室典範こうしつてんぱんという法律の改正に向けた「安定的な皇位継承こういけいしょうをめぐる協議」が行われており、議論は山場を迎えています。ところが、世論調査よろんちょうさでは「愛子さまが天皇になる」と考える声が多数派なのに、国会...
  • 愛子さまが天皇になるには皇室典範こうしつてんぱんを変えなければならない
  • 今のままでは将来、天皇になれる「男系男子だんけいだんし」がいなくなりかねない

話を解説しました。

ところが今の国会では、愛子さまをはじめとした女性・女系の皇族が天皇になれる案ではなく、旧宮家きゅうみやけから養子をとる」というまったく別の案が進められています。

旧宮家の「15歳以上の子供」を天皇の養子にする奇妙な議長案
安定的な皇位継承をめぐる国会協議で、衆参両院の正副議長が、旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える場合、対象を「15歳以上の男子」とする方向で調整しているという。民間人を「皇族に戻す」という異常な制度一見すると、これは本人の自由意思を尊重す...

しかしこれは多くの専門家から「無理がある」と批判の的になっているのです。

これはいったいどんなものなのでしょうか。

「旧宮家」って何?

まず宮家みやけとは何かというと、これは三宅みやけさんのことではなく、天皇ご一家の親戚しんせきにあたる皇族ご一家のことです。
「〜宮」という宮号みやごう(これは特別な称号で、苗字とは違います)を天皇からもらった家のことで、次の天皇に近い秋篠宮文仁あきしののみやふみひとさまや悠仁ひさひとさまも、秋篠宮家あきしののみやけという宮家の一員です。

秋篠宮家の皆様 2025年 宮内庁HPより

戦争に負けたあとの1947年、「これからは皇族ではなく、ふつうの国民になってください」と言われて皇室を離れた宮家が、11ありました。
これが「旧宮家」です。

その中で、今も男系男子(お父さん方をたどると天皇につながる男子)が続いている家が、4つあります。
そのうちの1つ「竹田家」の人で、テレビやYouTubeによく出てくるのが竹田恒泰たけだつねやすさんです。

竹田恒泰さん 産経新聞より

ただし、旧宮家が皇室を離れてから約80年。
今ではその子孫の多くが、私たちと同じようにふつうに暮らしていて、恒泰さんも含めて皇族ではありません。
しかも、今の天皇家と共通のご先祖までさかのぼると、なんと約600年前の室町時代にもなります。
「男系」でつながってはいても、血のつながりとしては超・遠い親戚なのです。

旧11宮家の系統 毎日新聞より

なぜ「直接戻す」のではなく「養子」なの?

いま皇室で問題になっているのは、秋篠宮さまの次の世代で男系男子が悠仁さまお一人だけ、ということでしたね。
これを解決するために、「遠い親戚でもいいから、とにかく男系男子の人数を増やそう」と考えた議員や有識者たちが思いついたのが、「旧宮家の男系男子を、皇族の家が養子として迎えればいい」という、いま進められている案です。

しかし、ここで不思議な点があります。
旧宮家の人を「もう一度皇族に戻します」とそのまま決めればよさそうなのに、わざわざ「今ある皇族の家が養子として迎える」という、回りくどい形をとっているのです。
実は、これにはわけがあります。
「あなたの家は特別な家系だから皇族にします」と国が直接決めると、日本国憲法にほんこくけんぽうのある決まりに反してしまうのです。

もちろん政治家は、憲法に反する法律を作ってはいけません。
そこで、

「国が決めたのではなく、皇族が自分から養子を迎えたことにしよう」

という抜け道として考えられたのが、いまの案です。
ですが、はたしてこれで本当に問題は消えるのでしょうか。

「門地による差別」って何?

「ある決まり」とは、憲法第14条の門地もんちによる差別の禁止」です。
そこには「すべて国民は、法のもとに平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定められています。

e-Gov 法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

「門地」とは生まれた家柄いえがらのこと。
つまり「どんな家に生まれたか」で人を特別あつかいしたり、逆に差別したりしてはいけない、という大切なルールです。

このルールは、旧宮家の男子たちにも当てはまります。
だからその人たちを

  • 特別な家柄だから
  • そこの男子だから

という理由で皇族にするのは重大なルール違反だ、と多くの専門家が指摘しているのです。

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旧宮家の養子案は重大な憲法違反:女性差別と家柄差別の疑い
安定的な皇位継承をめぐる国会協議で、衆参両院の正副議長が旧宮家の男系男子を皇族の養子として迎える案を取りまとめた。皇族数の減少に対応するため、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する案と並び、旧宮家の男系男子を養子として皇族に復帰させる案が柱...

これを進める人たちは、「でも相手は皇族なんだから、そんなの関係ねぇ!」などと言っています。
実は、これ自体は正しいのです。
天皇や皇族が特別な存在であることは、憲法そのものが認めているからです。
しかし、それは生まれながらの皇族の話で、80年ふつうの国民として生きてきて、これから養子に迎えられる人たちは、まだ皇族ではありません。
当たり前ですね。

しかし「今はまだ国民でしょう」と返すと、今度は「皇族にした後の話だ」と言い直して逃げます。
「でもそんなの関係ねぇ」というおかしな主張と、「皇族にした後はそうだ」という正しい(でも、答えにはなっていない)主張を、都合よく行き来してごまかしているのです。

ChatGPTにて出力。登場するおじさんたちはフィクションです。実在の人物とは関係ありません。

少し難しい話ですが、こういうヘリクツを「モット・アンド・ベイリーの誤謬ごびゅう」といいます。
みなさんはマネしてはいけません。

モット・アンド・ベーリーの誤謬 - Wikipedia
それって本当に解決になるの?

さらに、この案には大きな穴があります。
6月にまとまった「立法府の総意」では、「養子となって皇族となられた方は皇位継承資格を持たない」とはっきり決められました。

皇族数確保「立法府の総意」の全文
「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する付帯決議に基づく政府における検討結果の報告を受けた立法府の対応」に関する衆参正副議長による議論のとりまとめ

つまり養子を迎えても、天皇になれる人はその場では一人も増えないのです。

では誰が天皇になるのかというと、その養子に生まれる「子ども」や「孫」の世代です。
ところが、その子に継承の権利を与えるかどうかは、まだ何も決まっていません。
いちばん大事なところが、空っぽのままなのです。

与えられたとしても、その子が「男子」でなければ継承はできません。
側室もなく少子化も進む今、特定の家に何代も男子が生まれ続けるというギャンブルは、悠仁さまお一人の問題を、形を変えてくり返すだけです。

これを進める人たちは「継承者だけでなく、公務をする皇族も足りないから」などとも言っていますが、それならすでにいる愛子さまたち女性皇族に、結婚後も残ってもらうだけで十分でしょう。
「男系男子」にこだわることが、この案の本当の目的をよく表しています。

何でこんなもん考えたの?

ではなぜ、こんなに穴だらけの案がゴリ押しされるのでしょうか。
それはこの案は20年ほど前、「愛子さまを天皇に」という流れを止めるために考え出されたものだからです。
(当時それを進めた政治家の多くは、今はもう政界にいません)

実はこの養子案を作るには、「門地による差別」よりも大きなハードルとして、皇室典範第9条があります。
そこには「天皇及び皇族は、養子をすることができない」とはっきり書かれているのです。

e-Gov 法令検索
電子政府の総合窓口(e-Gov)。法令(憲法・法律・政令・勅令・府省令・規則)の内容を検索して提供します。

これはどんなヘリクツでもごまかせないので、養子案を実現するには典範を変えなければいけません。

しかし冷静に考えれば、同じく典範を変えるのなら、ヨーロッパ各国のように女性・女系を認めるほうが効果も高く、憲法に反することもありません。
それでも養子案が推されるのは、「男系男子でなければならない!」と男尊女卑だんそんじょひにこだわる議員や有識者たちが、「旧宮家で男系男子は確保できる」という既成事実きせいじじつを先に作ってしまいたいからです。

国民の多くが直系ちょっけいである愛子さまの即位を望むのに、その声とは別のところで、法律の抜け穴を探してまで「男子だから」というだけで超・遠い親戚をさがす――。
この案がどれだけ無理のある話か、読んできたみなさんには見えてきたはずです。

今上陛下きんじょうへいかは「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と述べられました。
法案そのものはいま作られていますが、みなさんはどう思われますか。

皇位継承をめぐる「正副議長とりまとめ案」でまとまらない国会の迷走
皇位継承をめぐる国会論議が、また迷走している。衆参両院の正副議長が示した「取りまとめ案」は、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する案と、旧11宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案の2案を「いずれも了」とし、政府に法制化を求める内容だ。6...

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コメント

  1. 早川蒼真 より:

    記事の指摘は鋭い。
    でも、この記事の一番の問題は、憲法14条の「門地による差別の禁止(生まれた家で人を差別してはいけないというルール)」を持ち出せば、それだけで養子案を完全に否定できる、というように書いている点です。これは法律の考え方として、あまりに乱暴です。

    そもそも、憲法に書いてあることは、いつでも100%そのまま守られるわけではありません。憲法の中の権利同士がぶつかったときは、どちらかを少し制限して、バランスをとるのが普通なのです。

    一番分かりやすい例が「表現の自由」と「プライバシー」です。自由に発言したり書いたりする権利は大切ですが、だからといって他人の秘密を勝手に暴いていいわけではありません。ぶつかったときは、どちらかが制限されます。憲法とは、もともとそういうふうにバランスをとりながら使うものなのです。

    皇室の話も、まったく同じです。日本国憲法は第1条で「天皇は日本の象徴である」と決め、第2条で「天皇の位は世襲(その血筋の人が受け継ぐこと)で受け継ぐ」と決めています。でも「世襲」というのは、よく考えれば「ある特定の家の人だけを特別あつかいする」しくみです。つまり、天皇制そのものが、14条の「家で差別しない」というルールと、もともとぶつかる関係にあるのです。

    それでも憲法は天皇制を認めています。ということは、本当に考えるべきなのは「家柄で決めるから全部ダメ」という単純な話ではありません。皇室という特別なしくみの中で、どこまでが許されて、どこからが許されないのか――そのバランスをどうとるか、という問題のはずです。記事はこの一番大事な視点が、すっぽり抜けています。

    「憲法の権利同士はバランスをとる」という基本を無視して、「家柄差別だからアウト」とだけ言い切るのは、あまりに視野がせまいと言わざるをえません。
    話を単純にしすぎて一方に誘導することは悪です。