小泉大臣が目指す「平時に最適化されていない」社会とは何か?

小泉進次郎防衛大臣が「日本は平時に最適化され過ぎた。いかに変えるかが大きな一つの壁だ」と訴えた、という記事が目に付いた。ロシアのウクライナ侵略やイラン情勢を見ると、「過度な依存が何を生むか。脆弱性を強靭性に塗り替えないといけない」という危機意識が必要になるのだという。

小泉防衛相「平時に最適化され過ぎた」日本の安全保障に危機感 交詢社フォーラムで講演 産経新聞

小泉防衛相「平時に最適化され過ぎた」日本の安全保障に危機感 交詢社フォーラムで講演
小泉進次郎防衛相は14日、東京都千代田区の大手町サンケイプラザで開かれた第17回「交詢社オープンフォーラム」(産経新聞社後援)で講演した。激変する安全保障環境…

有事の可能性を全く想定しないのは危険だ、という主張は、もっともなことであるように感じる。ただ、記事の文面を見る限り、小泉大臣が言っているのは、それとは少し違う。平時から、有事対応に適した社会運営の仕組みを取っていくべきだ、と主張している。

小泉進次郎防衛大臣 防衛省HPより

有事に即応する体制を準備するだけでは足りない。平時から有事を想定した社会体制をとっておくべきである。

これは、経済運営などで中国への依存をなるべく減らそう、という呼びかけだ。中国は、実態として「仮想敵国」なので、経済分野であっても中国への依存があるのは「脆弱性」である、という主張である。

私が学生だった頃には、国際政治学の授業で「相互依存論(interdependence)」などが教えられていた。国家間の経済的な相互依存関係が進むと、戦争の損失が大きくなるので、戦争を回避する動機づけが強く働く、という理論であった。

この理論が正しいと、日本は中国と戦争をしたくない動機が強く働く。ということは、戦争を遂行しやすくするためには、あらかじめ相互依存を取り除いておかなければならない、ということだ。
これは、中国との戦争が不可避だとすれば、もっともな考え方ではある。

ただ、考えてみなければならないのは、なぜ経済的な相互依存は進むのか、ということだ。戦争を回避する目的のためではないだろう。

日本にとって中国との経済関係の進展に経済的合理性があったために、相互依存が進んだはずである。有事を想定して、相互依存を取り除く、ということは、経済的合理性を度外視する、ということだ。経済的な合理性にかかわらず、戦争を円滑に遂行するための社会体制の構築を優先する、ということである。

複雑な話ではない。有事に対応するための仕組みの構築を、経済的合理性に優先させる、という優先順位づけの話である。

もちろん仮想敵国・中国への依存さえ減らせばいいのだとすれば、同じように合理的な代替的な経済相手を見つけることさえできればいい。理論上は、それで問題は解決する。

だがそのような代替先が簡単には見つからないので、中国に依存していた部分が生まれた。経済的合理性を確保したうえでの代替先の安定的な確保は、簡単な話ではないはずだ。

これはホルムズ海峡に依存しているのは脆弱性が高いので、アメリカの原油を買おうとする際に見られているのと、同じ問題だ。原油は中東以外に地域にもあるので、理論上は、代替先の確保は難しい話ではない。しかし同じ品質の原油を、同じコストで確保するという命題を含ませると、話は変わってくる。

もっともだからこそ、経済的合理性を優先させるな、という政策命題の徹底が、一般国民に対しても、必要になる。

小泉大臣は「新しい戦争」という概念を多用しているようだ。防衛研究所の研究者たちが公刊した『「新たなる戦争」の諸相』(防衛研究所、2025年)を見ると、各章が「ウクライナ戦争の教訓」という視点から執筆されており、冒頭から、「第1章:中国人民解放軍に対するウクライナ戦争の教訓―台湾有事への影響を中心に―」、「第2章:中国が想定する将来の航空戦―人民解放軍はウクライナ戦争から何を学んでいるか」などの議論が並ぶ。

「新たなる戦争」の諸相-ウクライナ戦争の教訓と米中対峙の行方-
「新たなる戦争」の諸相-ウクライナ戦争の教訓と米中対峙の行方-

正直、「新しい戦争」という概念構成は、全く新しくない。今まで幾つのパターンの「新しい戦争」論があったのか、数えきれないくらいだ。たとえば冷戦終焉直後のメアリ・カルドーの議論は、邦訳もなされている。

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だが現在の日本における「新しい戦争」は、政府主導の政策概念である点が、特徴的だ。ロシアのウクライナ全面侵攻時に、日本の世論も大きな衝撃を受けたのを見て、防衛費の2倍増が決定された。正直に言って、「ロシア」と「ウクライナ」をめぐる数世紀に渡る確執と、ロシアと日本の関係は、全く異なる位相にある。ロシアのウクライナ全面侵攻は、欧州の話であり、東アジア情勢との関わりは乏しい。

しかし、防衛費の倍増という、まさに平時では不可能だっただろう政策の決定が、ロシアのウクライナ全面侵攻時の「雰囲気」でなされた。何に予算を使うのか、という内容の議論は、後から行うことになった。

政府としては「新しい戦争」の新しい時代が到来したので、予算の倍増、あるいはそれ以上のさらなる大幅増額が必要である、ということを、繰り返し与論に訴えていかなければならない。世論の動向が変わらなければ、今後、防衛費の3倍増、それ以上の増額も視野に入ってくる。他方、「雰囲気」に左右される世論の動向が変わってしまったら、そうした目論見は、砂上の楼閣に終わってしまうかもしれない。

防衛当局関係者が、世論の動向が変わっていかないように、嫌中感情に訴えて中国の脅威を強調する言論活動を積極的に行うようになってきている。

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また政府が積極的に「インフルエンサー」に働きかけて、防衛費の大幅増を含めた政府の防衛政策への理解を広める活動をしているのも周知の事実である。

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小泉進次郎防衛相は12日の参院外交防衛委員会で、国家安全保障戦略など「安保3文書」の改定に向けた説明を巡り、防衛や安保分野の専門家ではないインフルエンサーへの…

「安保三文書」改訂有識者会議では、いわゆる「ウクライナ応援団」系の「インフルエンサー」の国際政治学者が複数入っている。各氏の主張は、政府の立場と同じであり、小泉大臣も、「インフルエンサー」有識者を積極的に盛り立てている(以下の小泉大臣のポストでは言及されていないが登壇者のうち二名が有識者会議メンバーである)。

日本の防衛関係者は、いまだに「サヨクが・・・」という被害者的なレトリックを使う。しかし、実際には、現在の日本の防衛政策に対する左派系の人びとの影響力は極小化されてきている。世論は軍拡支持、嫌中の方向に強く振れている。日本の防衛コミュニティが、軍拡・嫌中を支持する「インフルエンサー」を多々抱え込み、防衛費拡大を既定路線とした政府と世論に強い影響力を持っている現状は、日本の戦後史において、まさに「新しい」状況であると言える。

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