不動産の価値向上:日本企業の本社ビル売却などが活発化する中で

私が2004年にカナダの会社を買収した際に資金融資をしてくれた当時の銀行マンから20年ぶりに連絡がありました。「ひろ、俺は今、君が元管理していたホテルのオーナー会社の財務担当なんだけど、久々に会えるか?」と。そこで当該ホテルのロビーバーで再会しました。私から見れば彼は私の人生を180度変えるのに最も重要なピースである銀行融資の担当者で恩人中の恩人、忘れられない人であります。

よりによってその彼が私が元役員だったホテルの所有会社の財務担当副社長、なんというめぐりあわせでしょう。会うというなら何か仕事の話があるかもしれないと構えているとやはりマリーナの話になったので私から「ホテルが持っている商業専用のマリーナ、メンテ大変でしょう、うちでやってあげようか」と。「なんなら買い取ってもよいですよ」と先手で攻めました。なぜなら先方は私のマリーナが欲しいと言いかねなかったからです。彼は「ホテルのマリーナを買うというのか?むしろオタクのマリーナを買いたいぐらいだけど」と予想通りの展開。そこで返したのが「私のマリーナについては今まで多くの買取提案をもらっているけど一切売る気はないですよ」とそこはパシッと言い切りました。結局、マリーナの管理業務を私どもでやらせてもらえるか彼がオーナーに話をしてもらうという私の目論見の展開になりました。

その会社の主業は高層住宅開発。つまりかつての私とライバル関係。その彼に「不動産不況の真っただ中、どうされているの?」と聞けば既に3年間新規開発案件は凍結で今は既に着手した案件だけを黙々と建築していると。当地の不動産の甘いも酸っぱいも知り尽くしている私としては最大手不動産デベでも3年フリーズとは相当のダメージだということが手に取るようにわかります。

日本でも建築費高騰で開発が中断したり、延期したり、大幅な計画変更ばかりです。また企業が本社ビルなど所有する不動産を売却する動きも活発で2025年度の金額は1.23兆円となり、18年ぶりの高水準になっています。大昔、私が取り上げたアセットライトという発想の一環ですが、私はあえて「餅は餅屋」と申し上げたいと思います。つまり一般企業が不動産を持っていてもそれを十分にメンテし、長期計画し、更には有効活用ができていないのなら不動産を専門に扱う会社に売って賃貸なりリースバックするのが賢明だといえそうです。

kurosuke/iStock

上述のマリーナの話もそう。私どもはマリーナの管理運営業務を直営、自前で行います。特に傷みが激しい水道管の補修はお手の物で材料も全部そろっているので瞬く間に修理できますが、これを外注すれば1週間かけて費用は20万円という請求にいちいちブチ切れなくてはいけないのです。大手不動産開発会社は超高層の建物は作れるけど水道管の修理ひとつ直接は出来ないのであります。だからこそ「マリーナの保守運営ができるのは売りになる」わけです。

日本の建築費高騰ですが、正直、建築会社が吹っ掛けすぎているとみています。その請負はほとんどが一括請負です。これを北米流のCM(コンストラクション マネージメント)契約に変えるとそれだけでざっくり2割から3割は費用を下げることができます。なぜならゼネコンは建築コストオーバーランのリスクが無くなり、フィービジネスになるからです。

では日本でCM形態が育たない理由は何か、それは究極的には国交省の入札制度に問題があるからです。どういうことかと言えば公共工事の入札においてその建設会社の過去3年の完成工事高が経営事項審査に引っかかるのです。よってフィービジネスだと工事費の十数パーセントしか売り上げに上がらないけれど、一括請負なら何十億円も計上できます。「大きいことはいいことだ」を全く変えられないゼネコンと国交省の閉鎖的体質が生み出した建築費増と言ってもよいのです。

しかし、そろそろ民間企業もCM発注を研究すべきでしょう。ここで一番大事なのは一つの工事で取引する全部の工事業者、規模によりますが、通常50-100社になると思いますが、を発注者である企業側が契約、管理、支払いをする覚悟があるか、です。つまり業者の仕事が悪ければ「払えないな」という目利きになれるか、です。一方の協力業者も今まではゼネコンに甘えられたものの「時代は変わった」と悟るようになるでしょう。

商業不動産の場合、どれだけ効率的な建物を作り、どれだけしっかりした管理をしながらどれだけテナントを埋め、不動産価値を上昇させることができるか、これがその全てであります。

琵琶湖のそばにピエリ守山というショッピングモールがあるのですが、これが波乱万丈のモールであることを知る人はどれぐらいいらっしゃるでしょうか?リーマンショックの5日前に開業、200店舗もあったテナントは退去に次ぐ退去で最後には数店舗に。それでも明るい廃墟と言われたほどメンテをし続け、2014年に運営会社が変わり今ではすっかり賑わいを取り戻しました。復活の手法は「他にないものを取り入れた」です。

一方、「他にないもの」を取り入れて失敗したのが大阪駅直結の「グラングリーン」というフードコート。地元の方はご存じだと思いますが、オープン時には1万円近いピザとか数千円台がずらりと並ぶメニューに大阪人は激おこ、誰も来ない廃墟フードコートになったのです。運営は英国のタイムアウトグループでコンセプトは食の先端を行くおしゃれな場所を目指したのですが、大阪人に響かなかったのです。そこで今では近所のサラリーマンが払える1500円ぐらいのランチ提供に代わってきているようです。

結局不動産はどう生かすか、そのテクニックは奥深く、時代と共に変化するなかで現場の空気を嗅ぎ取り続けなければわからなないことが殆どです。そして「俺は不動産の専門家」と称する人の多くも机上の専門家であったりして本当の解にたどり着くのは至難の業だと申し上げます。

総じて言えることは不動産の価値を上げるも下げるも企業のブランド名や資金力ばかりではなく、割と個人の才覚に依存するところはあるように感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年6月17日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

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