東京都心の住宅価格と家賃の上昇が止まらない。共働きの子育て世帯であっても、都心部に住み続けることは難しくなりつつある。職場は都心に集中しているのに、住まいはどんどん遠ざかる。これでは通勤負担は重くなり、子育て環境も悪化する。

そこで東京都が打ち出したのが、アフォーダブル住宅を再開発の「公共貢献」として評価し、容積率を緩和する仕組みである。アフォーダブル住宅とは、一般に周辺相場より割安な家賃で提供される住宅を指す。
低家賃の住宅を建てるとオフィスビルに容積率ボーナス
今回の東京都の構想では、家賃を相場より2割程度安く抑えた住宅を、大型再開発と組み合わせて整備する。事業者が割安住宅を供給すれば、その見返りとして再開発ビルの容積率を上乗せする。つまり、民間の開発利益の一部を、都心居住の維持に振り向ける制度だ。

築地再開発のオフィスビル(左)とアフォーダブル住宅
注目すべきは、対象となる住宅が必ずしも再開発エリア内に限られない点である。中央区築地の再開発では、住友不動産が地上29階・31階建てのビル2棟を建設する一方、同じ中央区内で既存マンションを改修し、子育て世帯向けのアフォーダブル住宅を約50戸整備する。これにより、再開発エリアの容積率は本来の600%から約1350%まで緩和される見通しだ。
渋谷区神南でも、東急不動産が地上24階建てのビルを建設し、あわせて区内のマンションなどをアフォーダブル住宅に改修する案が検討されている。こちらも容積率は約600%から1230%まで引き上げられる見通しである。
これは「隔地貢献」と呼ばれる考え方だ。従来、容積率緩和の根拠となる公共貢献は、公開空地の整備、歩行者動線の改善、地下鉄駅との接続、防災機能の強化など、再開発区域内で行われるものが中心だった。だが今回は、開発区域から離れた場所であっても、都心の住宅問題に資するなら公共貢献として評価する。ここに制度上の新しさがある。
住宅供給を増やす効果は限定的
この仕組みは、再開発を促す効果を持つ。都心再開発の最大の制約は、採算と合意形成である。容積率が上がれば、事業者はより多くの床を確保できる。オフィス、商業、ホテル、住宅などの収益床を増やせるため、事業の採算性は改善する。建設費が高騰し、金利も上昇しつつある局面では、容積率緩和は事業者にとって極めて大きなインセンティブになる。
一方で、行政側にも利点がある。都が直接すべての住宅を建てるには限界がある。財政負担も大きい。そこで民間の再開発利益を使って、割安な住宅を一定数確保する。これは補助金をばらまくよりも、都市計画上は合理的な手法である。
ただし、過大な期待は禁物だ。中央区の事例で整備されるアフォーダブル住宅は約50戸である。東京都の官民ファンドでも供給見込みは計350戸規模だ。JKK東京の公社住宅活用も含めれば数は増えるが、東京23区全体の住宅需要から見れば、まだ限定的である。家賃高騰を根本的に抑えるほどの規模ではない。
住宅供給を増やす規制改革を
制度設計で重要なのは、透明性である。どの程度の家賃水準を「アフォーダブル」と呼ぶのか。相場の8割という基準を、どの地域、どの時点、どの物件タイプで測るのか。入居対象は子育て世帯、新婚世帯、一定所得以下の世帯に限定するのか。家賃を割安にする期間は何年なのか。こうした条件が曖昧なままだと、一部の財閥系企業だけがもうかる制度になる。
もう一つの課題は、都心通勤圏にある既存ストックの活用である。都心に新築住宅を大量供給するだけでは限界がある。空き家、老朽マンション、使われなくなった中小オフィスビルを住宅に転用することも欠かせない。千代田区がマンションの空き物件改修やオフィスビルの住宅転用を促す補助事業を始めようとしているのは、その意味で現実的な方向だ。
都心の住宅難の本質は、住みたい人が多い場所に、十分な土地と住宅が供給されていないことにある。アフォーダブル住宅だけを増やしても問題は解決しない。必要なのは借地借家法などの障害を取り除き、都心部とその周辺で住宅供給を増やす規制改革である。







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