バチカンニュースが24日報じたところによると、ベトナムのローマ・カトリック教会はフランシス・ザビエル・チュオン・ブー・ディエップ神父(1897-1946)の列福式に7万人以上が参列すると見込んでいる。貧しい農村地域での活動で知られるディエップ神父は、7月2日に巡礼地であり、埋葬地でもあるタクサイで列福式が行われる。教皇レオ14世は、フィリピンのルイス・アントニオ・タグレ枢機卿を派遣し、式典を執り行わせる。主催者は5ヘクタールの敷地を使用し、大型スクリーンを設置する予定だ。

路上で祈るベトナム人青年、バチカンニュース、2026年6月24日
ディエップ神父はメコンデルタ地域と、現在のカンボジア領となった地域で奉仕していた。第一次インドシナ戦争中、危険を顧みず、託された信徒たちと共に留まり、日本兵によって殺害された。彼の崇敬は、ベトナムのカトリック共同体にとどまらず、広く世界に及んでいる。
ちなみに、神父の死を巡ってはベトナム共産主義勢力(ベトミン)による殺害説など様々な憶測や誤解があったが、、バチカンの承認を得て地元カントー教区が実施した詳細な調査により、歴史的真相が明らかになった。1945年8月の終戦後、連合国軍への降伏を拒否してベトナム現地に潜伏・残留し、現地の共産主義勢力や武装組織に合流(身を投下)した2人の日本軍脱走兵によるものと特定された
殺害の動機は、地元の地主らが日本兵と共謀し、報復として神父を暗殺させた個人的な怨恨と、神父のキリスト教信仰に対する敵意が原因だったという。神父は拘束された70人以上のカトリック信者の命を救うため、自ら身代わりとなって出頭した。その後、激しい拷問を受け、銃撃されて殺害された後、遺体は川に遺棄された。
長年の調査を経て、2024年11月25日、前教皇フランシスコが「ディエップ神父は信仰への憎悪(殉教)によって殺害された」と正式に宣言した。これにより共産主義者による殺害という政治的誤解が解け、2026年7月2日にベトナム現地で厳粛な列福式が挙行される運びとなったわけだ。
ベトナムのカトリック教会は、政治的に制約の多い環境下で活動している。約700万人のカトリック信者が信仰を実践し、教会は教区、小教区、教育機関の密なネットワークを有しているが、宗教団体は共産党指導部による国家統制下に置かれている。一方で、近年、ローマ教皇庁とベトナムの関係は著しく改善している。
2025年9月12日、バチカン市国で第12回ベトナム・ローマ教皇庁合同作業部会の会合が開催された。会合では、ベトナム外務省のレ・ティ・トゥ・ハン副大臣とバチカンのミロスワフ・ワホフスキ外務次官が共同議長を務め、二国間関係とベトナムにおけるカトリック教会の現状について集中的な意見交換が行われた。バチカンによると、双方はベトナムのカトリック信者が福音の精神に基づいて信仰を実践すると同時に、「良き市民」として公共の利益に貢献しているという確信を共有したという。
ベトナムのカトリック教徒は全人口の約6.1%と東南アジアではフィリピンに次ぐ規模。フランス植民地時代に定着した教徒たちだ。歴史的に深く根付いているのは大乗仏教で全人口の約4・8%でカトリック信者数より少ない。ちなみに、プロテスタントは約1・1%だ。
レオ14世教皇は今年4月24日、ローマを訪問中のベトナム教会司教団と会合した。それに先立ち、ベトナムのチャン・タイン・マン国会議長と会見した。国会議長は教皇をベトナムに招待した。
ところで、バチカン(聖座)は、184の国および地域と外交関係を有しているが、共産主義国の中国とベトナム両国とは依然、正式の外交関係がない。
中国とバチカンの間には依然として公式な国交がなく、深い溝が残っている。中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産党政権と一体化した「中国天主教愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。
一方、バチカンとベトナムの関係は前進してきた。2023年12月、バチカンはベトナムの首都ハノイに「常駐バチカン代表(教皇代表)」を設置した。正式な大使館ではないものの、事実上の外交拠点が確立されている。両国は「ベトナム・バチカン合同作業部会」を定期的に開催しており、首脳・閣僚級のインフォーマルな対話が機能している。ベトナム政府は国内のカトリック教会による社会発展への貢献を高く評価する方針を示しており、信徒の司牧活動についても徐々に規制を緩和している。
司教の任命権については バチカンとベトナムは「ベトナム方式」を確立。バチカンが候補を選び、政府が同意(またはその逆)する形で、対立を避けるシステムが機能している。一方、バチカンと中国間では司教の任命問題が依然、大きなハードルとなっている。両国は2018年9月、司教任命権問題で北京との間で暫定合意(ad experimentum)を結んだものの、中国側がバチカンの承諾なしに司教を任命する事案が度々発生し、不信感が根強い。
宗教の管理方針については、ベトナム政府は独自の「宗教信仰法」で管理しつつも、バチカンを「スピリチュアルな指導者」として認め、対話を歓迎する姿勢を示している。一方、中国は「宗教の中国化」を掲げ、共産党の統制下にある「中国天主教愛国会」を重視。ローマ教皇の権威が国内に及ぶことを強く警戒している、といった具合だ。
なお、ベトナムは社会主義国家として宗教への警戒心を有しているが、バチカンとの関係を「主権侵害」とみなすのではなく、「多国間外交の一環」として実利的に対話を進めている。これに対し中国は、共産党による一元管理と台湾問題を優先するため、バチカンとの間で常駐代表の設置はおろか、基本的な信頼関係の構築すらベトナムほど進んでいない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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