皇室典範改正:「戦後レジームからの脱却」という思想運動の現在

皇室典範が改正された。戦後3回目の皇室典範の改正だが、1949年は宮内府を宮内庁に改めるなど行政組織変更に伴う技術的改正だった。2017年改正は、明仁天皇の意をくんで退位を一代限りで可能にしたものだった。今回の改正が、国会の政策判断で行った初の皇室典範改正と言える。国会の多数派勢力が、天皇制のあり方の規定に踏み込んできた、ということである。

今回の改正内容は、結婚後も女性皇族が皇室に残ることや、旧宮家出身の男系男子を養子縁組で皇族とすることを可能にするもので、一見すると、技術的なものであるように見えないことはない。しかし、女性皇族の夫と子は皇族とせず、養子となった男子に子が生まれれば皇位継承資格を認める改正内容の趣旨は、男系男子による皇位継承を続けるための皇族数確保だ。

これについて男尊女卑の改正であるという批判がなされている。それは正しい。

より憲法論に即して言うと、大日本帝国憲法制定時に作られた皇室典範の「男系男子」の規定を強化することを目指していると言える。養子を含めて「世襲」を理解するという踏み込んだ制度を作り出して、「男系男子」制度を維持しようとするものだ。

特徴的なのは、今回の皇室典範の改正にあたって、日本の天皇制は2600年に渡る男系男子の制度を持っている、といった言説が、小林鷹之・政調会長ら自民党有力議員を中心にした勢力から、出てきたことだ。

その含意は、天皇制は、1947年に成立した日本国憲法を遥かに超えた伝統によって支えられている、というものだ。いわば、天皇制に、超憲法的な権威を持たせることを願う勢力が、今回の皇室典範改正の支持勢力だと言える。

日本国憲法は「世襲」を定めつつ、「男系男子」についてはふれていない。代わりに男女平等を定めている。女性天皇を可能にする「男女平等」の「世襲」優先の皇室典範の改正のほうが、日本国憲法の制度にはそっている。

しかし今回の改正は、真逆の方向への運動を推進する趣旨を持っている。「男系男子」という神話的な思想によって支えられるイデオロギー的な「天皇制」を、日本国憲法を超えた権威とみなす、という思想運動を推進する趣旨だ。

かつて安倍晋三氏は、「戦後レジームからの脱却」というスローガンを掲げ、強い復古主義的思想を持つ人物として警戒されていた。ただし、(特に第二次政権時の)首相就任後は、穏健な現実主義的な面も併せ持ち、長期政権の運営にあたった。

安倍首相を評価する勢力には、復古主義的な思想を評価する勢力と、政策の現実的な妥当性を評価する勢力が、混在していた。

現在の高市政権を支える勢力は、前者の思想的な面を重視する傾向が強い。「戦後レジームからの脱却」路線の思想である。

安倍晋三元首相と高市早苗首相 自民党HPより

日本国憲法を超えた「伝統」の根拠として天皇制を定義し直すことは、「戦後レジームからの脱却」を目指す勢力にとって、大きな意味を持つこととみなされている。

高市政権が、現実的な外交を目指しているかはいまだ不明で、成果はまだ見られない。他方において、「戦後レジームからの脱却」路線の思想運動の推進は、成果をあげ、その勢力を広げているところだと言える。

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