
(前回:そのカプセル、原料は石油かもしれません)
朝の分だけで14錠だった。
昼が9錠。夜が11錠。84歳、女性。去年まで伺っていたお宅。テーブルに広げられたそれを、私はしばらく黙って見ていた。娘さんが言った。「毎回、飲ませるのに30分かかるんです」。
30分。食事は15分で終わるのに。
——という話をする前に、順序として書いておかなきゃいけないことがある。
個人輸入のサプリには、日本の医薬品副作用被害救済制度が適用されない。何かあっても国は助けない。品質も効果も副作用も全部自己責任。これは事実です。動かない。
で、こう書くと皆さんこう来る。「じゃあ個人輸入は危ない、病院の薬は安全なんですね」。
……そう来るか。毎回そう来る。
25年で見てきたもの
在宅医を25年。重度認知症の患者さんを300人以上。その25年で私が見てきたのは、正規に処方された薬でボロボロになった高齢者です。数えきれない。ほんとに、数えきれない。
副作用が出れば、それを抑えるために薬が1種類足される。足した薬に副作用が出れば、また1種類。肝臓は悲鳴を上げ、腎臓は限界を超えて、意識は朦朧としている。それでも処方は続く。続くんですよ。
「説明しましたよね」
「体質ですよね」
「年齢的なものですから」
この3つ。この3つで免責される。免責されてしまう。
冷静に書こうと思ってたんですけどね。やっぱり腹が立つ。いや落ち着こう。落ち着きます。落ち着くけど、許してはいない。
誤解されると困るので書いておくと、私は処方薬を否定してません。毎日、自分で処方箋を書いてる。命を救う薬は確実にあるし、薬でしかどうにもならない病気は山ほどある。当たり前だ。
言いたいのはそこじゃなくて、「正規ルートだから安全」が幻想だってこと。それだけ。
安全はルートが保証してくれるものじゃない。誰が責任を負って、どこまで調べたか。それだけ。処方だから安心、輸入だから危険——この二分法、考えるのをやめるための看板としてはよくできてると思う。看板は楽ですからね。何も考えなくていい。
180歳の話(笑わないでほしい)
私は180歳まで生きるつもりで、毎日を逆算して設計してます。
馬鹿げてる。自分でもそう思う。妻には鼻で笑われた。
それでもこの数字には意味があって、50年先、80年先を視野に入れた瞬間、あらゆる選択がトレードオフになるんです。何を摂るか、何を避けるか、何をしないか。全部に損得がある。完璧な選択はない。どこにもない。
目先の1年なら「効きそうだから飲む」で済む話が、50年の物差しを当てた途端、まったく違う顔をする。
処方薬にもリスクがある。サプリにもある。そして——ここが抜けがちなんですが——何も摂らないことにもリスクがある。必要な栄養が足りないまま年を重ねること。静かに、確実に進むやつ。
だから問いを変えたほうがいい。「リスクがあるか、ないか」じゃない。「どのリスクが、あなたに効いてくるか」です。
180歳から逆算すると、「何もしない」がいちばん高くつく選択かもしれない。かもしれない、としか言えませんが。
自分の薬の名前も知らずに飲み続けてる人と、自分で調べて成分を確認して飲み合わせをチェックして選んでる人。どっちが危ないか。少なくとも看板の色では決まらない。
自己責任って言葉、たいてい人を突き放すために使われる。でも本来あれ、「主導権が自分にある」って意味のはずなんですよ。
材料を持たない自己責任は、ただの丸投げ。材料を揃えた自己責任だけが、選択と呼べる。
……と、ここまで書いてはみたものの。あの14錠のテーブルを思い出すと、結局のところ私は何もできてない。それが正直なところです。
※ここでは、本編のエピソードをラノベ調コラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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『飲んではいけないサプリメント 飲んでもいいサプリメント』(石黒 伸 著)三笠書房
■ 採点結果
【基礎点】 39点/50点(テーマ、論理構造、完成度、訴求力)
【技術点】 21点/25点(文章技術、構成技術)
【内容点】 19点/25点(独創性、説得性)
■ 最終スコア 【79点/100点】
■ 評価ランク ★★★ 標準的な良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
判断軸の提示:冒頭で「何を飲むかより、どんなものを、どれだけ飲むか」という軸を立て、成分リストの暗記本に堕することを回避している。読者が売り場で自力判断できる設計。また、「チーム」の比喩で貫き、「単離すると壊れる」という抽象概念を反復定着させている。
実用情報の密度:ラベルの「d」か「dl」の一文字という識別子は、店頭で即座に機能する。抽象論に逃げない具体性がある。在宅医25年、重度認知症300人という経験が「覚悟と天秤」の章で作用し、「正規ルートだから安全」への懐疑を単なる主張以上のものにしている。
【課題・改善点】
数値の検証不足:出所が特定できない個所が散見される。この種の書籍は数値ひとつで全体の信頼が崩れ、批判者は必ずここを起点にする。主張の強い書籍ほど脚注の厚みが防具になるが、その備えが十分とは言えない。
主題の混線:末尾の処方薬批判は迫力があるものの、「飲んでいいサプリを知りたい」という購買動機との接続が弱い。「180歳」も根拠を示さずに置かれており、積み上げた信頼を末尾で崩しかねない。また、「飲んではいけない/飲んでもいい」という書名の型は『買ってはいけない』以来の系譜にあり、既視感が強い。最大の資産である医師としての経験が、書名にも構成の中心にも据えられていない。
■ 総評
判断軸の設定と統御は明確に上手く、実用情報の密度も高い。にもかかわらず及第に届かないのは、数値の詰めの甘さと出典の不在が主張の足元を崩し、恐怖訴求への部分的な依存が論理の一貫性を損ねているためである。加えて、在宅医25年という他書にない資産を書名にも構成の中心にも据えなかった結果、店頭では類書の一冊として埋没する。
裏を返せば、数値と典拠を固め、現場経験を前面に立てるだけで、本書は80点台半ばを大きく超える。惜しい、という一語に尽きる。文庫ではなく単行本にして、写真も物撮りにして見せたほうが説得力は増したと考えている。








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