
「PDCAを徹底しましょう」「まず計画を立てましょう」。
こう言うコンサルタントに、私は一つだけ問いたい。
あなたは自分のクライアントの事業計画を、最初から最後まで一緒に伴走支援したことがあるか、と。
おそらく答えはノーだ。
なぜなら、本当に事業計画の作成から実行まで伴走した経験があれば、「まず計画を立てましょう」という言葉がいかに残酷かを知っているはずだからだ。
何も分からない状態で、いきなりPlan(計画)を立てろと言われる。それは登山地図も現在地も教えずに「山頂を目指せ」と命じるに等しい。
社長が計画を書けないのは、能力が低いからではない。
現状認識がないままでは、Planのハードルが高すぎるからだ。
現状認識なしにどうやって目的地への道を決められるのか
地図を持つことの重要性は、以前ハンガリー軍偵察隊の逸話で述べた。しかし地図を持つことと同様に、あるいはそれ以上に重要なことがある。
自分が今どこにいるかを知ることだ。
現在地が分からなければ、目的地への道は決められない。
これは当たり前に聞こえるが、多くのコンサルタントが推奨するPDCAの手順は、この当たり前を無視している。
現在地の確認(現状認識)を省略したまま、いきなり目的地(計画)を書かせようとする。
財務コンサルタントとして30社以上の現場に関わった経験から、私はこう断言できる。事業計画が書けない社長の大半は、能力がないのではなく、自社の現状を正確に把握していないのだ。
試算表を毎月見ていない。
資金繰りの構造を理解していない。
粗利の推移を把握していない。
その状態でPlanを書けと言われても、書けるはずがない。
書いたとしても、それは現実と切り離された「願望の羅列」になる。
だから私はCAP-Doで動く
私はこの問題を解決するために、PDCAではなくCAP-Doという順序で動く。
C(Check=現状把握)→ A(Act=問題の特定と方向付け)→ P(Plan=根拠ある計画)→ Do(実行)。
まず財務数字という客観的事実を直視することから始める。
試算表、資金繰り表、粗利の構造——これらを社長と一緒に確認することが最初の仕事だ。数字を見れば、会社の現在地が分かる。現在地が分かれば、問題が見える。問題が見えて初めて、どこへ向かうべきかの方向が定まる。
その上で初めて、根拠のある計画が書けるようになる。
この順序は、デミング博士が生涯をかけて守った思想と同じ構造を持つ。前回述べた通り、デミングはCheckではなくStudy(学習)を重視した。
現実から学ぶことを出発点に置いたのだ。
また、これは科学的方法論そのものでもある。
科学者は仮説を立てる前に、まず観察する。観察なき仮説は妄想だ。同様に、現状認識なき計画は絵に描いた餅だ。
「現状を直視する」ことが、なぜ計画への第一歩になるのか
心理学者のガブリエル・エッティンゲンはWOOP理論で、こう示した。ゴールを達成するためには、障害(Obstacle)をまず直視することが不可欠だ、と。ポジティブシンキングで計画だけ立てても目標達成率は上がらない。障害を具体的に見つめた上で計画を立てた人間の方が、はるかに高い確率で目標を達成する。
財務診断はまさに、このObstacleを明確にするプロセスだ。試算表を見て「資金繰りがここで詰まっている」「粗利率がここ3年で5ポイント落ちている」という現実を直視する。その上で立てた計画には、現実の根拠がある。蓋然性がある。
事業価値担保権について質問された全銀協・加藤会長が「事業計画の蓋然性を検証する」と述べたことを紹介した。蓋然性の高い計画は、どこから生まれるか。現状認識の深さから生まれる。現在地を正確に把握している社長だけが、誰が読んでも「なるほど、そうなりそうだ」と思える計画を書ける。
「PDCAを回せ」は、思考の省略だ
PDCAを声高に唱えるコンサルタントの多くは、Planの手前に何があるべきかを語らない。
なぜなら、現状認識のプロセスは地味で時間がかかり、泥臭い作業だからだ。試算表を一行ずつ確認し、社長に「この数字はどういう意味ですか」と問い続ける作業は、華やかな「計画立案ワークショップ」ほど見栄えがしない。
しかしこの泥臭い作業を省略した瞬間、計画は根を失う。地に足のつかない計画書が量産され、誰も読まない棚の肥やしになる。
事業計画が書けないのは、社長の問題ではない。現状認識を省略したまま計画を書かせようとする、手順の問題だ。
C(現状を知る)→ A(問題を特定する)→ P(道筋を決める)→ Do(動く)。
この順序でしか、蓋然性のある事業計画は生まれない。







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