日本政府は半導体産業の復活に巨額の資金を投入しているが、工場に補助金を出せば半導体が生産できるわけではない。最先端工場を動かすためには、24時間365日、大量かつ安定した電力が必要だからだ。いま日本の半導体戦略で最大のボトルネックは、技術でも資金でもない。電力である。
政府が半導体に10兆円投資、しかし電力は足りるのか
政府の「AI・半導体産業基盤強化フレーム」では、2030年度までにAI・半導体分野へ10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円超の官民投資を促すとしている。経済波及効果は約160兆円を見込む。半導体については国内生産企業の売上高を2030年に15兆円、2040年には40兆円まで引き上げる構想だ。
熊本のJASMには第1、第2工場合わせて約1.2兆円の政府支援が決まり、第2工場だけでも最大7320億円の助成が予定されている。北海道ではラピダスが2027年の2nm半導体量産を目指し、2026年には政府・民間から約2676億円を調達した。
問題は、その先である。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2026年度需要想定によると、データセンターと半導体工場の新増設による追加的な最大電力需要は2026年度の83万kWから、2035年度には762万kWへ膨らむ。2035年度の内訳はデータセンター661万kWしかない。
半導体工場だけでも101万kWである。年間電力量でも半導体工場だけで74億kWhが追加される想定だ。半導体工場の増設分だけで、大型原発1基に匹敵する電力需要が新たに発生する計算になる。
人口が減るのに電力需要は増える
これまで日本では、人口減少と省エネによって電力需要は減少すると考えられてきたが、その前提が崩れた。OCCTOは、2025年度の最大需要電力1.59億kWが2035年度には1.65億kWまで増加すると予測している。
人口は同じ期間に1.23億人から1.17億人へ減る想定なのに、最大電力需要は年率0.4%で増える。原因として明示されているのが、データセンターと半導体工場である。
政府の第7次エネルギー基本計画も、2040年度の発電電力量を1.1~1.2兆kWh程度と想定している。人口減少社会なのに、AI、データセンター、半導体によって再び「電力需要増加時代」に入ろうとしている。発電所や送電線は、半導体工場のように補助金を出して2、3年で完成するものではない。
九州では2028年から供給力に警告
この矛盾が最も鮮明なのが、TSMCを誘致して「新生シリコンアイランド」を目指す九州である。OCCTOの2026年度供給計画では、電源の休廃止などを考慮すると、九州は2028年度から2035年度まで8年連続で供給信頼度の基準となる目標停電量を超過するとの試算になっている。
もちろん、これは「2028年から停電する」という意味ではない。追加電源の確保や需要変化によって改善する可能性がある。実際、2026年度については全エリア、全月で11%以上の予備率が確保される見通しだ。
しかし、中長期では楽観できない。九州電力の西山勝社長は2026年7月、OCCTOが2035年度の九州需要を2025年度比約3%増と想定しているのに対し、半導体工場やデータセンターの計画を踏まえた九電独自の想定では、将来的に20~30%程度増加する可能性があると説明している。
この差はあまりにも大きい。九州では2026年3月に62.3万kWのひびき発電所が運転を始めたが、新小倉発電所のリプレースは2033年度の予定である。しかも現在の3、5号機合計120万kWに対し、新設備は90万kW級となる計画だ。
半導体政策より先にエネルギー供給の安定を
ここで日本の産業政策は発想を逆転させる必要がある。「半導体工場を誘致し、それに必要な電力を後から考える」のでは遅い。安価で安定した電力が大量に存在する場所に、半導体工場やデータセンターを立地させるのが本来の順序だ。
発電量だけ増やせばよいわけでもない。半導体工場では瞬間的な電圧低下でも生産設備に影響するため、発電所、送電網、変電所を含む電力インフラ全体への投資が必要になる。OCCTO自身も、大規模需要の接続申し込みが特定系統に集中し、ネットワーク増強との協調が課題になっていると指摘している。
天候で出力が変動する再生可能エネルギーは、24時間きわめて安定した電力供給を必要とする半導体工場への対策にならない。原子力、LNG火力、蓄電池、送電網を含めて使いたい時に使えるディスパッチャブル電源をどれだけ確保できるかが勝負になる。
日本の半導体戦略を成功させたいなら、経産省が最優先すべきなのは半導体企業への次の補助金ではない。まず原発再稼働を進め、非効率な原発審査体制の見直しやリプレイスの前倒しなどの電源確保と送電網への投資こそ、最大の半導体政策なのだ。







コメント
確かに、データセンターは電力多消費型産業であり、電源の手当てをどうするか、という点も考えなくてはいけない。これは確かですが、これと似たような話は、他の産業でもいくつかあり、「自家発電」ということも多く行われておりました。
石油化学コンビナートの場合は、熱源としてスチームも利用することから、火力発電所を中核にして、電力の供給とスチームの供給を合わせて行うことが一般的でした。大量の電力を消費するアルミニウム精練工場は、多くの場合、自家発電で電力を賄っておりました。データセンターや半導体工場も、同様に自家発電を検討するというオプションがあるでしょう。
電力多消費型産業が自家発電する意味は、電力消費側のプラント計画と発電所の建造を並行して進められるため、双方の調整がとり易く、計画がスムーズに進められるという利点が一つあります。また、発電所とデータセンターを接近させることで、送電経路が短縮され損失が少ないというメリットもあります。また、24時間365日稼働の設備であれば、発電量もほぼ一定であり、発電機はフル稼働が可能で、設備コストも最小化されるというメリットがあります。
熱源としてスチームが利用できれば、総合的な熱効率は非常に高くなります。データセンターの空調にスチームが利用できれば良いのですが、そうでない場合は有機ランキンサイクルを組み合わせたコンバインドサイクル構成で効率を稼ぐのが良いかもしれません。
データセンターは、停電が許されず、UPS(無停電電源装置)を組み合わせて使うことが一般的ですが、そうであれば最初からUPSを組み込む形で発電システムを計画すればよい。おそらくは直流発電機と電池とインバータの組み合わせで構成されるはずで、系統電力を整流して電池に供給する一般的なUPSと比べて設備が簡素化されるはずです。
あとは、発電機を扱える部署がデータセンターに必要となるという問題ですが、これは単にやればよいというだけの話であるように思えます。何分、他のプラントではすでに行っていることですから。また、データセンターへの電力供給というニーズは、あちこちで同じように発生するはずで、発電機メーカ側で、扱いやすい専用の発電システムを提供するというビジネスもあり得るでしょう。
似たようなやり方は、「パッケージボイラ」でも行われており、複雑なボイラーシステムを箱の中にパッケージングして、取り扱いを容易にした成功例はすでにあるのですね。発電機は少々大型になりますが、考え方は同じです。要は、自動化してオペレータの負荷を低減した標準的なシステムを提供する、ということですね。
確かに原子力発電は、このような目的に好適なのですが、今の日本で原発を作るとなりますと、そうそう簡単に話が進むとも思われません。データセンターや半導体産業が滞りなく立ち上がることを優先するなら、まずは、LNG火力発電で計画を進めるのが、先の見通しもよく、リスクも小さな道ではないかと、私は思います。