日本の財政については、「政府債務はGDPの200%を超えて世界一、金利が上がると財政が破綻する」という警告が繰り返されている。日本経済新聞に掲載された英フィナンシャル・タイムズ(FT)のコラムはその典型である。
すべての視線は円に 日本発の債務危機に現実味 (FT)https://t.co/OISPIqd76r
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) August 14, 2026
ジリアン・テット(FTの元東京特派員)は2026年度の国債費が31兆円に増え、歳出の約4分の1を占める「恐ろしい事態だ」と警告しているが、この記事には多くの数字の誤りがある。
「国債費31兆円」は利払費ではない
まず基本的な問題は、国債費と利払費の混同だ。財務省によると、2026年度の国債費は31兆2758億円だが、その内訳を見ると債務償還費が18.2兆円、利払費は13.4兆円である。(財務省)
18兆円あまりの債務償還費は、満期になった国債を償還するための会計上の支出であり、実際には国債整理基金特別会計が借換債を発行して相殺する。
FTは2029年度には国債費が歳出の約3分の1になるとしているが、財務省の試算では、2029年度の国債費は高成長ケースで41.3兆円、そのうち利払い費は21.6兆円である。歳出総額に占める本当の利払い費は約15%である。(財務省)
ネットの金利負担はGDPの0.1%
さらに新聞報道でほとんど無視されるのが、政府も巨額の利子を受け取っているという事実だ。政府は借金だけを持っているわけではない。外為特会を通じて米国債など大量の海外証券を保有しているほか、公的部門にはさまざまな金融資産がある。
たとえば2024年度の外国為替資金特別会計では、運用収入だけで4.8兆円あり、決算剰余金は5.3兆円に達している(財務省)。金利上昇は日本政府にとって支払いの増加要因である一方、米国債などからの受取利子を増やす面もある。
OECDと国民経済計算(SNA)の一般政府ベースで「受取利子-支払利子」を見ると、2023年の日本政府の金利負担はGDP比の0.1%にすぎない。

小川製作所
つまり支払超過ではあるものの、金額にすれば1兆円にも満たない程度で、ほぼ収支ゼロである。OECD34カ国の比較でも日本は7位と、純利払い負担は非常に小さいのだ。(小川製作所)
「政府債務はGDP比200%」も正しくない
ストックでも同じ問題がある。財政危機を論じるときには「日本政府の債務はGDP比200%超」という数字が必ず登場する。しかし、これは基本的にはグロスの負債であり、その反対側にある政府の資産を十分考慮していない。
Chien-Du-Lustigの論文は、中央・地方政府だけでなく、日本銀行、公的年金、政府系金融機関まで連結した統合政府のバランスシートを推計している。
これによれば2024年時点で、
・統合政府の資産:GDP比192%
・統合政府の負債:GDP比270%
・純負債:GDP比77.6%
であり、経済学的な純債務は約78%である。国が膨大な借金だけを抱えているというイメージは正確ではない。実態は巨額の円建て負債を抱える一方で、米国債、株式、基金など巨額の金融資産をもつ巨大な政府系ファンドに近い。
だからといって日本の財政が安全なわけではない
では、日本には財政問題がないのか。もちろん、そんなことはない。最大のリスクは、政府が短期・円建ての負債で長期の外貨・株式資産を大量に保有する巨大なドル買い・株買いポジションを抱えていることだ。
Chienらの推計では、統合政府の海外証券はGDP比約62%、国内株式は約42%に達する。円安や株高では大きな評価益が出るが、円高や株安になれば逆回転する。円が10%上昇するだけで、外貨資産にはGDP比約6.2%の評価損が発生する。(アゴラ)
金利についても安心はできない。今はゼロ金利の国債を2.8%の国債で借り換えているので平均金利は1%程度だが、利払いは急速に増えている。財務省の試算では平均金利が1%高くなると、2029年度の国債費はさらに3.8兆円増える。2%高ければ7.6兆円増える。(財務省)
日本政府はこれまで低金利の円で資金を調達し、米国債や株式など高い収益を生む資産を大量に保有するハイリスク運用で、巨大な債務を維持してきた。したがって本当の恐怖は、金利が大幅に上がって円高になり、外為特会などに大きな為替差損が出たときである。
そのリスクは小さくない。実質ゼロ金利の円は、世界のヘッジファンドのキャリートレードの最大の供給源であり、それが逆転すると2024年の「植田ショック」のような円高・株安が起こる。最悪の場合は、2009年のような強烈な円高・大不況になるリスクもある。
バランスシートの両側を見て財政を考えよう
もちろん日本の財政は楽観できない。高齢化による社会保障費の増加、金利上昇、外貨資産の為替リスクなど、長期的な問題は大きいが、それと「日本政府は世界最大の借金を抱え、歳出の4分の1を利払いに使い、財政が破綻する」というホラーストーリーは別である。
危機を論じるなら、グロスの借金だけではなく、資産と負債を含むバランスシートの両側を見るべきだ。日本の財政は心配すべき状況ではあるが、新聞の見出しから想像するほど恐るべき状況ではないのだ。







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