渋谷が変わってもこのカレーは変わらない:創業75年の「ムルギー」

渋谷という街ほど、「久しぶりに来たら別の街になっていた」という言葉が似合う場所もないでしょう。駅は巨大化し、見上げれば高層ビルが並んでいます。昔あった店を探そうとしても、道も変わっている。

そんな渋谷で、75年間ほぼ同じ場所でカレーを作り続けている店があります。道玄坂を上り、百軒店(ひゃっけんだな)の門をくぐった先にある「ムルギー」です。

1951年、戦後の渋谷で生まれたカレー

ムルギーの創業は1951(昭和26)年。今年で75周年を迎えます。創業者の松岡憲策氏はもともと鉱山技師でした。仕事で当時のビルマ、現在のミャンマーを訪れ、現地で出会ったカレーに魅了されたといいます。

帰国後、その味を日本人向けに工夫し、渋谷で店を始めました。最初の店名は「エクリヤ」で、その後「印度料理ムルギー」となりました。ちなみに「ムルギー」はヒンディー語で鶏肉を意味します。

今なら海外旅行で食べた料理を日本に持ち帰ることは珍しくありません。しかし1951年です。まだ海外旅行が庶民にとって夢だった時代に、渋谷でビルマ仕込みのカレーを出していたのですから、当時としては相当にハイカラな店だったはずです。

公式サイトによると、現在もルーから手作りし、スパイス以外の材料は国産にこだわっています。創業以来の味を守ることを大切にしているそうです。

ご飯が「山」になっています

ムルギーのカレーを見て、まず驚くのは盛り付けです。皿の中央に、ご飯がまるで山脈のように高くそびえています。その横に濃い色のカレー。人気の「玉子入りムルギーカリー」では、スライスしたゆで卵がきれいに並びます。

この山には、ちゃんと理由があります。創業者の松岡氏が山好きだったことから、この独特の形になったとされています。さらにカレーの上にかけられる白いミルクは「山の雪解け」をイメージしたものだそうです。

三代目によると、この山をどうやって盛り付けているのかは企業秘密とのことです。75年前から「映えるカレー」を作っていたわけです。

もっとも、もちろん見た目だけでこれほど長く店が続くはずはありません。ムルギーのカレーは、いま流行のスパイスカレーとも、ホテルの欧風カレーとも違います。「印度料理」と看板には書いてありますが、現在のインド料理店で出てくるカレーとも違います。「ムルギーのカレー」としか説明できないのです。

消えていった昭和の渋谷

もう一つ、この店を面白くしているのが「百軒店」という場所です。道玄坂から一歩入ったこの一帯には、渋谷の華やかな表通りとは違う空気が残っています。そして、その中でムルギーは1951年以来、同じ場所で商売を続けてきました。

とはいえ、75年間まったく何も変えなかったわけではありません。二代目の時代には、子育てや家事と店を両立するために営業時間を短縮しましたが、三代目が運営に加わり、2025年からは一部曜日で夜営業を復活させました。

ここが老舗の難しいところです。「昔と同じものを出し続ける」だけでは、昔と同じ店を守ることはできません。働く人も変わります。客も変わります。街も変わります。物価も変わります。その中で、残すものと変えるものを選び続けなければなりません。

ムルギーが75年間守ってきたのは、単なるカレーのレシピではありません。三代目は、変化の激しい渋谷で70年以上同じ場所に店があることに意味があり、「帰ってきたい」と思ってもらえる場所にしたいと語っています。目標は創業100年です。

久しぶりに渋谷へ行って、「何もかも変わってしまったな」と思ったら、道玄坂を少し上ってみてください。

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