高市早苗首相は8月15日の「終戦の日」、靖国神社の参拝を見送り、日本武道館の駐車場から靖国神社の方向に向かって「遙拝」した。神社の参拝作法である「二拝二拍手一拝」を行ったという。

さらに自民党総裁として、鈴木俊一幹事長を通じて私費で玉串料を奉納した。「参拝しないが、拝む」。異例ともいえる対応に、ネット上では賛否両論が広がっている。
「参拝できなくても思いを示した」と評価する声
遙拝とは、神社などから離れた場所で、その方向に向かって拝礼することだ。高市首相は全国戦没者追悼式に出席するため日本武道館を訪れ、その駐車場から靖国神社の方向へ拝礼した。靖国神社と日本武道館は近距離にあるが、あえて境内には入らなかった。
高市氏は首相就任前、靖国神社への参拝を続ける考えを繰り返し表明してきた。しかし首相就任後は秋季例大祭、2026年春季例大祭に続き、今回の終戦の日も直接参拝を見送った。背景には中国、韓国との外交関係への配慮があるとされている。
これを評価する人々からは、外交上の制約を抱える首相という立場にありながら、戦没者への追悼の意思を示したとの見方が出ている。「遙拝」は、高市氏なりに過去の主張と首相としての外交責任を両立させようとした苦肉の策だったともいえる。
「首相として参拝する」という公約はどうなったのか
しかし保守層からはきびしい批判もある。日本武道館と靖国神社は隣接している。それほど近くまで来ていながら境内には入らず、駐車場から靖国神社の方向を向いて拝むという行動は、「そこまでするなら参拝すればいいではないか」という疑問を生んだ。
高市氏は2021年の自民党総裁選では「首相になっても靖国神社に参拝する」と明言したが、首相になると「適時適切に判断する」という表現に変わった。首相になれば外交上の責任が重くなる。当然、政治家が立場に応じて政策判断を変えることはある。
だが、これまで「外国から批判されても参拝する」という姿勢そのものを政治的アイデンティティとしてきただけに、支持者からすれば肩透かしに感じるのも無理はない。
閣僚や国会議員は相次いで参拝
一方、高市内閣では小泉防衛相ら複数の閣僚が15日に靖国神社を参拝した。超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」も約90人規模で集団参拝した。中国政府は日本の閣僚らの参拝に強く抗議し、韓国政府も遺憾の意を表明した。
つまり、高市首相本人が参拝を見送っても、靖国問題そのものが外交問題にならなくなったわけではない。それなら首相本人が参拝しても同じだったのではないか、という議論も当然出てくる。
「全方位への配慮」は誰を満足させたのか
高市首相は直接参拝を見送ることで中国、韓国との決定的な摩擦を避けようとした。その一方で、玉串料を奉納し、さらに靖国神社の方向に遙拝することで保守支持層にも配慮した。
結果として今回の「遙拝」は、高市首相が首相就任前から抱えてきた矛盾を象徴する場面になった。靖国参拝の是非以上に問われているのは、高市氏が「政治家・高市早苗」と「内閣総理大臣・高市早苗」の間に生じた距離をどう説明するかである。
遙拝という珍しい対応は、その距離を埋める妙案だったのか。それとも、どちらにもいい顔をしようとした中途半端な対応だったのか。今回の賛否両論は、高市政権が今後も直面する「保守政治家としての主張」と「首相としての現実外交」の難しさを浮き彫りにしている。






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