「財源がない」と言う政治家は自らの報酬をどうするのか

政府は8月5日の臨時閣議で、飲食料品の消費税率を2027年4月から2年間、現行の8%から1%に引き下げる基本方針を決定した。残る1%分は中低所得者への給付で補い「実質ゼロ」とする。1989年の消費税導入以来、税率の引き下げは初めてである。

これに対し、自民党内から異論が噴出した。8月3日の党税制調査会と社会保障制度調査会の合同会議では、発言した75人のうち賛成65人、反対9人、中立1人。小野寺五典税調会長への一任という形で事実上了承されたが、反対論は消えていない。

財源を問う姿勢そのものは正論である。財源として名前が挙がる外国為替資金特別会計の剰余金は、その一部が既に防衛力強化の財源に充てられることが決まっており、為替動向にも左右される。日銀納付金とともに使途の広い一般会計に計上されるため、社会保障財源を全額穴埋めするのは難しい。代替財源の議論を欠いたまま進めてよいはずがない。

しかしこの主張には、決定的に欠けているものがある。自らのコストである。

物価が上がれば、据え置きは負担増になる

税率を据え置けば負担は変わらない、という理解は誤りである。消費税は価格に比例する。物価が上がれば、同じ税率でも支払う税額は自動的に増える。

反対派は物価高対策として給付を掲げており、何もしないと言っているわけではない。ただし給付にも財源が要る。減税を止めた結果として国民が受け入れることになるのは、実質的な負担増の継続である。

それを国民に受け入れさせようとするなら、求める側が自らの取り分に手をつける以外に、話を聞いてもらう方法はない。

ここで言う「自らの取り分」とは、歳費だけを指すのではない。

国会議員の歳費は月額129万4000円、年額1552万8000円。ここに期末手当が加わる。2026年6月の支給額は一般議員で約319万円と報じられており、年2回で600万円台になる。

だが本質的な問題は、その先にある手当群だ。調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)が月額100万円、年1200万円。立法事務費が月額65万円、年780万円。合わせて年間約1980万円が、歳費とは別に、いずれも非課税で支給されている。

このうち調査研究広報滞在費については、後述するとおり昨年8月から使途の公開が義務づけられた。一方の立法事務費には、いまも使途報告の義務がない。

四項目の合計は議員1人あたり年約4170万円。衆参713人で約297億円になる。公設秘書3人分の人件費や、市場相場を大きく下回る議員宿舎を含めれば、規模はさらに膨らむ。

2012年には、それをやっている

自ら削るべきだというのは理想論ではない。日本の政治は、負担増を国民に求める局面で、現にこの交換を実行してきた。

2012年5月、厳しい財政状況と東日本大震災への対処を理由に、歳費と期末手当を2年間12.88%減額する臨時特例法が成立した。同年11月の党首討論で、野田佳彦首相が安倍晋三自民党総裁に「議員定数削減が実現するまでの間の歳費削減」を提示し、自民党がこれを受け入れた。12月から削減幅は20%に拡大され、歳費は月額103万5200円となった。

消費税率引き上げを決めた民主・自民・公明の3党合意と、この削減は同じ時期の産物である。当時の政治は、国民に負担を求めるには自らを削るほかないと理解していた。

そして2014年4月末、特例は期限切れで終了し、歳費は129万4000円に戻った。前提だった定数削減は、いまも実現していない。

昨年11月、与党は歳費を月額5万円引き上げて134万4000円とする方針を示した。世論の反発を受け、12月に成立した改正歳費法では引き上げは見送られ、付則を加えるにとどまっている。今年5月には、物価高を踏まえて期末手当を現行水準に据え置く歳費法改正案が衆院を通過した。据え置きが「配慮」として報じられる状況である。

注目すべきは、増額の法案なら用意できるという事実だ。

国会法35条は歳費を「一般職の国家公務員の最高の給与額(地域手当等の手当を除く)より少なくない」と定めている。これを根拠に「下げられない」と説明されることがあるが、正確ではない。国会法は憲法ではなく法律であり、国会が自ら改正できる。実際、35条は2005年に改正されている。歳費法に至っては、2011年の一律50万円減、2012年の特例減額、2020年からのコロナ下の2割削減と、改正を重ねてきた。

なお35条は下限を定めた規定であって、事務次官の給与に自動連動する仕組みではない。2006年の改正では、人事院勧告に直ちに連動して増額されないよう、歳費月額を歳費法に直接明記する方式に戻している。

下げられないのではない。下げる法案を出さないだけである。

「意志」は法案でしか示せない

制度上の事実をもう一つ確認しておきたい。議員が個人の判断で報酬を返上することは、現行法ではできない。自主返納は公職選挙法199条の2が禁じる寄附に該当するおそれがあるためだ。

2019年6月の歳費法改正は、参議院の定数増に伴う経費節減を理由に、参議院議員が2019年8月から2022年7月末までの間に歳費の一部を国庫へ返納する場合に限り、公選法199条の2を適用しないとした。目安は月額7万7000円。期限付き、参院限定の例外である。

つまり「身を切る意志」は、心構えでは示せない。法案という形をとるしかない。だからこそ、意志の有無は誰にでも検証できる。

衆議院法制局が公開している第221回国会の議員立法一覧を確認した。今年2月18日から7月25日までの国会に提出された衆法は38件。うち歳費法の改正案は1件だけで、提出者は議院運営委員長、内容は期末手当の据え置きである。委員長提出とは会派間協議の結果であり、個々の議員が発議したものではない。

議員が自ら発議した報酬・手当の削減法案は、1件も存在しない。

食料品減税に反対した議員は、いずれも衆議院議員である。誰も、法案を出していない。

念のため申し添える。財源の話をしているのではない。

四項目の合計で約297億円。秘書の人件費を加えても数百億円の水準にとどまる。一方、時事通信によれば、税率引き下げと中低所得者への給付を合わせた財政負担は年約5兆円に上る見通しである。桁が違う。

議員報酬を削っても財源にはならない。問題は金額ではなく順序である。5兆円の穴を議論する資格の話だ。

議員報酬を削りすぎれば、資力のある者しか政治家になれなくなるという批判がある。これは正当な論点で、無制限の削減を求めているのではない。だからこそ、まず問うべきは金額の水準ではなく、使途の見えない手当が年約2000万円存在するという構造のほうである。

11月末に何が出てくるか

透明化は一歩進んだ。2024年12月に成立した改正歳費法が2025年8月1日に施行され、調査研究広報滞在費については1万円超の支出の公開と、残額の国庫返納が義務づけられている。ただし議員の資金管理団体への寄付が認められるなど、抜け道は残った。

そして制度改正後、初回の使途公開は2026年11月末までにインターネット上で行われる。最初の数字が出てくるのは、今年の秋である。

一方の立法事務費には、依然として使途報告の義務がない。調査研究広報滞在費が公開に踏み切った以上、次の焦点はここに移る。

最後に、切り分けておきたいことがある。「支持されるかどうか」と「政策として正しいかどうか」は別の問題である。財政規律を求める主張が正しい可能性は当然ある。事実、2012年から14年にかけて2割削減を実行してもなお、消費増税は不人気だった。身を切れば支持される、というほど単純ではない。

しかし、身を切らなければ土俵にすら上がれない。国民に実質的な負担増を受け入れさせながら、自らの取り分には手をつけない。その姿勢が支持されるはずがないのである。

議員の言葉を信じる必要はない。国会に提出された法案の一覧を見ればいい。そこに答えは書いてある。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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