
米国のエネルギー論説サイトEnergy Bad Boysに「Big Tech’s Big Fumble」(ビッグテックの大失敗)と題する痛快な記事が掲載されました。AIの旗手である巨大IT企業たちの10年前の発言と現在の行動を並べると、たしかに笑ってしまうほど鮮やかなブーメランになっています。一部筆者の感想も交えながら紹介します。全文はリンク先をご覧ください。
安価で安定的なエネルギーを求めて原子力や天然ガス火力に殺到するのは当然です。問題は、ビッグテックがほんの数年前まで何と言っていたかなのです。安易に「再エネ100%」「クリーンエネルギー」なんて言わず、事業会社らしく安価・安定電源を求めていればこうしてネタにされることもなかったでしょうに。
「再エネは安くて信頼できる」と言っていたビッグテック
2016年、Amazon、Apple、Google、Microsoftは、オバマ政権のクリーン・パワー・プランを支持する意見書を連邦控訴裁判所に提出しました。この中で、再生可能エネルギーは手頃で信頼でき、自分たちの健全な事業慣行と両立するなどと主張していました。単に自社が「再エネ100%をめざします」と宣言していたのではありません。米国全体のエネルギー政策に対して、化石燃料から再エネへの転換を求めていたのです。
ちなみにこの意見書、提出日が2016年4月1日、つまりエイプリルフールです。もちろん再エネ100%をめざして大真面目に提出されたものですが、10年後に原子力や天然ガス火力の電気をかき集めている姿を鑑みると、「再エネは安くて信頼できる」という主張も冗談だったのではないかとさえ思えてきます。
2018年には、バージニア州のデータセンター事業者が連名(※)で、州規制委員会に対して「再エネは最も費用対効果の高い電源」であり、風力や太陽光で事業を動かすことが自社の利益になると主張していました。
(※)2026年8月12日時点でリンク切れ
続いて2019年にはMicrosoft、Apple、AWS、LinkedInなどが天然ガスのパイプラインや発電所の追加に反対し、「太陽光+蓄電池は新設ガス火力より安い」「データセンターの24時間操業で蓄電池の有効性は実証済み」とまで主張していました。
あれからわずか数年。生成AIの普及で事態は一変しました。米国エネルギー省によれば、データセンターは2023年に全米電力消費量の約4.4%を占め、2028年には6.7~12%に達する見通しとなっています。もはや企業の環境報告書上の数字合わせでは済まない。24時間365日、巨大な計算設備へ途切れず電気を送らなければならないのです。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、米国のデータセンターによる電力消費は天然ガスが40%超で最大、再エネは24%、原子力は約20%、石炭は約15%でした。2030年までの需要増に対しても、天然ガスが最大の供給源になる見込みであり、世界全体では天然ガスと石炭が追加需要の4割超を賄う見通しです。
企業が主張する「再エネ100%」は、必ずしも使用する電気が物理的に100%再エネ由来という意味ではありません。年間消費量に見合う再エネ証書などによって「再エネ100%」と主張することができます。ところがIEAが今回示したのは、そうした「契約上の電源構成」ではなく、データセンターが「物理的に消費した電力」の電源構成です。帳簿上の100%と物理上の100%は別物なのです。
10年後のビッグテック「やっぱり原発が必要だ」
大量の安定電源が必要という現実に直面したビッグテックの手のひら返しは早かった。
Microsoftは2024年、Constellation Energyと20年間の電力購入契約を締結しました。これによって、経済性を理由に2019年に停止したスリーマイル島原発1号機(現在のCrane Clean Energy Center)の再稼働を支えることになりました。
GoogleはKairos Powerと契約し、2035年までに最大500MWの原子力発電を導入します。目的の一つはGoogle自身が掲げる「24時間365日カーボンフリー」の実現です。
AmazonもX-energyに出資し、米国内で2039年までに5GWを超えるSMRの導入をめざしています。
Metaは2026年1月、既設原発の延命と新型原子炉を組み合わせて最大6.6GWの原子力発電を支援する大型契約を発表しました。Meta自身が原子力を、信頼できる電力供給と米国のAI競争力を支える重要な電源と位置付けています。
しかし、彼らは10年前に何と言っていたのでしょうか。
「太陽光+蓄電池で24時間運転できる」
「再エネが最も費用対効果の高い電源」
「自分たちの健全な事業慣行と両立する」
夜も曇りの日も風が吹かなくても電気は必要です。生成AIに「今日は無風なので回答できません」と言わせるわけにはいきません。必要なのは「年間で何kWhの再エネを買ったか」ではなく、いまこの瞬間に必要な電力を供給できることです。そこで必要になったのが原子力や天然ガスなどの安定電源でした。
ビッグテックに限らず、企業には原子力も天然ガスも必要な電源です。悪質なのは、大量の電力が必要となる前には「再エネは安い」「太陽光+蓄電池で24時間操業できる」と主張し、さらにその考えを自社の環境目標にとどまらず、天然ガスのパイプラインや発電所の建設、さらには国のエネルギー政策にまで押し付けていたことなのです。
しかし自分たちが大量の安定電源を必要とした途端、「原発ください」「天然ガスください」に転じました。企業が経営環境の変化に応じて方針を変えることは当然です。しかし、それなら少なくとも、
「再エネだけでは無理でした」
「太陽光+蓄電池で24時間365日の電力需要を賄うのは現実的ではありませんでした」
「原子力や天然ガスなどの安定電源が必要でした」
くらい言うのが、健全な事業者としてあるべき姿のはずです。
安いはずの再エネになぜ補助金が必要なのか
ビッグテックらは風力や太陽光への税制優遇を維持するよう米政府に働きかけています。これも不思議な話です。2019年には「太陽光+蓄電池は新設ガス火力より安い」と主張していました。本当に安いのであれば、補助金なんかいらないはずなのに。
答えは明らかです。発電した時間だけを比べる電力価格と、需要に合わせて24時間供給する電力システムの費用は同じではありません。前者だけを見れば再エネは安く見えますが、後者には火力、原子力、送電網などの費用が加わります。
しかし電力利用者が必要としているのは、太陽が照っている時間だけ安い電気ではありません。24時間365日、必要なときに必要な量の電気が届かなければならないのです。そのためには火力や原子力などの安定電源、送電網などが必要であり、誰かがそのコストを負担しなければなりません。発電した瞬間の価格だけを見て「再エネが一番安い」と言うのと、社会全体の電力システムとして安いことはまったく別の話です。
日本はビッグテックの大失敗を後追いしてはならない
ビッグテックの大失敗から学ぶべき教訓は単純明快です。「必要な電力量」と「現実的な供給力」、「企業個社の環境目標」と「社会全体の安定供給」を混同してはならないということです。
しかしながら、日本も他人事ではありません。国内でもAIとデータセンターによる電力需要の増加が始まっています。また、2009年に発足した日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)(200社超)、2019年に設立された再エネ100宣言 RE Action(300社・団体超)などの組織に多くの日本企業や団体が参加し、化石燃料の縮小や再エネ拡大を主張しています。
JCLPの政策提言や活動方針をみると、
「脱炭素社会の実現には産業界が健全な危機感を持ち」
「脱炭素に経済合理性をもたらす制度環境の整備を後押しする」
「JCLPは、脱炭素社会の実現に向け、個別企業の枠を超えた活動に取り組んでいます」
といった文言が並んでいます。
一方、再エネ100宣言 RE Actionのトップページを開くと、
「市場や政策を動かし、社会全体の再エネ利用100%を促進する枠組み」
というメッセージが飛び込んできます。
なんだか10年前のビッグテックにソックリで恐ろしくなります。JCLPは、2026年7月30日にも政府に対する意見書を公表しており、「今こそ【化石燃料への依存の低減】に軸足を移す機会です。」との記述があります。。
企業が自社で「再エネ100%」をめざすのは自由です。しかし、それを日本全体のエネルギー政策にまで広げようとするなら話は別です。
米国のビッグテックも10年前、再エネは安くて信頼できると主張し、天然ガスのインフラ整備にまで反対しました。しかし今では「電気が足りない」「原発ください」「天然ガスください」なのです。
日本国内でもAIやデータセンターによる電力需要爆増が迫っています。電気が必要なのはAIだけではありません。工場にも、病院にも、家庭にも、ショッピングモールにも、鉄道にも必要です。
米国のビッグテックは10年かけて、再エネの理想論から現実の電力確保に転換しました。日本企業が10年前の彼らを真似する必要はありません。むしろ2026年現在の彼らの行動を真似すればよいのです。
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