
(前回:HALではなくR2-D2だった:『スター・ウォーズ』が描いたAIの未来)
映画『トップガン マーヴェリック』の序盤に象徴的な場面がある。無人機開発を推進するケイン海軍少将が告げる。食事も睡眠も必要なく命令にも逆らわない機械が、いずれ人間のパイロットに取って代わる。「君たちのような人間は絶滅へ向かっている」と。
マーヴェリックは短く返す。“Maybe so, sir. But not today.”
2022年公開の映画の台詞である。ところが、その「今日ではない」は思ったより短いのかもしれない。
2026年7月、米国防高等研究計画局(DARPA)と米空軍は、AIが制御するF-16の飛行試験を公表した。VENOM(Viper Experimentation and Next-generation Operations Model)と呼ばれる。DARPAはその先に、人間のパイロットが複数の自律無人機を「command and orchestrate(指揮し、統御する)」未来を明示している。
技術だけを見れば、ケイン少将の予言は着々と実現している。しかし一つ疑問が生じる。そもそも戦闘機のパイロットは、何のために乗っているのか。飛行機を飛ばすためだけなのか。
「飛ばす」だけなら人間は邪魔になる
純粋な工学問題として考えれば、戦闘機から人間を降ろす理由はいくらでもある。人間には酸素が必要で、疲労し、耐えられるGにも限界がある。コックピットも生命維持装置も射出座席も要る。撃墜されれば人的損失が生じ、政治問題にもなる。
これは突然始まった話でもない。DARPAのAir Combat Evolution(ACE)では、2024年時点でAIが改造F-16を自律飛行させ、有人F-16との視程内空中戦まで試験している。
ここで「パイロット」という仕事を分解してみる必要がある。
戦闘機パイロットは「運転手」ではない
米空軍では、パイロットになるにはまず士官(commissioned officer)にならなければならない。日本の自衛隊でいえば、おおむね幹部自衛官に相当する。航空自衛隊の航空学生も、教育を経て飛行幹部候補生となる制度である。
自衛隊の説明では、3尉以上の幹部は部隊の骨幹として部隊を指揮する立場にある。現実には曹も重要な現場指揮を担うので単純な二分ではないが、それでも士官には、指揮系統の中で権限と責任を引き受ける性格がある。
単座のF-35などでは、その士官が一人で多くの機能を担う。操縦し、航法し、センサー情報を把握し、敵味方を識別し、脅威を評価し、兵器を選択し、任務を状況に応じて遂行する。
「fighter pilot」という一語には、操縦技能だけでなく情報処理、戦術判断、兵器運用、そして指揮という複数の仕事が束ねられている。AIが壊そうとしているのは、パイロットという職業そのものというより、この「仕事の束」なのかもしれない。
なぜ軍艦は士官が指揮するのか
少し海の話をしたい。
国連海洋法条約(UNCLOS)第29条は「軍艦」を定義する際、国家の軍隊への所属や国籍を示す外部標識だけでなく、その国家の政府から正式に任官された士官の指揮下にあることまで要件に含めている。
艦長が士官なのは、船を上手に操れるからではない。軍艦は国外へ移動し、警戒し、情報を収集し、ときには国家の意思を武力によって具体化する、主権的作用を移動させるプラットフォームである(「軍艦は浮かぶ領土」という通俗表現は現代国際法上は正確ではない)。だから必要なのは操船者ではなく、「誰の命令で、何のためにこの船を動かしているのか」を体現する指揮主体なのだ。
航空機にも似た構造がある。1944年のシカゴ条約第3条は、軍、税関、警察に使用される航空機を民間航空機と区別し、「state aircraft(国の航空機)」としている。
ただし国際法に「軍用航空機は士官が操縦しなければならない」という一般原則があるわけではなく、UNCLOS第29条をそのまま軍用機へ移植することはできない。それでも戦闘機が、国家の軍事的意思を高速で遠方へ運び、必要なら武力として具体化する装置である点は共通する。戦闘機のコックピットは、極端に小さな「指揮所」でもある。
MQ-9はすでにマーヴェリックを地上へ降ろした
この議論は未来の想像ではない。米軍はMQ-1 PredatorやMQ-9 Reaperで、長年「パイロットを機体から降ろす」実験を続けてきた。ところが、人間を降ろしても「パイロット」は消えなかった。米空軍のMQ-9公式資料によれば、基本クルーは二人。一人はrated pilot、もう一人はenlisted aircrew memberであるsensor operatorだ。そしてパイロットについては、機体をcontrolすると同時にmissionをcommandすると明記されている。
現在もRPA Pilotは士官職として募集され、Sensor OperatorはEnlistedである。センサーオペレーターは目標の識別や火器管制計画の支援にも関与する。「兵器に触る者=士官」ではないのだ。

さらに米空軍は2017年、RQ-4 Global Hawkで士官ではないenlistedパイロットによる実戦運用飛行を開始した。米空軍国立博物館によれば、1942年以来初めてenlisted pilotがoperational sortieを飛んだ事例である。
ここから「武装機だから士官」と単純に結論づけることはできない。しかし一つは分かる。飛行機を操縦する技能そのものは、士官にしか任せられない仕事ではない。
Pilot MaverickからCommander Maverickへ
MQ-9はマーヴェリックを消したのではなく、地上へ降ろした。有人機で一人の士官が担っていた仕事のうち、人間の座る場所が地上管制局へ移動しただけである。
AI化が進めば、次に切り離せるのは「操縦」だ。飛行、航法、センサー統合、脅威評価、行動案の提示までAIが担う。では人間に何が残るか。おそらく最後まで問題になるのが「command」である。
AIが「前方の航空機を敵戦闘機と判定。確率97%。交戦を推奨」と提示し、人間が確認して命令する構造なら、AIは高度な参謀として理解できる。しかし敵味方の認定、攻撃対象の選定、必要性の判断、武器の選択、発射、攻撃中止の判断までAIが自律的に行うようになれば、それはもう「AIが飛行機を操縦している」話ではない。国家の武力行使について、AIが判断していることになる。
米国防総省の自律兵器指針(DoD Directive 3000.09)も、指揮官と操作者が武力行使に「appropriate levels of human judgment」を行使できるよう設計することを求めている。ここで技術論は軍制と法律の問題へ変わる。誰が交戦規則を解釈し、誰が例外を判断し、誰が攻撃を中止し、誰が責任を負うのか。
AIに階級章を付けられるか
今のところ答えは明確だ。AIは装備であって軍人ではなく、指揮官の部下ですらない。それでも能力が高度になるにつれ、境界は曖昧になる。AIが航路を選び、脅威を順位付けし、攻撃手段を提案し、無人機群を協調させる。その提案を人間がほぼ追認するだけになれば、形式上は人間がcommandしていても、実質的な意思決定主体はどちらかという問題が出てくる。
AI戦闘機をめぐる本当の問題は、「AIは人間より上手に飛ばせるか」ではない。それは時間が解決する技術問題だろう。より難しいのは、AIにどこまで国家の権限を渡すのか、という制度問題である。
AIは操縦桿を奪える。センサー操作も奪える。戦術立案も相当部分を担えるだろう。しかし、階級章まで渡すことができるのか。
ケイン少将の予言は、おそらく半分正しかった。「飛行機を操縦する人」という意味のパイロットは、いずれ姿を消すかもしれない。人間はすでにMQ-9から降り、AIはF-16を飛ばし始めた。
しかしマーヴェリックがコックピットで担っていたのは操縦だけではない。彼は海軍士官であり、命令を受け、状況を読み、その意味を解釈し、必要なら国家の軍事力を実際の行為へ変換する立場にある。
AI時代の軍用航空で本当に問われるのは「誰が飛ばすのか」ではない。「誰に国家の武力を委ねるのか」である。
Pilot Maverickはいずれ消えるかもしれない。Commander Maverickまで消えるのか。
Maybe so, sir. But not today.







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