金融所得課税と金利上昇でFIREは無理ゲーに

黒坂岳央です。

これまでFIREは、正直「イージーモード」だった。株価は上昇し、金利は極めて低く、金融所得への税負担も高くない。だからこそ大きなブームになったといえる。

「貧乏FIRE」という言葉まで登場。地方の安い中古住宅を買い、生活費を極限まで下げれば、「1000万円で誰でもFIRE」みたいな主張もあった。

こうしたFIREを可能にしていたのは、本人の節約能力だけではない。株高、低金利という資産形成に有利な環境そのものが、FIREの難易度を大きく下げていたのである。

ところが、その環境が変わり始めた。金利はすでに上昇し、金融所得に対する負担強化も始まっている。さらに、金融所得を社会保険料の算定に反映させる制度改正も成立。

これらが重なれば、これまでのFIRE戦略は通用しなくなる。自分自身、現在仕事はしているがファットFIREした立場でなので全く他人事ではない。持論を述べたい。

金利上昇はどれほど厳しいか?

日本は長らく「金利がない国」で、社会もそれが常識のような感覚だった。

住宅ローンの変動金利は極めて低く、預金金利もほとんどゼロ。借金をしても利息負担は小さく、現金を持っていてもほとんど運用収益は得られなかった。だが、この環境はすでに変わった。

日銀は2026年6月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%程度から1.0%程度へ引き上げ、7月会合では1.0%程度を維持。8月18日には長期金利が一時2.945%まで上昇し、約30年ぶりの高水準となっている。日本は大きく変わった。金利がある世界に戻ってきたのである。

そしてFIRE民にとっては、これは無視できない。特に自分のように住宅ローンを抱えている人だ。

2026年8月時点では、変動金利の水準もすでに1%台に乗っている。例えば5000万円のローンなら、金利1.08%と2%では単純な利息だけで年間約54万円と100万円。金利差による負担は年間約46万円。実際の住宅ローンでは元利均等返済や金融機関ごとの返済ルールがあるため、この金額がそのまま返済額の増加になるわけではない。しかし、方向性は明確である。

金利高は株、ゴールド、債券には逆風であることが多い。実際、債券は価格が下落を続けている。2022年は急激な金利上昇で米国の株と債券は大きく下落、ゴールドは微減だった。これだけ相関係数の小さいアセットへ分散しても全部下落する厳しさはFIRE民には大変大きなダメージである。

金融所得課税で必要資産が増える

次に金融所得課税である。

2026年度税制改正では、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置として30%になっている。

従来は基準所得金額から3.3億円を控除した金額に22.5%を掛けて通常の所得税額と比較する仕組みだったものが、2027年分の所得からは控除額が1.65億円に縮小され、税率が30%に引き上げられる。

一般的な上場株式等の配当・譲渡益については、2027年以降も表面上の税率20.315%そのものが30%になるわけではないが、こうした制度は徐々に折りて拡大する傾向にある。

ただし、FIREを考えるうえで重要なのは制度そのものより、税制の方向性である。

現在は、あくまで高い所得を持つ人について追加負担を求める仕組みが強化されているが、将来、金融所得に対する実質的な負担が現在より高くなったらFIRE民に大きな打撃となる。

1000万円FIREは持続可能か

「1000万円あればFIREできる」といった金額で一生涯リタイア、これはそもそも持続可能ではないと思っている。

これまでの異常な株高、低金利、税金有利な環境なら問題はなかったが、環境というのは時代の変化とともに変わっていく。いや、現在進行系で変わり続けているという方が正しい。

そうなれば1000万円溜まったら一生逃げ切り確定、とはならず、相場という運頼みになる。逃げ切りが可能な人もいるが、全員ではない、というのが妥当な判断だろう。

支出をケチろうにもインフレも継続すれば生活費も上がる。こうなれば目減りする資産に心をすり減らすより、さっさと働きに出る方が経済的にも精神的にも合理的になる。つまり、少額FIREは難しくなりそうだ、と思っている。

以前から繰り返している通り、「完全FIRE(ファットFIRE)出来る人」はいつの時代も少数派である。一般の誰もがリスクを取らず、再現性100%で出来るものではないと思っている。

これまでのイージーモードでは可能だったかもしれないが、ハードモードになったらそのハードルも必然的に上がり、自動的に「FIRE民は少数派」という本質に戻るだろう。

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Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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