レオ14世、フランスを歴史的な司牧訪問

ローマ・カトリック教会最高指導者、ローマ教皇レオ14世は今月25日から28日にかけてフランスを公式訪問する。教皇のフランス訪問は、2008年のベネディクト16世以来18年ぶりで、歴史的な司牧訪問と受け取られている。

バチカン側が公表した日程によると、教皇レオ14世は25日午前10時にパリに到着して公式の歓迎を受けた後、エリゼ宮(大統領官邸)でマクロン大統領を表明、同日午後にはユネスコ本部を訪れる。同日夕方には、2024年12月に再建・再開されたノートルダム大聖堂で数千人の司祭、助祭、修道会のメンバーらと面会し、その後サン=ドニの競技場「スタッド・ド・フランス」で若者たちとの祈りの集いを持たれる。

26日には難民や移民の支援を行う施設「メゾン・サント=ジョセフィーヌ・バキタ」を訪問。その後、聖職者による性的虐待のサバイバー(被害者)らと非公開で面会する。ちなみに、2021年10月、仏教会の聖職者の性犯罪報告書が発表されたが、それによるとフランスで1950年から2020年の70年間、少なくとも3000人の聖職者、神父、修道院関係者が約21万6000人の未成年者への性的虐待を行っていたことが明らかになった。教会関連内の施設で、学校教師、寄宿舎関係者や一般信者による性犯罪件数を加えると、被害者総数は約33万人に上るというのだ。国際社会に大きな衝撃を与えたことはまだ記憶に新しい。

そして同日夕方,コンコルド広場の野外ミサでは、シャンゼリゼ通りが参加者で埋め尽くされると見込まれている。27日に入ると、世界的に有名な巡礼地であるルルドを訪問し、最大15万人の人々と共に野外ミサを執り行う。最終日の28日はドイツ国境に近い歴史的都市メスを訪れ、ヨーロッパの未来へのメッセージを発信する予定だ。

レオ14世のフランス訪問で最も重要なメッセージはユネスコ(UNESCO)本部で予定されている演説だ。テーマは「AI(人工知能)の倫理的発展」だ。レオ14世は2025年5月に発表した初の主要な回勅(公式な親書)の中で、AIの暴走や誤情報の拡散、人間によるコントロールの喪失に強い警鐘を鳴らしている。ユネスコという知性と文化の殿堂において、AIの進歩が人間の尊厳を脅かすのではなく、「平和と教育のために用いられるべきだ」とする倫理的規制(アルゴエシックス)を世界へ向けて強く呼びかける予定だ。

また、デジタル化やアルゴリズムによる社会の分断が進む中、若者たちの教育、そして「情報の誠実性(Information Integrity)」をいかに守るかがテーマだ。若者、研究者、知識人が集まるパネルディスカッションも同日開催され、次世代へ向けた知的・精神的指針を示すことになっている。そして世界各地で紛争が頻発し、国際機関の機能不全が叫ばれる中、対話と国際協調こそが平和の唯一の道であると訴え、ユネスコが担う教育・科学・文化による平和構築の役割を全面的に支持し、多国籍主義(マルチラテリズム)を擁護する。

マクロン大統領は今回の教皇訪問を極めて重視し、教皇が最終日に訪れるドイツ国境近くの都市メスでの演説に、ヨーロッパ各国のリーダーたちを招待している。メスは「EUの父」の一人であるロベール・シューマンの故郷。国際的な孤立主義が台頭する中、マクロン大統領は教皇の権威を借りて、改めて「キリスト教的価値観に根ざした欧州の結束」と「国際法に基づく平和への歩み」を世界に誇示したい狙いがあるといわれる。

バチカンニュースによると、教皇側はホスト国フランスに「あまり派手な歓迎は控えてほしい」と要請している。具体的には、フランス政府は教皇に対し、最高勲章である「レジオン・ドヌール勲章グラングロワ」の授与や、公式な宮廷晩餐会(State Dinner)を計画していたが、聖座(バチカン)はこれらをすべて辞退。また、共和国衛兵隊による大々的な歓迎セレモニーや太鼓の演奏も避けるよう要請したという。

レオ14世は、今回の訪問を政治的な国家イベントとしてではなく、あくまで「宗教的・牧霊的(パストラル)な巡礼」として位置づけたい意向という。ウクライナ情勢や中東情勢など世界が戦禍にある中、華美な外交儀礼を避けたいという。

フランスは歴史的にカトリック教会と深い結びつきを持つ一方で、「ライシテ(厳格な政教分離・世俗主義)を国是としている。近年、フランス国内ではカトリックの成人洗礼者(志願者)の増加や若者の信仰への回帰といった「スピリチュアルな渇き」や信仰の刷新が見られる。米国出身で現代の欧米社会の空気をよく知るレオ14世は、世俗化が進む社会における教会の新たな存在意義を指し示そうとしている。その意味で、教皇のフランス訪問は脱世俗化(世俗化社会)への新たなアプローチを模索する司牧訪問というわけだ。

国際的に著名な神学者、チェコの宗教社会学者トマーシュ・ハリーク氏は15日、オーストリア北部のヴェルスにあるプフベルク城で開催された国際シンポジウム「欧州におけるシノダリティの形成」で講演し、「欧州は世俗的な環境におけるキリスト教の存在のあり方を問う実験室だ」と述べている。その意味で、フランスは最高の教材だ。

教皇の訪問は、EU(欧州連合)の創設者の一人であるロベール・シューマンの故郷、フランス東部の都市メスで締めくくられる。カトリック教会は現在、シューマンの列福に向けた手続きを進めている。メス大聖堂で行われるミサには、マクロン大統領に加え、他の欧州諸国の元首や政府首脳も出席する見通しだ。教皇はメスにおいて、欧州の平和と結束を訴えることになっている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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