デイサービスの送迎を終えた80代の女性が自宅の階段で転倒して死亡した事故をめぐり、東京地裁が介護施設側に1800万円あまりの損害賠償を命じました。

送迎が終わったあとの転倒に施設は責任があるのか
介護施設には利用者の安全に配慮する義務があります。利用者の身体状況や転倒リスクを把握し、必要な介助を行うことは当然です。しかし、今回の判決をめぐって考えなければならないのは、介護事業者にどこまでの責任を負わせるのかという問題です。
施設から自宅まで送った後、利用者が階段を上っている最中に転倒した場合、施設はどこまで付き添わなければならないのでしょうか。玄関までか、部屋までか、それとも転倒の危険がなくなるまで見守らなければならないのでしょうか。
ある施設で食べ物を喉に詰まらせて亡くなる高齢者が出ると、すべての人に流動食しか出さなくなるといった過剰反応は、介護でよくみられます。それが高齢者の幸福になるのでしょうか。
介護は慈善事業ではなくビジネス
重要なのは、介護は慈善事業ではなく、ビジネスとして運営されているということです。デイサービスの料金は介護保険によって公的に定められています。施設は限られた介護報酬の中から、職員の給与、家賃、保険料などを支払わなければなりません。
ところが事故が起きれば1000万円単位の損害賠償責任を負うのでは、事故を防ぐために職員を増やさざるを得ません。職員を増やせば人件費が増えます。送迎に時間をかければ、一日に受け入れられる利用者数が減ります。裁判で施設の安全配慮義務が拡大すると、介護事業者は安全のためのコストを際限なく負担することになります。
裁判所が「絶対安全」を求めると介護も医療も成り立たない
そのコストを誰が払うのでしょうか。利用者の自己負担を増やすのか。介護報酬を引き上げるのか。それとも税金や保険料で社会全体が負担するのか。この議論なしに、介護施設にだけ責任を押しつけることには限界があります。
高齢者の転倒事故を防ぐ努力は必要ですが、転倒を完全になくすことはできません。 事故をゼロにすることを介護施設の責任にすれば、事業者は事故を起こすリスクのある高齢者を受け入れないという方向に動くでしょう。それでは、介護サービスの存在意義が失われてしまいます。
介護には安全と費用のトレードオフがあります。これは医療事故でも問題になることですが、裁判所が「絶対安全」を求めて莫大な賠償責任を負わせると、介護も医療もビジネスが成り立たなくなります。







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