米ロサンゼルスに本部を置くユダヤ人団体「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」(SWC)は11日、世界的人気を呼んでいる韓国ポップグループ「防弾少年団」(BTS)のメンバーが過去、ナチス親衛隊(SS)の徽章が装飾された帽子をかぶっていたことに言及し、「ナチス・ドイツ軍の蛮行を思い出せるものでユダヤ民族への侮辱だ」と批判し、謝罪を要求した、という外電が流れてきた。
BTSのリーダー、RM(24)が被っていた帽子の前方中央にはナチスのシンボルマークであるハーケンクロイツなどナチスをモチーフにした刺繍が縫い込まれていた。BTSのビデオで初めて見た時、「これはまずい。ユダヤ人の反発を誘発するだろう」と考えていた矢先だ。ユダヤ人側の反発は当然だ。
同グループのメンバーの一人ジミン(23)が韓国の愛国心を鼓舞する一方、原爆を描いた「原爆Tシャツ」を着ていたことから、広島市や長崎市などから強い反発が起き、日本国内で同グループのコンサート中止を求める声が高まり、計画されていたTV出演が次々と中止されたと聞く。これまた当然だろう。ジミンのTシャツには光復(解放)を迎えて万歳を叫ぶ人々の姿と、原子爆弾が爆発した場面がプリントされていた。
不思議に思う点は、BTSのマネージャーや所属事務所関係者が批判される前に気がつき、メンバーに注意しなかったことだ。韓国では反日傾向が強く、植民地時代の日本側の統治を批判する声は絶えない。その上、必ずといっていいほど、「ドイツを見習え」とドイツの歴史認識を称賛する声が飛び出す。RMなどは機会がある度に反日を隠さない一人だ。RMは2013年、光復節(解放記念日)に合わせてツイッターに「歴史を忘れた民族には未来はない。独立闘士の方々に改めて感謝する。大韓民国独立万歳」というコメントを掲載した(韓国中央日報)。
韓国人のドイツへの思い込みはかなりだ。曰く「ドイツは戦後、侵略した国へ賠償を行い、謝罪を表明してきた。それに対し日本はどうか」という論理だ。このセリフの前半部分、「ドイツは賠償を行い、謝罪を繰り返した」と「日本はどうか」という後半部分は残念ながら両者とも間違っている。日本は政権が変わるたびに韓国側の要求に応え、謝罪を繰り返してきた。謝罪回数ならばドイツよりはるかに多いだろう。
一方、独ヨアヒム・ガウク大統領(当時)は2014年3月7日、第2次世界大戦中にナチス・ドイツ軍が民間人を虐殺したギリシャ北西部のリギアデス村の慰霊碑を訪問し、ドイツ軍の蛮行に謝罪を表明した。その時、リギアデスの生存者たちは「公平と賠償」と書かれたポスターを掲げ、「大統領の謝罪はまったく意味がない。われわれにとって必要なことは具体的な賠償だ」と叫び出したことがある。すなわち、ドイツの過去問題は決して清算済みではないのだ。
日本は戦後、サンフランシスコ平和条約に基づいて戦後賠償問題は2カ国間の国家補償を実施して完了済みだが、第1次、第2次の2つの世界大戦の敗戦国となったドイツの場合、過去の賠償問題は日本より複雑だ。ドイツの場合、国家補償ではなく、ナチス軍の被害者に対する個別補償が中心だ。ギリシャやポーランドではドイツに対して戦後賠償を要求する声が依然強い(「独大統領の謝罪表明と賠償問題」2014年3月10日参考)。
話をBTSに戻す。BTSのネオナチス的な服装やふるまいは、韓国の戦後の歴史教育の所産だ。韓国では日本の「正しい歴史認識」不足を指摘する声が強い一方、日本と同じ第2次世界大戦の敗北国ドイツの戦後の償い方を称え、日本に対して「ドイツを見習え」といってきた。そのため、ナチス・ドイツの蛮行に対する客観的な認識が決定的に不足しているわけだ。
BTSが初めてではない。韓国の少女4人組ポップグループ「Pritz」がナチスを想起させる衣装を着て舞台で歌い、ドイツで大きな議論を呼んだことがある。韓国の中央日報日本語版は当時、「Pritzは釜山で開かれた公演で、ナチスの象徴であるハーケンクロイツを思い起こさせる腕章をはめてステージに立ち議論を巻き起こした」と報じたほどだ。
そういえば、韓国の金泳三大統領(在位1993~98年)が海外訪問で飛行機のタラップから降り、歓迎する人々に手を挙げて挨拶する時、その手を挙げる姿がナチス式敬礼ハイル・ヒトラー(独語 Heil Hitler、ヒトラー万歳)を彷彿させるということで話題になったことがある。そこで大統領側近が、「タラップから手を振る際には決して腕を真っ直ぐに伸ばさず、手を左右に軽く振ってほしい」と助言したという。韓国大統領となった人物が側近から助言を受けなければ、ドイツ人の歴史的感情、痛みに気が付かなかったのだ(「韓国人はドイツ人を全く知らない」2014年12月3日参考)。
終戦から70年が経過する今日、ナチス・ドイツ軍の衣服に似ている云々の議論は意味がない、という論理は理解できる。しかし、日本の歴史認識問題ではあれほど詳細な点に拘り、批判し続ける韓国人、韓国メディアが日頃から称賛してきたドイツ国民の歴史への感情、繊細さに対しては驚くほど理解不足だ。関心がないといっても言い過ぎではない。
残念ながら、日本でもナチス・ドイツの戦争犯罪に対して正しい認識が十分とはいえない。文芸春秋社の発行月刊誌「マルコポーロ」がホロコーストの記事を掲載し、その中でガス室がなかったという論文を主張した学者の記事が掲載され、ユダヤ協会から強い抗議を受け、最終的には廃刊に追われたことがある(「ウィーゼンタール氏の1周忌」2006年10月2日参考)。
いずれにしても、日韓両国ともナチス・ドイツの過去問題では欧州諸国と比較すれば認識不足が歪めない。問題は、韓国の場合、反日歴史観がそれに加わることで、ドイツの戦後歴史は一層歪められる。BTSも少女4人組ポップグループ「Pritz」も韓国の戦後の歴史教育の所産であり、同時に犠牲者でもあるわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。