山本太郎氏率いるれいわ新選組の不可解な選挙戦略について書いた昨日の拙稿は、参院選スタートの時節柄、それなりの数の読者にお読みいただいた。
『ブームもここまで?山本太郎氏、比例「3位」転出の謎プレー』
拙稿でも書いたように、山本氏は当選確実な東京選挙区を飛び出し比例区へシフトした。しかしこの参院選から新設された特定枠に2人の障害者を擁立したことが謎を呼んだ。れいわ新選組は3議席以上の確保、つまり三百数十万票は集めないと山本氏の再選は難しい。落選リスクをわざわざ高めた「真意」は、選挙の常識的には計りかねるからだ。
好意的に解釈すれば、音喜多くんのようにその決断力に刮目するだろうし、早川さんのように「社会的弱者に対して手を差し伸べる」姿勢を打ち出すという見方はあるだろう。逆に、筆者のようなアンチからは、邪推して衆院選や都知事選などの中・長期戦略の一貫という指摘も出ている。
特定枠の候補者が当選辞退→山本氏繰り上げ復活説
しかし、筆者の邪推はまだ甘かったようだ。渡瀬裕哉さんをはじめ、選挙の専門家たちと意見交換しているうちに気付かされた。れいわ新選組が1〜2議席を確保するのにとどまっても山本太郎氏は再び議員バッジをつけることが可能というのだ。
特定枠は衆院選比例と同じく、上位に当選した人が何らかの事情で任期途中に議員を辞めると得票数順に繰り上がる。これは任期いっぱい適用される。
山本氏が名簿搭載者でダントツの得票数なのは確実だ。仮に山本氏が落選し、れいわの特定枠候補者の2人が当選したとしよう。当選議員任期中(2025年7月まで)にその当選者が辞職や失職すれば山本氏が繰り上げ当選する流れだ。当選1人の場合は、もう1人の特定枠の候補者が優先的に繰り上がるが、その人も辞退すれば、結局、山本氏の再選となる。
まだ、選挙戦がスタートしたばかりなので、こうした展望をすること自体が「不謹慎」なのは百も承知だ。しかし知り合いの政治家のSNS上の発言を見ても、明言こそしないが、繰り上げ当選のルールについて言及する人もいるあたり、本音では、筆者と同意見のように見える。リアルが内在しているのだ。
ゲリラ勢力による選挙ハッキング
万が一、当選直後にそうしたことが起きれば、他党はもちろん、マスコミを含めて総スカンになるのは必至だ。しかしそれは「常識人」の感覚だ。
ゲリラ戦法を駆使する少数勢力は、選挙制度をよく研究し、ハッキングするのが得意だ。5月の足立区議選でもNHKから国民を守る党が、居住実態がない候補者を擁立。5548票も集めて有効票なら中位当選できたが、当然のことながら無効に。しかし、選管の立候補届け出の際にもめたが、N国側は押し切って選挙運動はできた。現行法では当選の権利がないだけで立候補を妨げられない。彼らは「法の穴」を熟知していたのだ。
果たして、れいわ新選組の比例区の当選者が1〜2になった時、どのような対応をするのか。まさかとは思うものの、障害者政策のアピールや同情票を集めるためだけに特定枠を活用し、当選者は選挙直後に辞退。そして選挙後に初登院するのは山本氏というような事態になれば、「想定外」の形で利用された特定枠の存在意義が揺らぐのは必至だ。
そもそも、ただでさえ特定枠の評判は芳しくない。参議院の合区で選挙区から漏れた現職に対する事実上の救済策でしかなかった。立候補者なのに自分自身の選挙運動もできないという制度からして、後ろ暗さを認めてしまっているようなものだった。自民党でも都市部選出の若手議員などでは本音では反対の者も少なくないとみられる。小泉進次郎氏も本音では反対だったが、公選法改正案採決時は棄権せず、賛成に回って株を下げたのは記憶に新しい。
もし、これで山本氏が特定枠を「おもちゃ」に復活当選する事態になれば、制度そのものの欺瞞性がますます浮き彫りになる。もちろん制度をハッキングした山本氏がバッシングされるのは確実だが、朝日新聞などは逆に矛先を特定枠に向け、山本氏を持ち上げ、世論の怒りの矛先を特定枠に向けるような展開が想像できる。
筆者も特定枠には反対なので、廃止のきっかけになるなら、それはそれで痛快ではあるが、結局、政治不信を深めるに過ぎまい。れいわ新選組の得票の行方を含め、特定枠の初選挙はどうなるのだろうか。
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」
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