比較審査による免許交付:行政の判断は現実に覆される

山田 肇

電波部は依然として比較審査方式に固執している。そこで、過去2例の比較審査は何が問題だったか改めて検証してみよう。

第一例は2.5GHz帯を利用する広帯域移動無線システムで、2007年12月21日に4社の中から2社が選定された。電波部は比較審査結果の概要を表形式で発表し、公正中立な審査をアピールした。第2位で免許を取得したウィルコムについて、「現行サービスの繰入によりすべての資金をまかない、他社は2012年度としている単年度黒字を2011年度に達成する計画など財務計画が評価された。また、小型基地局の開発が終了しているなど周波数帯域の有効利用も評価のポイントだ」との報道があった。第3位となったNTTドコモ系のオープンワイヤレスネットワークは、財務的基盤がウィルコムよりも2段階劣ると判断された。財務的基盤に関する評価を仮に逆転させると総合点は共に4点で同順位となるため、財務的基盤に関する評価が決定要因だったことがわかる。

しかしウィルコムは2010年11月30日に東京地方裁判所から更生計画の認可を受け、ソフトバンクグループ傘下の通信会社として再出発した。ソフトバンクが「Softbank 4G」という名称で2.5GHz帯を利用し始めたのは2011年11月である。


第二例は携帯端末向けマルチメディア放送で、NTTドコモ系のmmbiがKDDI系のメディアフロージャパン企画に勝るためmmbiに免許を交付すると、201年9月8日に電波部は発表した。電波監理審議会の原島会長は「委託放送業務の円滑な運営、主に委託向け料金設定が中心となるが、その料金水準に大きな差があり、mmbiが優位と判断した。また、基地局の整備能力についても、mmbi側のほうがより詳細な現地調査を終えているということで、確実性が高いと判断した。」と記者会見で説明した

マルチメディア放送では網とコンテンツ配信は上下分離されるため、上側の配信事業者(委託事業者)が募集された。しかし希望者は現れず、大家であるmmbiが配信も行うことになり上下分離スキームは崩壊した

両例とも比較審査は失敗だった。財務的基盤が勝ったはずのウィルコムに会社更生法が適用され、委託向け料金は市場に受け入れられなかった。「机上の計画」を審査した結果は「市場の現実」によって覆された。

比較審査と異なり周波数オークションなら市場原理が反映する。それでも失敗して倒産する事業者は出るだろうが、その免許は二次市場で取引すればよい。料金は免許人が自由に設定し、利用者が来なければ値下げすればよい。

2011年12月9日に900MHz帯(3.9世代移動通信システム)の比較審査基準が公表された。審査基準には「絶対審査基準」と「競願時審査基準」があるが、絶対的審査基準には「設備投資等に必要な資金の確保に関する計画及び開設計画の有効期間(10年間)中に単年度黒字を達成する計画を有していること」が含まれている。競願時審査基準にも「認定から7年後の年度末の、全国の3.9世代移動通信システム(占有周波数帯幅10MHz以上)の特定基地局の人口カバー率(5%単位)がより大きいこと」がある。

これらはいずれも「机上の計画」である。計画以上の業績を上げるように、また市場競争で有利となるよう人口カバー率も上げていくように、経営者が努力するのは間違いない。しかしいずれも経営課題であって政府が介入することではない。電波部は過去の失敗に学ばない組織といえよう。

山田肇 - 東洋大学経済学部