寝ないで頑張るのはあたり前?なんで死ぬまで頑張るの

画像は本記事紹介の書籍より。出版社許可にて掲載。


NHKニュース「自殺対策白書 若い世代の自殺に歯止めを」によれば、2016年に自殺した人は2015年よりもより2,128人減って21,897人となり、22年ぶりに22,000人を下回った。年代別に見ると、15~39歳の死因第1位が「自殺」となっている。こうした状況は、先進国では日本のみである。国際的に見ても深刻な状況だといえよう。

いま、注目されている書籍がある。『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)だ。Twitterで30万リツイートを獲得し、NHK、毎日新聞、産経新聞、ハフィントンポストでも紹介された過労死マンガの書籍版である。

著者は、汐街コナ氏。デザイナー時代に過労自殺しかけた経験を描いた漫画が話題になり書籍化にいたった。監修・執筆は、精神科医・ゆうきゆう氏。自分の人生を大切にするための考え方が、わかりやすくまとめられている。

■「寝ないで頑張るのはあたり前」は上司の横暴

――汐街コナ氏は自らの経験を踏まえて、予防するためのヒントを語っている。いくつかを紹介したい。

「理由はいろいろありましたが、結局のところ『まだ大丈夫だと思っていた』。これに尽きると思います。周囲も深夜残業はあたり前でしたし、『そういうもの』だと思っていましたし、体調の変化もありませんでした。思春期ですら『死にたい』なんて思ったこともなく、過労死の可能性など考えもしませんでした。」(汐街コナ氏)

「判断力を失う前に気がついたので、『大丈夫じゃない!』と、今の状況から抜け出すことと気持ちを切り替えることができました。ですが、自分を犠牲にして『限界まで気がつかずに頑張ってしまう人』、『限界に気がついても辞められない人』は、多いのではないかと思います。」(同)

――会社側は従業員のメンタルな状況について把握しているわけではない。事故が発生してから使用者側に安全配慮義務違反が認定されるのがほとんどである。

「当時の私の肩書きはデザイナーですが、『好きなことをしているから寝ないで頑張るのはあたり前』だと思っていました。周囲にもそのように考えている人が少なからずいました。『自分のやりたい仕事』『自分の好きな仕事』『自分で選んだ仕事』、だから『頑張るのはあたり前』という意識は、次第に自分を追い込んでしまいます。」(汐街コナ氏)

「最初は前向きでポジティブだった『頑張る』が、思いがけずにあなたを暗い方向に連れていくこともあります。ちょっと注意してみてください。」(同)

■自分の状況を客観視することが大切である

――もし、あなたの立場が部下であればアンコントロールな面もあるが、上司のマネージの癖は見抜いておいたほうがいい。「我慢を強要する上司」であれば注意が必要だ。とくに、私のようなバブル世代の人は、「24時間戦えますか?」が合言葉の可能性がある。

働く人が心の病気になる原因は、過重労働、周囲とのトラブルなどが挙げられるが、その主な理由は「パワハラ」ではないかと思う。「最近の若者は折れやすい」といった声も聞かれる。しかし、そこに潜む実態を理解しなければいけない。

今の40~50代は若いころ、上からガツンと怒られダメ出しされて育ってきた世代である。そういった指導を受けて、『成長できた』と感じている人は、それが正しい指導法だと思い込んでいる。自分がされたことがスタンダードになる、という側面もあるだろう。

「もし、無理難題を強要しパワハラがひどい。このような上司がいたら、心のなかで次ぎのように思ってください。『あっそ、そんなの自分にはカンケーねーよ』。世の中にはあなたよりも過酷な状況の人はたくさんいるでしょう。もっと我慢して努力している人もいるでしょう。でも、そんなのあなたにはカンケーないですよね。」(汐街コナ氏)

「いまどこに向かっていますか。その先に夢や幸せはありますか。どこまで頑張ればいいのか、どこまでが『甘え』で、どこからが『頑張りすぎ』なのか。自分が追い詰められる前に、避難することを強くおすすめします。」(同)

――大切なことは、自らを客観視することにある。汐街コナ氏の生々しい体験を、精神科医・ゆうきゆう氏が解説する内容には、リアリティがある。現代社会で働くストレスを抱えるすべての人におすすめしたい。また、思わぬ形とはいえ「出版」の夢が叶った、汐街コナ氏の前途を祝したい。

参考書籍
「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)

尾藤克之
コラムニスト

<アゴラ研究所からお知らせ>
―2017年5月6日に開講しました―

第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
講義の様子「アゴラ出版道場第2回目のご報告