筆者がアゴラでどこよりも早く都民ファーストの会(以下・都ファ)の内部対立を書いてから、ちょうど3か月。ついに昨日(1月7日)、3人の新人都議、森澤恭子氏(品川区)、斉藤礼伊奈氏(多摩市・稲城市)、奥澤高広氏(町田市)が離党。新会派「無所属 東京みらい」を結成した(離党に当たっての声明はアゴラで奥澤氏本人のエントリーをお読みいただきたい)。
与党会派なのに「遠心力」が表面化した意味
悔しいことに離党のタイミングをほぼ手中に収めていながら、別件で忙殺されているうちに、NHKに重要な節目を抜かれてしまった。
一方で、この間「小池派」の人たちから「少なくとも、集団離党はあり得ない」(早川忠孝氏)、「アゴラはフェイクニュースを流している」(熱狂的小池シンパの某ツイッター民)などと散々な言われようをされたが、蓮舫氏の国籍問題の時と同じく、たしかな事実を掴めば、ほぼ想定通りの結果が導き出されるのだと改めて得心した。
そうした取材者としての個人的な思いはさておき、都議会与党第1党から3人もの離党者が出るというのは重大事だ。おそらく小池派の論者は「まだ一部の動きにすぎない」と平静に努めるだろうが、「与党は求心力が働き、野党は遠心力が働く」という政治力学の原則論の逆を行く異例の事態であることに間違いはない。この10年の国政でいえば、与党だった当時の民主党から小沢一郎氏ら52人が「集団離党」した時を想起させる。
もちろん離党者の数の上ではその時よりはるかに少ないが、民主党の分裂劇がのちの政権転落に至ったように、都ファがもはや数字だけ第1党なだけで、事実上のリーダーである小池知事ともども都政における求心力が地に堕ちたことを示したと言える。
複数の都議が「離党者はまだまだ出る」と口を揃えており、今回の3人の離党劇は都民ファーストの会滅亡への第2幕が始まったに過ぎない。
4つの「調略」ルートはどう機能したか
さて、離党前後で筆者が取材・分析した内容を加味し、都庁記者クラブのメディアが書かない政局劇の裏舞台の一端を明かそう。さかのぼれば10月から11月の時点では、離党者が出るとしても奥澤氏一人にとどまる、という見方が都議会各党では支配的だった。
しかし、都ファの亀裂が表面化すると、執行部と対立した3人を含む新人都議らへの他党への「調略」攻勢は激しくなった。以前も書いたように、筆者の取材でわかっただけでも下記の4つのルートが存在していた。
①「音喜多新党」ルート(※音喜多氏はその後、柳ヶ瀬裕文氏と会派を結成)
②旧民主党ルート
③特別秘書の野田数氏とつながる自民党・山崎一輝都議ルート
④自民党・川松真一郎都議ルート
まず、①の音喜多氏についてだが、特に熱心に調略をかけていたが、空回りが続いた。きのうの記者会見でも奥澤氏は連携について「考えていない」とあっさり否定した。音喜多氏が北区長選に出馬する可能性が高いことに加え、離党しても「東京大改革」の初心に返る(=小池氏が都知事選、都議選で掲げていた本来の政策ビジョンの実現)に固執していることからしても、音喜多氏らと連携・合流すると「反小池」色が強くなりすぎると判断したと見られる。
次に②の民主党ルートはその後、取材を進めると、旧民主党系の国会議員の影がちらつく。取材時間の不足で当事者全員に確認を取りきれなかったので国会議員の名前は現時点で控えるが、離党した3人のうち、森澤氏に対しては、特にアプローチが強かったとの情報が都政関係者の間で広がっている。
③については後述する。先に④の川松氏に触れておくと、斉藤氏に働きかけていたのを取材に認めた。川松氏は昨日のツイッターでも3人の能力を買っているように述べているが、
3人の中でも同じ文教委員会に所属する斉藤氏については特に買っているようだ。川松氏は筆者の取材に対して「群を抜いたセンスを感じた。将来的にどんな選択をされたとしても、彼女は議員であり続けるべきと思った」とベタ褒めだった。
なお、この④のルートに関しては、読売記者時代の筆者の同期でもある宮地美陽子・知事特別秘書との興味深い接点が浮上してきた。“政治素人”の彼女が思わぬ存在感を発揮していると以前書いたが、その後の取材で彼女の「指南役」を買って出ている「小池派」の都庁幹部職員が影のキーマンとして暗躍していることが判明した。今後の小池都政を占う上で見逃せない情報だが、本筋からずれるので後日に譲りたい。
もっとも秘匿性の高い第3ルートが今後のカギ?
さて、後回しにしたが、今後の政局の鍵を握るのは③の山崎都議と特別秘書、野田氏のルートになる気がしている。筆者がその存在を10月に特報した時、都ファ内部で動揺がもっとも広がったそうだが、率直に言うと、筆者自身も、また都政関係者の間でも、これが「本命」ルートだと見なしている。
ただ、①、②、④と異なり、この③はもっとも正体が掴みにくい。野田氏は小池氏と再び溝が大きくなっているとされるが、辞職もしておらず、表面上の動きはない。一方、自民党内に取材をかけても実相を掴むのは容易でないことを思い知らされた。
秘匿性が高いからこそ本命視されるとも言えるが、川松氏が斉藤氏に“惚れ込む”ように、3人は議員としてのポテンシャルは高い。4,000人の小池塾から選び抜かれ、今回の離党劇で見せた豪胆さも考えれば、都議会自民党が引き抜きを画策してもおかしくないだろう。
一方で、3人が勝ち抜いた都議選の各選挙区では、自民の1人が現職で残り、3人は落選後も政治活動を継続。つまり受け入れるにしても自民党内での「枠」がない。
ただ、浪人中の3人のうち誰か1人でも他の選挙に転戦すれば、党内での「枠」は空く。そして次の都議選前のどこかのタイミングで、今回離党した3人の現職を移籍させる道が拓ける。
もし山崎氏が本気で3人の誰かの引き抜きを狙うなら、将来の移籍に含みを残すために、「反自民」色があまり強くならないように内々にアドバイスするくらいの「調略」は考えられよう。もちろん、それはこれまでの取材に基づくとはいえ、筆者の一方的な仮説に過ぎないが、当面はじっくりと布石を打つことに専念する「静かな仕掛け」は、もっともベールに包まれた③ルートにこそあり得よう。
いずれにせよ、都ファから複数の離党者が出たことで、今後の都政政局に異様な緊張感がみなぎってくるのは間違いない。小池知事の足元がまた一歩、崩壊に近づいた。