開戦時に駐米大使だった野村吉三郎提督は、日米が開戦した場合に取るべき姿勢を在米の日系居住者から問われ、「君たちはアメリカ国籍なのだから、立派なアメリカ人としてアメリカに忠誠を尽くせ。それが大和民族の正しい道というものだ」と答えたそうだ(残念ながら出典を失念)。
野村は、不出来だった日米交渉や、その後の最後通牒でハル国務長官への送達が真珠湾攻撃の後になる不手際があり、評判は余り芳しくない。が、筆者はこのエピソードを、野村の人柄が偲ばれるうえ如何にも日本人らしい、と好意的に受け取る。
開戦後、在米日系人の多くが収容所に入れられた。欧州戦線で多くの犠牲を払いながら奮戦した442連隊は、収容所から志願した日系人で編成された。ドイツ軍に包囲されたテキサス大隊の救出やユダヤ人収容所の解放での、442連隊の命を顧みない活躍は知る人ぞ知る。
野村は「どこの国に住んでいようと、一朝事ある秋は必ず祖国に忠誠を尽くせ」と答えることもできただろう。が、野村はそうは言わなかった。中国など、法律でその様にしているし、国内の外国企業に対してさえ中国への忠誠を誓わせているのに。
筆者がこれを思い出したのは、海外に暮らす韓国系住民が、とりわけ慰安婦問題に関して引き起こす愛国行動が余りに頻繁で執拗、かつ広範で、このエピソードと好対照だからだ。それらは往々にして、現地の国民やそこで暮らす他の外国系居住者をも巻き込んで展開される。
昨年10月にはドイツのベルリン市に慰安婦像と碑文を設置、日本の抗議で撤去に向かうや、現地の韓国系住民が市民のみならず在住日本人まで巻き込み、存続に向けて抗議活動を猛展開した。どうやらそれが功を奏したらしく、撤去は一時停止から永久停止になりそうだ。
そこへラムザイヤー教授の「慰安婦は売春」論文への今回の集中攻撃。先ずは米国人学者らの反論を集めてジャブを放ち、次にハーバードロースクールの韓国系教授がラムザイヤー教授に接触を図って、発言の言葉尻を捉えたような反論を米誌に掲載した。
次はどうするのかと思っていたら、米国のフィラデルフィア市議会でラムザイヤー論文を糾弾する決議案が採択されたと7日の中央日報が報じた。読むと韓国系のデビッド・オー市議会議員が先月25日に発議し、5日に決議されたとのこと。
記事に依れば、決議案は「歴史的合意と旧日本軍性的奴隷を強要された女性数千人に対する歴史的証拠と矛盾するラムザイヤー教授の論文『太平洋戦争の性契約』に反論する。極度に不正確で数千人の被害女性に対する侮辱的な話」と規定したという。
また「ラムザイヤー教授の論文はこれら女性に加えられた深刻な不正と苦難を契約関係の売春に格下げした無礼な歴史書き直し」とし、合わせて慰安婦は「韓国をはじめとするアジア各国の女性たちを強制的に動員したむごたらしい人身売買制度」と強調したとする。
さらに決議案は「戦時残酷行為の被害者らとしては自身の経験談が正確に語られるのが当然で、危険な歴史を描き直すことを糾弾しなければならない。生存者らと全世界の女性に代わり歴史的残酷行為を最小化しようとする危険な試みに反対し続けなければならず、そうしたことが再び起きないようにしなければならない」と促したという。
フィラデルフィアの市議会員がこの様な知識を持っているはずもなく、韓国系議員がそれをいいことにデタラメを吹き込んで決議させたのだろう。それが証拠に、20万であるはずの人数が数千人になっている。20万などという荒唐無稽な数字では、さすがに市議会議員に突っ込まれると思ったか。
記事は「連邦または州議会次元ではないが人口規模で米国内6位の大都市でラムザイヤー教授の論文を名指しして公開糾弾を決議しただけにその意味は小さくないとの分析が出ている」などとする。これに筆者はイ・ヨンスが米議会下院で嘘泣きし、日本に謝罪を求める決議をさせたのを思い出す。
そのイ・ヨンスはこの一件のICJ提訴を直訴すべく文在寅に面会を求めた。このところ何かとビビっている文にその度胸はあるまいが、ならば日本政府がイ・ヨンスの気の済むようにしてはどうか。米下院やベルリン市ミッテ区やフィラデルフィア市議会は自らの不明を恥じることになろう。が、恨むべき相手は韓国系住民だ。