三重大麻酔科問題はNHKが報じる単純汚職ではない③

2021年6月10日、三重大学は麻酔科主任教授の公募を開始した。

前2回の記事(①、)で解説したように、三重大学麻酔科は15年間「手術室出禁のA教授」「パワハラB教授」「人望あるが製薬会社癒着のC教授」によって不祥事が相次ぎ、麻酔科専門医の養成がストップし、三重県が深刻な麻酔科医不足に陥った黒歴史がある。C教授は逮捕され、A教授も定年退官の目途が立ったので、次期教授を探すらしい。しかしながら、またもやダメ教授を掴んで黒歴史を更新することのないよう、大学側が注意すべきポイントをまとめてみた。

akshmiprasad S/iStock

1. 「地方医大教授は、もはや人気ポストではない」ことを自覚すべき

教授募集要項から透けて見えるのは、「今までは“臨床麻酔部教授”という中途半端なポストだったから上手くいかなかった。今度は麻酔科全体を統括する主任教授だから、白い巨塔のような権威あるポジションだ。候補者は殺到するはず。」という甘すぎる大学側の期待である。「我が家は名門の本家だ。山も畑も立派な墓もある。息子の嫁には相応の娘を選ばないと!」と、気勢を上げる地方の老夫婦(息子は40代)のような痛々しさを感じるのだ。

2004年度開始の新研修医制度によって、若手医師の価値観は大きく変わった。「年功序列」「滅私奉公」から「労働者の権利」「自己主張」「ワークライフバランス」を重視する者が増えた。そもそも、新研修医制度は米国のレジデント制度を模倣しており、米国式教育を施したら米国風医師が育ったとも言える。地位や名誉よりも、都市部での自由な生活を好むものが多い。薄給多忙な地方医大付属病院勤務は、たとえ教授の肩書であっても既に人気ポストではない。

2. 「オレを教授にしたら部下◯人連れて来る」詐欺師にご用心

近年の教授選でよく聞く自己アピールが「オレを教授にしたら部下◯人連れて来る」である。「腕も研究業績も性格もビミョー」なオヤジほど、そういうホラを吹いて教授選で人生一発逆転を狙うケースが多いように思う。人手不足に悩む地方医大ではしばしば教授選考の決め手になるが、口約束に法的拘束力はなく、「教授選の公約どおりに部下が集まらない」からといって就任後に教授を更迭することは難しい。

私自身も「数年間会っていない知り合いレベルの医師」に「オレを教授にしたら、筒井先生が従いて来る」と勝手にアピールされた経験がある。しかしながら、賢明な採用担当者が私に確認の電話をしたことで、彼の無断アピールが発覚した。私は電話で「赴任の意思はない、勝手にアピールされて困惑している」旨を返答したところ…それが効いたのか彼は落選した。

もし、教授候補者が「部下◯人連れて来る」アピールをしたならば、「具体的に部下名を記述させ、電話で意思を確認する」という一手間をかけることを強くお勧めしたい。

3. 「平和な禅譲」ではなく「焦土からの再建」という難事業…活動費が必要

今回の教授募集は「平和な禅譲」ではない。十数年における内乱で荒廃し、焦土化した医局をゼロから立ち上げる難事業である。新規医師のリクルートや、大学ならではの勉強会や実験室を立ち上げるには、平時以上の人手や活動費用が必要なのは自明である。

C教授が製薬会社と癒着の泥沼にはまった一因は、大学側が研究費も医師リクルート費用もマトモに出さなかったからであろう。A教授を窓際に置いてダラダラ15年間も給料を払い続けるならば、A教授を早期リストラしてA教授給与相当額を研究費としてC教授に渡しておけば、今頃はなんの問題もなく三重大麻酔科は運営されていたのに…と個人的には残念に思う。

大学側は、この教訓を糧に次期教授には相応の「医局再建のための活動費」「リクルート活動のための専属アシスタント」などを公費で準備することをお勧めしたい。

【関連記事】
三重大麻酔科問題はNHKが報じる単純汚職ではない①
三重大麻酔科問題はNHKが報じる単純汚職ではない②