今回も、いくつか気になった番組・報道についてコメントしたい。
NHK BS世界のドキュメンタリー「デイ・ゼロ 地球から水がなくなる日」という番組を見た。前半の内容は良かった。米国・ブラジルなど水資源に変化が現れている世界各地の現場を丹念に取材している。
米国の農業が「化石水」を汲み上げているため持続可能でないことはずっと以前から知られていたが、実際に水資源の枯渇が見え始めたのは最近のことである。心ある研究者は、帯水層への水の供給量以上に水を汲み上げたら、いずれ枯渇してしまうと警告していた。当然である。特に、牛肉生産に多くの水資源を消費していることに注目したい(牛肉は生産における環境負荷が大きい)。
またブラジルでは、森林の過剰な開発・伐採のために雨が降らなくなり、それが水不足を招くと言う注目すべき指摘もあった。植物が水を多く欲する時期になると森林から雨の元になる成分が放出され、それが降水を促す。「森林が海を育てる」ことも知られており、逆に言えば森林の荒廃は海の荒廃をもたらす(知床などで実際に例がある)。
この種の、水と人間・自然の関係は、持続可能な世界を構想する上での基本的知識になるべきだと、筆者は思う。その点では大いに有益な番組だった。
しかしこの番組の終わりの方で、奇妙な説明が入る。こうした水不足を生んだ原因は地球温暖化とそれによる気候変動だと、何の根拠も示さず言い切ったのだ。温暖化論者は、大雨が降れば温暖化のせいだと言い、干ばつが起きても「温暖化の影響」を言うが、ここでも同じ論法だ。
番組前半で、帯水層からの水の汲みすぎや森林の過伐採が水不足の原因だと指摘しておきながら、後半ではいきなり「気候変動」を持ち出すこの非論理性に、思わずのけぞってしまった。
帯水層からの水の汲みすぎは、主に牛肉生産のために牛を大量飼育していることに因る。それを防ぎたいならば、牛の飼育数(=牛肉消費)を減らすか、飼育に依らない食肉生産(例えば工業的な合成食肉)を模索するなどの方策を考えるべきだろう。これがなぜ、いきなり「温暖化」の話になるのか、不可解だ。
同様に、森林の過伐採が問題ならば、これを如何にして低減させるかを真面目に議論しなければならない。林業で食べている人間もいるから、一概に伐採禁止にはできないだろうが、森林管理を上手くやれば、持続可能な林業は可能なはずだ。それを考え出すのが人間の「知恵」だろうに、何もかも「温暖化」のせいにするこの単細胞的思考は・・?
レーザー核融合で「歴史的成果」 ライト兄弟に匹敵する実験とは
やれやれ、また出たか、核融合の「誇大広告」が。新聞の見出しでは「レーザー核融合 実用化へ光」とある。実用化? それ、いつの話なの・・? ライト兄弟に匹敵?
しかし実際の新聞記事では、開発の実情を案外あっさりと白状している。
例えば、
- 実験での出力は入力の7割に過ぎない:本来なら、入力の何倍もの出力が発生しないとモノにならないが、現時点では入力に見合った出力が得られていない。これは「本物の核融合点火」ではないからだ(記事でも「点火」に大きく近づいた、とある)。「実用まであと少し」は、この30年以上、ずっと続いてきた宣伝文句である。今度こそ、本当なのか?これで何度目?
- 出力回数:現在は2時間に1回しかエネルギーを発生できないが、1秒間に100回にするのが目標だと・・。2時間=7200秒に1回から毎秒100回と言えば、時間間隔は72万分の1に短縮できなければならないと言う意味である。これで「実用まであと少し」って言える?
- 発電方法:記事にも「点火できても、生じた熱を電気に変える技術はまだない」とある。以前に筆者が指摘した通りだ。
レーザー核融合もかなり古くから研究されてきた方式だが、レーザーを照射してエネルギーを集中させる方式の宿命として「単発」でしか反応を起こせない欠点がある。「1秒間に100回」にするのが目標なのは、連続操作に近づけるための避けられない課題なのだが、いかにも困難度が高い。ITERを始めとするトカマク型でも長時間の連続運転は難しそうだが、レーザー式ではハードルがさらに高い。
「脱炭素」と共に核融合の誇大広告も息を吹き返しているが、いつまで続くことやら。まずは、本物の「点火」を見てからの話だが・・。
気候変動 なすべき報道は
これまた「朝日新聞らしい」というべき記事である。冒頭いきなり「気候変動は地球の命運がかかっている問題」で始まり、「燃やしてもCO2が出ないため次世代のエネルギーとして注目される水素やアンモニアなど、新技術もわかりやすく報じていきたい」となる。そうだったら、筆者などが再三指摘している、水素・アンモニアの抱えている問題点も正確に伝えて欲しいものだが。
後半では「もう理屈抜きに脱炭素は経済の主要問題となり、これを進めないと世界の中で日本が置いていかれる状況なのに・・」との発言が出てくる。こうなるともはや「理屈抜き」の話になってしまう。科学的根拠だとかデータだとか、そんなものはどうでも良いんだと。いやはや、これで「あすへの報道審議会」と称しているのだから驚く。昔の「大政翼賛会」と見間違うほどだ。
筆者から見ると、この人たちは、一種のマインドコントロール下にあるような印象を受ける。何も考えず、疑いもせず、ただ「オンダンカ ダツタンソ」の呪文だけを唱えている「信者」にしか見えないからだ。この座談会には、疑うことから始まるはずの「科学的思考」が全然ない。
NHK BS世界のドキュメンタリー「グレタ ひとりぼっちの挑戦(前・後編)」も、上記記事と似た面がある。さしたる根拠も示さずに断定する姿勢が。この少女も「人為的地球温暖化説」を頭から信じ込み、ひとかけらも疑っていない。とにかく「CO2排出削減」一辺倒、賛同しない人間は「敵」呼ばわりだ。筆者は個人的には、単に「広告塔」に使われている無知な少女を憐れと思い同情しているのであるが。
EU、ロシアのエネルギー依存脱却へ 10年以内に「ゼロ」
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は8日、ロシア産天然ガスの依存度を年内に約6割低下させ、「2030年よりかなり前に」 依存をゼロにする計画を発表した。(中略)
EUは現在、ロシアから年間1550億立方メートルの天然ガス・液化天然ガス(LNG)を輸入。欧州委は、米国やカタールなどの国からの輸入で、今年はこの3分の1以上に当たる600億立方メートルが代替できると試算。30年までにはバイオメタンと水素の利用拡大で、一段の代替の進展が可能とした。
また、風力発電と太陽光発電の拡充で今年は200億立方メートルの天然ガス需要が代替できると試算。30年までに発電能力を3倍に高めれば、毎年1700億立方メートルの天然ガス需要が削減できるとした。(後略)
これもまた、何とも凄い「試算」だ。「夢があって良いねえ」と言いたいが、単なる「夢」で終わりそうだ。こんなことを言うから、ロシア政府は「欧州がロシアを制裁し続けるなら、ノルドストリーム1(ロシアから独仏などに天然ガスを送っているパイプライン)を止めるぞ」と言い出した。だから言わんこっちゃない。藪をつついたら大蛇が出てきた。今ロシアのガスを止められたら、40%も依存しているドイツは干上がる。
そもそも、バイオメタンと水素の利用拡大なんて、どこから持ってくる気なのか? 確かに畜糞や下水汚泥の嫌気性発酵でメタンガスは得られるが、利用できるものは既に使われているだろう。それに嫌気性発酵後の残渣は有機物濃度が高く、通常の活性汚泥法のような水処理では負荷が大きすぎる。最も良いのは、液肥として畑にまくことだが、年に何回かしか出来ないので、巨大なタンクが要る。それでも、まく畑があれば良いが、都市部では全く無理だ。日本でもFIT制度でバイオメタンからの電力が高いので大勢がワッと飛びついたが、上手く行った例は少ない。
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こうした報道や番組を見てつくづく感じるのは「脱炭素」の自滅的な性格だ。EUの例などが典型的だが、他人のクビを絞めようとしたら自分の首が先に絞まってしまった、類の話が多い。
脱炭素を主張しながら、原油や天然ガスの増産を望み、資源開発に投資するこのチグハグさに、何も感じないのだろうか・・。そもそも「脱炭素」を進めて、得をするのは誰なんだ? 金融資本? 筆者の目からは、欧米日の自滅、中露の高笑い、にしか見えないのであるが。