文通費と政党間協議会とメディアの役割

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文通費改革の議論が迷走している。

今回は、この迷走の「なぜ」を解剖したい。

全政党の「実は使途公開などしたくない」が根本原因

すべての政党・政治家は、本音のところでは「用途不問の月額100万円」について、現状維持したい。

これは当然で、何に使ってもよい100万円の金が毎月入っていたのに、それを使い勝手の悪いものにしたい人間などいないからだ。

さて、その前提にたって、「ではどうすれば国民の関心をそらすことができるか?」と政治家たちは考える。

昨年末に、国民の間で燃え上がった「文通費の使途を公開せよ!」という世論を沈静化し、結果的に「無かったこと」にするには、どうしたらよいだろう?

主要政党に議論の責任を持たせる座組を作る

ここまで世論がホットになっている状態で、参議院議員選挙まで何もしないわけにはいかない。このままいくと、「文通費選挙」になってしまうおそれすらある。

また、まわりを見渡すと、「自民、公明はやる気なし」に対して、「立憲、維新、国民は法案提出」という流れができて、特に維新は先行して使途を公開するなど、行動と情報発信で一歩も二歩も先んじている。

自民党や公明党としては、「まずはこの流れを止めなければ」となる。

そこで、とにかく「文通費改革を前に進めている風情」を作るため、主要政党からなる座組を作る。それが、いわゆる「文通費協議会」だ。

政党間協議会というのは、省庁紐づきの機関ではないので、いわゆる「記者クラブ」が存在しない。つまり、協議会の参加政党がしっかり広報しない限り、開催の詳細がわかりにくい極めて「取材しにくい会議体」だ。さらに、協議会の参加政党に「メディアには情報を流さない」という同意を取り付けさえすれば、この協議会は国民の監視から逃れ「政治家たちだけ」のコントロール下におくことも可能だ。

さらに、文通費協議会の参加メンバーは「衆参両院の国対委員長代理」だ。一般的に、国対委員長の代理に張り付いている記者はいないので、この協議会の秘匿性はますます高まる。

このような流れができたのが、本年1月6日だ。

この1月6日までにいたる経緯は、私に論考に時系列でまとめたので、適宜参照されたい。

国政政党への文通費法改正アンケートの結果

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文通費協議会の議論を骨抜きにする

主要政党を巻き込んで文通費協議会は作った、メディア対策も目途がついた、となると次にこの協議会の議論を「骨抜き」にする工作をする必要がある。

議論というのは、議題設定がすべてだ。本協議会の前提は

  • 2週間に1回開催
  • 国民の関心が下がれば通常国会会期中の6月には終了も視野

だから、開催回数もわかる。そこで、「議論を骨抜きにしたい政党」は、とにかく「無意味な議題設定で、時間切れを狙う」緻密な作戦をたてて会議に臨むはずだ。

さて、やる気満々風情の政党の政治家も、すでに協議会の座組は確定しているから、「衆参両院の国対委員長代理」に議論を託す必要がある。つまり、この協議会はどの政党においても国会対策委員会の縄張りとなったわけだ。

こうなると、国体委員会以外の政治家は、本協議会で行われている議論について口を出しにくくなる。また、これはあくまで推測だが、協議会の議論の経過は政党内でほとんど共有されていないのではないか。

ここまでお膳立てできたら、あとは「できるだけ無意味な議題設定」をして、ゆっくり議論すればよい。

協議会での議論は確かにあるので、まったく経過を報告しないわけにはいかない。そこで、これは推測だが、協議会はどこかの通信社などに「今日の議論はこうなりましたよ」くらいの、A4で1~2枚の程度の資料を渡す。その資料を元に、メディアは気の抜けたような報道をする。

協議会にはすべての主要政党が参加しているので、参議院議員選挙への影響はどの政党にとっても最小限なものとなる。

先のとおり、基本的には「すべての政治家」が、使途公開などしたくない。国民の関心がなくなれば、誰であれ気づかれないように協議会の日程調整をやめることに異存はない。

かくして、「骨抜き協議会の自然消滅」は完了する。

メディアには圧力がかかっていないのか?

ここまでの経緯で、私が非常に不可解に思うのは、メディアの報道についてだ。

思い出してほしいが、昨年末、この問題が国民的議論として加熱していた当時、ほぼ全ての主要紙が「文通費の使途公開をすべき」という社説を書いた。また、連日のようにテレビでも報道があった。

それが、この議論がいよいよ本格化しようとするこの時期、まさにすべてのメディアが突然報道をやめてしまった。

確かに政党間協議会はメディアにとって取材しにくい建付けかもしれない。

また、ウクライナ問題が巨大すぎて、それどころではないという指摘もわからないではない。

しかし、ほんの2ヶ月前までどのメディアでも指摘していたように、文通費の使途公開が達成できるか否かは、政治の説明責任の確立という文脈で、我が国の民主主義の礎を築けるかどうか、という大きな問題であったはずだ。

繰り返しになるが、今一度いう。この改革を前に動かすには、メディアの力がどうしても必要だ。

どのような圧力がかかっていても、役割を忘れず一層の奮起をしてほしい。

時事通信社報道を元にした文通費協議会の議論の経過

以下は、すべて時事通信社の報道を箇条書きにしたものだ。

2022年2月8日
・文書通信交通滞在費協議会(以下「文通費協議会」とする)の初会合
・週間に1回のペースで開催
・日割り支給や返納、使途の対象と公開の在り方などをテーマに議論
・今国会中に結論を得る方針を確認
・出席政党は自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主、共産の6党
・座長を自民党の御法川信英氏、事務局長を立民の寺田学氏が務める
・少数会派に対してはヒアリングを実施

同年2月22日
「日割り支給」の在り方について、3月8日の次回会合で一定の方向性を得ることで合意

同年3月8日
文通費の名称が実態に沿わなくなっているとして、呼称変更と根拠法改正が必要だとの意見が提起されたため、その要否を含めて次回に結論を出すことになった(高橋注:2月22日に示された『「日割り支給」の有り方』に関し、「一定の方向性」が示されたとする報道はなかった)

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