電力注意報が毎日出て、原発再稼動への関心が高まっている。きょう岸田首相は記者会見で再稼動に言及し、「(原子力規制委員会の)審査の迅速化を着実に実施していく」とのべたが、審査を迅速化する必要はない。安全審査と原子炉の運転は無関係だから、今すぐ動かせるのだ。
原子力規制委員会の「確認」なしで原子炉は運転できる
この点について、民主党政権の閣僚だった細野豪志氏はこう書いている。
原発の再稼働の是非を判断する権限は原子力規制委員会にある。原子力規制委員会の頭越しに政府が再稼働を決めることは法律上できない。原子炉等規制法第43条の3の11で「原子力規制委員会の確認を受けた後でなければ、その発電用原子炉施設を使用してはならない」、すなわち再稼働することはできないと規定されている。
これは誤りである。ここで「発電用原子炉施設」と書かれているのは、原子炉本体だけではなく、原発サイト内のすべての施設をさす。たとえば新しい核燃料倉庫を建てたときは、使用前検査で委員会の確認を受けないと使用できないが、その後は規制基準が変更されても使用できる。
第43条の3の11の規定は、原子炉を最初に使用する前に審査が必要だという意味であり、その後は規制基準が変更されても運転を止める必要はない。サイト内の倉庫などの審査をするたびに原子炉を止めていたら、運転できないからである。これは規制委員会のサイトにも書かれている。
ここで「設置(変更)許可の審査」と書かれているのが安全審査だが、これは原子炉を最初に使用する「起動前」に行われるもので、「起動後」は審査のために運転を止めることはない。この図でも、年4回「保安検査」をやるが、運転は止めない。
ただし原子炉を止めないと検査できない場合は止める。毎年行われる定期検査で原子炉内部をチェックするときは運転を止めるが、安全審査で原子炉の運転を止める必要はまずない。倉庫の審査で止めないのと同じだ。これは新解釈ではなく、現在の運用である。
ところが民主党政権の決めた新規制基準だけは(法的根拠なく)例外とされ、たとえば北海道電力の泊原発では、活断層が12万年前にあったかなかったという運転とは無関係な審査のために「起動後」も運転が10年以上も止められている。これは上の図の検査フローを逸脱している。
規制委員会は「特重」を例外にする法的根拠を説明せよ
細野氏の指摘する関西電力などの特重(特定重大事故等対処施設)の問題も、異常な運用である。これはテロ対策のために予備の中央制御室をつくるものだが、バックアップはその定義によって本体とは独立なので、審査のために本体を止める必要はない。
これは規制委員会が一方的に5年の猶予期間を設定し、それに間に合わなかったから止めるという行政処分で止まっている。この5年に根拠はなく、10年でもいいのだ。それを決めたのは更田委員長の裁量だが、彼も「特定重大事故等対処施設がないことが直ちに危険に結びつくとは考えておりません」と認めている。
これはバックフィット(規制の遡及適用)の是非とは別の問題である。原発について一定のバックフィットは必要だが、それが終わるまで運転を止めることはありえない。耐震基準の改正と同時にすべての建物の利用を禁止しないのと同じだ。
原子炉等規制法では上の図のように、規制基準が変更されても「起動後」は停止しないのが原則である。これを「定期検査に入ったら即時適用する」と決めたのが田中私案だが、2020年に改正された炉規制法ではそういう例外はなくなった。
特重については適用までに5年の猶予期間を置くことになっているが、それを過ぎたら運転を止めるという規定はない。原子炉は委員長の是正措置命令がないと、止めることはできないのだ。
ややこしいので繰り返すと、使用前検査の終わった原子炉は、規制基準が変更されても運転できる。安全審査は原子炉を運転しながらやるのが現在のルールであり、倉庫など普通の施設についてはそういう運用が行われている。更田委員長が特重をその例外にするなら、直ちに危険に結びつくとは考えていない設備の審査で運転を止める法的根拠を説明する責任がある。
説明できないなら、関電はただちに美浜3号機と高浜1号・2号機を運転できる。それが現在の炉規制法の運用だから、政府が再稼動を命じる必要はない。地元の了解も得ているので、岸田首相が更田委員長に「審査は法令にもとづいて運転と並行してやってください」といえばいいだけだ。
これについては細野氏も含めて、7月11日のシンポジウムで考えたい。
*この問題は細かい話がたくさんあり、委員会が特重を止める根拠は保安規定だが、これも法解釈の誤りだ。