山上容疑者に踊らされる日本

森友 由

普段テレビを観ない者であっても、「統一教会」の四文字がどうやっても耳や目に飛び込んでくる今日この頃である。ラジオ、ネット上に表示される報道機関各社の記事、政治家や著名人の発言内容、SNS上の投稿やコメント・・挙げればキリがない。「統一教会」だらけである。

仮に山上容疑者が「統一教会」を世に知らしめたい、スポットライトを当てたいと思っていたとしたら、無償で行われているこの広報活動は金額にしたら一体いくらになるのであろうか。数億円、数十億円・・いやいや、数百億円・・。まったく、人の好い人たちである。容疑者が意図して発言したかもしれないことを、無料で全国民にしらしめてくれているのだから。

山上容疑者 NHKより

さて、山上容疑者が殺したとされる人物は一般人だったのだろうか。情報の取り扱いや各社の報道姿勢を見ていると、そう思えてならない。しかし、実際に殺されたのは、日本の元総理大臣であり、「歩く総合安全保障」とも称され、国内外から高い信頼と評価を得ていた、他でもない、安倍晋三氏ではなかったか。

それにも関わらず、これだけ情報(英語で言うIntelligence)が一般的な殺人事件と相違ない扱いをされていることが、甚だ疑問である。警護に対する問題意識は前回の投稿で触れたが、我が国の情報に対する意識の低さにも愕然としているのは私だけだろうか。

安倍晋三が暗殺されたのである。まず、容疑者である山上容疑者をすぐに拘束し、外部に情報が漏れないように国家最高レベルの徹底したセキュリティの管理下に置くべきである。彼が他殺されたり自殺したりしないように、絶えず見張りを付ける必要もあるだろう。

容疑者がこの段階で何を言っているかは外部にそもそも漏れてはならない。なぜなら容疑者が言っている内容はこの時点で真実かどうかも分からないからであり、そんな曖昧な情報はむしろ害でしかない。先に徹底した捜査、検証、真相究明が行われてしかるべきである。憶測は憶測でしかないにも関わらず、視聴率を正義とするメディア、あるいは何らかしらの意図を持ったメディアは、その気になれば憶測をさも真実であるかのように見せることができてしまうのだ。

私が思うに、今の「統一教会」はまさにこの状況である。山上容疑者は現時点では容疑者であり、言ってしまえば、まだ犯人かどうかも分かっていない。それなのに、彼が疑いようもない犯人であるとされている。彼が口にしたとされる動機までも、まるで疑念の余地がない真実とされている。

「統一教会に対する恨みがあった」という安倍氏に直結しづらい動機が、まことしやかに連日報道をされ、人々を洗脳しているように見える。そして、政治家や知識人までもがその流れに乗り、統一教会の問題を指摘したりしている。非常に滑稽である。

そもそも、奈良医大の記者会見で医師が述べたことと、山上容疑者が犯人であることの矛盾は一体どこへいってしまったのか。記者会見の現場に主要メディアが所狭しと結集し、多くの質問を医師に投げかけていた。その中で明らかになったことは、「銃創は安倍氏の前頸部に二か所。頸部から心臓に向かった弾丸が動脈と心室を損傷したことが致命傷となった。身体の背面に傷は認められなかった。左腕には射出口と思われる傷が一つあった。」ということである。

そもそも山上容疑者は前頸部に銃弾を撃ち込める位置にはいなかった筈なので、犯人であることの説明がつかない。奈良県警がその後にひそかに発表した司法解剖結果は「左上腕から入った銃弾1発が、左右の鎖骨下にある動脈を傷つけたことが致命傷になった」としているようだ。医師の説明と全く異なる内容である。

仮に医師の説明が間違っていたならば、奈良県警はなぜ記者会見を開き、イラストや当時の動画を用いて詳細を丁寧に説明しないのだろうか。頸部に銃創は二か所あった筈だが、1発と断定する根拠は何なのか。頸部の銃創は射入口なのか、射出口なのか。入射角を分析した結果からしても、山上容疑者で間違いないのか。現場検証と合わせ、コンピュータによる検証もしたのか。

医師は明確に心臓の壁に穴が開いていて、そこからの出血がひどかったと発言していたが、それは医師の見間違いだったのだろうか。誰の責任において司法解剖結果を公表したのかも不明である。全世界が注目する事件なのだから、責任ある立場の者が記者会見を開くべきであることは言うまでもない。

誰もがアクセスできる当時の動画を見ただけで、多くの疑問が湧いてくる。

  • なぜ、山上容疑者は撃った際に後方への反動を全く受けずに、スタスタと前に歩きながら軽く撃てたのだろうか?
  • 2発目を充填した様子はなかったが、弾丸が自動で補充される機能があったのだろうか?
  • 手製銃は「容疑者の供述」によれば散弾銃であるが、安倍さんを必死に守ろうと背後に回ったSP含め、なぜ他の人には誰一人として弾が当たらなかったのだろうか?
  • 押収した手製銃の性能、構造、殺傷能力、耐久性などは細かく分析したのだろうか?
  • 再現実験などはしたのだろうか?
  • 現場で弾道の検証はしたのだろうか?
  • 銃弾はいくつも現場で見つかっているのだろうか? 本当に弾は出たのだろうか?
  • 二発目が放たれる直前になぜ安倍氏の頸部付近の襟が大きく揺れたのだろうか?
  • スローモーションで再生すると黒い小さな物体が画面に現れるのも確認できるが、あの小さな物体は何なのか?
  • 安倍氏の検死で発射距離、弾丸の入射角、弾道など重要項目は分かったのだろうか?
  • なぜ山上容疑者は逃げる様子もなく、その後も黙秘権と言う権利を行使せず、不利になる可能性があるのにベラベラと弁護士も通さずに動機を話すのだろうか?
  • 彼はお金に困っていたはずなのに、なぜ倉庫を借りることができたのだろうか?
  • 現場周辺の防犯カメラの映像や聴衆の録画映像は押収しているのだろうか?
  • 彼の少なくとも過去2〜3年分の足取り調査をしているのだろうか?
  • 通信履歴、閲覧履歴、行動履歴、すべて細かく分析を開始しているのだろうか?
  • 山上容疑者に共犯者や背後組織はいなかったのだろうか?

これら矛盾や疑問点は素人が思いついたものである。プロは失笑するレベルであろう。だが少なくとも、素人でも思いつくこれらの点について、なぜあの時の記者たちと報道機関は、その後の報道で疑問提起と真相の徹底追及を大々的に行わないのか。

会場にも記者を送り込んでいた読売新聞社の当時(7月10日)の記事を見ると、ご丁寧に「容疑者の供述」に基づいた手製銃の構造を図にしている。なぜ容疑者の供述がいとも簡単に流出し、更には誰からも問題視されることなくメディアによって流布され、逆に警察から手製銃についての検証結果や正式見解が発表されないのか。

新聞に掲載されたイラストを用いた弾道の説明も、医師の説明と辻褄が合わない。容疑者は真実しか述べないと決め込んでいるのだろうか。医師の発言が誤りであり、誰だかも分からない警察官が間違いなく正しいと決め込んでいるのだろうか。不自然でならない。

国家最高レベルの捜査チームを立ち上げ、まずはありとあらゆる可能性を徹底検証、真相究明することが求められるはずだが、今日までのずさんな情報の取り扱いを見ていると、そのようなことが実施できているかどうかは甚だ疑問である。

国家の安全保障に甚大な影響をきたす重要人物の暗殺。政府は即座に高度な調査チームを立ち上げるべき事案ではないのだろうか。日本全体が山上容疑者に踊らされていることは、まさに恥ずべきことであろう。

森友 由
1983年生まれ。青山学院大学卒(国際政治経済学部)、在学中に米国ワシントン大学に交換留学。1854年創業の老舗卸売業、森友通商株式会社(東京・中央区)の七代目・代表取締役社長。昨今は日本除菌連合の副会長として、国会議員約50名による超党派議員連盟「感染対策を資材と方法から考える会(代表・片山さつき)」と連携し、科学に基づいた感染症対策を推進する活動を行っている。