佐倉市職員の「持ち家手当」復活条例とその周辺の課題⑤

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議案の是非を考えていただくためには、佐倉市で上程された議案がどのようなものか知っていただく必要があります。

よって、これまで議会で執行部が公式に表明した本議案の趣旨や内容について確認した後、私が考える問題点について述べていきます。

(前回:佐倉市職員の「持ち家手当」復活条例とその周辺の課題④

趣旨・目的

佐倉市議会公式サイト:議案の概要

職員の市内への居住を促進し、もって災害時における職員の迅速な参集を可能とするため、住居手当の支給対象となる職員の追加等を行うもの。

【髙橋注】わかりやすく言えば「佐倉市内に住む市職員を増やして、災害時に職員が素早く集まれるようにするための条例改定です」という意味になります。

2022年9月5日:付託時質疑に対する市長答弁【開始後4分20秒から】

(佐倉市の持ち家に居住する職員の、災害対応等に対する)機運、意思の向上。

【髙橋注】佐倉市ですでに持ち家を持っている職員に対し、持ち家手当を増設し支給することで、該当する職員の災害対応等のやる気を向上させる、という見解です。

2022年9月12日:総務常任委員会における質疑

市職員が居住する住宅の維持管理費の補填

【髙橋注】これは、平成21年以前に公務員の持ち家手当が存在する理由として国があげていた「持ち家に対する修繕費」と同義です。内容は畳の張替え費用等、です。

内容

佐倉市の現状の住居手当では、市職員のうち(市内市外問わず)賃貸物件に居住する職員に対して、上限額28,000円の「家賃に対する手当(以下「賃貸手当」とする)」を支払っています。

今回議会に上程された改定条例案では、まずこの賃貸手当の上限額を、「市内」賃貸物件居住者と「市外」のそれとで、以下のように差をつけます。

「市内」賃貸居住者:上限額28,000円
「市外」賃貸居住者:上限額20,000円

この改定により、市内と市外とで賃貸手当は年間96,000円の差がつくことになります。このことにより、市の財政的観点でいえば年間約900万円の余剰予算を生み出すことができます。

この約900万円を元手に、佐倉市内の持ち家に住む職員(世帯主に限る)に対して、年間36,000円(3,000円×12ヶ月分)の「持ち家手当」を支払うことができるように条例を変えたい、という内容です。

問題点

本条例改定には多数の問題点がありますが、本稿では「国の方針に反する」ことで生じる問題の所在について説明します。

国の方針に反する制度設計

持ち家手当については、総務省が廃止の方向で平成21年に通達を出しています。その結果、国県では全廃され、市町村でも90%以上が廃止、佐倉市が属する千葉県には持ち家手当がある市町村はありません。また直近の1年間でも、全国で9市町村が廃止をしています。

また、現在持ち家手当を実施している団体の数は、1,788団体中169市町村。内105件は北海道の市町村に偏在している、という現状です。

総務省:地方公務員の自宅に係る住居手当について(PDF資料)

国が公務員の持ち家手当の廃止を決定した理由は、以下二つに集約されます。

  • 持ち家という個人資産に対して税金で手当するのは問題がある。
  • 公務員に対する持ち家手当は、つきつめると「家の修繕費の補助」という理屈以外説明がつかない。しかし、民間で家の修繕費を理由に持ち家手当を実施している事業者はほとんどない。

以上から、税金による公務員の持ち家手当は国民の理解が得られないため全面廃止とする、という理屈です。

J-CASTニュース:橋下徹大阪市長が廃止方針 「持ち家手当」とは何なのか

橋下徹大阪市長が廃止方針 「持ち家手当」とは何なのか
大阪市の橋下徹市長が最大で月1万500円も支払われている市職員の「持ち家手当」を廃止する方針と報じられた。そもそも、なぜ持ち家に手当が付くのかと、ネット上で話題になっている。手当廃止方針を報じたのは、朝日新聞の2012年1月23日付記事だ。ネット上では「妙な手当」と疑問続出記事が話題に大阪市では、持ち家の世帯主となって...

本連載の第3回の記事の通り、公務員の給与を構成する「手当」は、民間との比較においてその項目、設定金額ともに十分すぎるほどに充実しています。その手厚い手当については、民間企業との均衡を前提に、国民の理解が得られるギリギリの範囲を見極めつつ、総務省が精緻に調査検討のうえ、地方公務員法が定める公務員の均衡原則に基づいて設定しています。

総務常任委員会において、執行部はこの「均衡原則」について、「地方公共団体の組織や規模、地域の社会的条件」によって、合理的な範囲で個別解釈も可能、という説明をしていました。しかしこの理屈なら、佐倉市が「他市町村と比較して、持ち家手当を復活させるべき特別な社会的条件等」が整っている場合に限られますが、具体的に佐倉市が他地域と比較してどのように特別な「社会的条件」があるか、という説明はありませんでした。

地方自治体が国の方針に逸脱した条例制定をする場合、事前に国もしくは所属する都道府県に何らかの連絡をしているはずです。もし、このような「緩い審議」で佐倉市の持ち家手当が復活した場合、他自治体も「職員の持ち家手当は復活してよいのだ」という国のシグナルととらえ、追随する自治体もでてくるでしょう。

その意味で、この条例案が佐倉市議会で可決されるか否かは、日本の地方自治体の給与制度に大きくかかわる問題なのです。

次回は、執行部が掲げる本条例案の趣旨・目的に関する問題点を見ていきます。

(次回に続く)

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