投票日まで1年を切った米大統領選だが、予備選での舌戦とそれに距離置くトランプの支持率が急上昇して盛り上がる共和党に比べ、民主党の動きは鈍い。先のAPECで習近平を出迎えたカリフォルニア州ニューサム知事やオバマ夫人の名まで挙がるが、立候補の表明はケネディ大統領の甥だけだ。
81歳になったバイデンは出馬する気の様だが、またまた不肖の息子ハンターが7日、司法省から税金問題で起訴された。この件は銃不法所持などの軽微な案件と違い、父親にも累が及ぶ可能性がある。バイデン自身も13日、下院で弾劾調査が承認(221対212)された(なお、上院共和党には慎重論がある)。
弾劾調査の対象は、副大統領時代のバイデンがウクライナ検察官の解任を促して賄賂を受け取った疑惑やウクライナのエネルギー会社の役員だったハンターの海外ビジネスから経済利益を得た疑惑、司法省をして(前記7日の起訴まで)ハンターに対する税金犯罪捜査を不適切に遅らせた疑惑などだ。
そのバイデンは、トランプが5日に「(24年に勝ったら)初日を除いて独裁者にはならない」と述べたことについて、「1日だけ独裁者になって行政関係者やその他の全てを一掃したいと発言した。政治的暴力を拒否せずに受け入れている。それを許すわけにはいかない」と難じた(12日の「ロイター」)。
民主党の検事や判事によるトランプ裁判は、トランプのライバル達でさえ、バイデンによる司法の武器化だと非難している。トランプがその意趣返しとばかり、就任「初日」にバイデンがトランプにして来たような起訴の乱発を司法省に指示しはしまいかとの恐怖が、バイデン発言に表れているかのようだ。
大きくは4件のトランプ裁判で最も多くの逮捕者を出している事案は、21年1月6日の議事堂襲撃事件(「J6」)だ。この事件に関して筆者は、ジョンソン下院新議長がその日の議事堂の膨大な動画をネットで公開することについて、「誰もが1月6日の出来事を検証できる様になったことは、情報操作や偏向報道の溢れる昨今、この上なく好ましい」と書いた。
最近、この種の原始情報を公開するとの報道が二つ続いた。一つは、国立公文書館が、バイデンの副大統領時代の電子メール1799通へのアクセスを編集なしで提供する準備をしているとの報道だ。これは下院監視・改革委員会のコマ―委員長の要請に応えるもので、前述の弾劾調査決議の一環と見られる。
他はトランプを起訴した特別検察官ジャック・スミスが、「J6」当日にトランプがSNSを使っていた期間も含む一定期間の前大統領のスマホのデータを、情報を抽出して処理した専門家証人を呼んで裁判で使うことの要請を裁判所に行ったとの報道だ。いっそ処理せずにネットで公開して欲しいものだ。
そこで本題だが、「J6」裁判の焦点に一つに、「トランプは、選挙に不正がないことを知っていながら、虚偽の演説により支持者を扇動したのか」という主旨のことがある。ジャック・スミスが裁判で使うという「スマホ情報」は、この主旨を裏付ける情報をスマホから抽出しようという目的に他なるまい。
この「選挙の不正」に関連して、保守系世論調査の「ラスムセン」が12日、極めて詳細な興味深い調査結果を公表した。調査は「ラスムセン」と「ハートランド研究所」が、11月30日から12月6日にかけて有権者1085人を対象に電話とオンラインで行った(方法の詳細はこちら)。
先ず、20年の大統領選挙で誰に投票したかとの問いでは、46%がバイデン、45%がトランプと答えた。実際の得票数は、バイデン81.3百万(52%)vs. トランプ74.2百万(48%)だった。
因みに16年は、ヒラリー65.8百万(51%)vs. トランプ63.0百万(49%)で、ヒラリーは今も自分が勝ったと主張している。20年にトランプが勝ったと考える根拠の一つは、自分は前回より11百万増やしたが、バイデンがヒラリーより15百万も増やすはずがない、という訳である。
次に、コロナ禍のためとして、主に民主党知事の州が大幅に取り入れ、不正の温床になったとされる不在者投票と郵便投票については、バイデン支持者で36%、トランプ支持者で23%がそうしたと答えた。このうちの郵便投票は民主党支持者で38%、共和党支持者で24%、支持政党なしで27%だった。
また、郵便投票をした共和党支持者の19%、民主党支持者の16%、支持政党なしの17%が、友人や家族に代わって投票用紙や封筒に署名したと答えた。郵便投票者の17%が、永住者でなくなった州で投票したと答え、内訳は共和党支持者で24%、民主党支持者で17%、支持政党なしで11%だった。
出自別では、不在者投票または郵便投票をしたと答えた白人は25%、黒人は35%、ヒスパニックは49%、その他のマイノリティは41%だった。また、投票すれば金を払うとの申し出を受けたと答えた白人は3%、黒人は15%、ヒスパニックは29%、その他マイノリティは8%で、いずれも白人以外の割合が高い。
調査対象は1085人と多くないとはいえ、バイデン支持者の38%が郵便投票を行い、この内17%が代理記入や永住していない場所で投票したという。またIDカードを持たない者が多いマイノリティに不在者投票または郵便投票の比率が高い。16年に比べて増えた26百万票の多くが不在・郵便投票と予想される。他方、接戦州の得票差は1%前後に過ぎない。
有権者、特にトランプ支持者の多くが予想していたであろう結果とはいえ、こうして数字を見ると、やはり不在者投票や郵便投票は極力減らすべきであり、IDカードを持参して投票所で投票し、必ず有権者登録された署名と投票者の署名を突き合せるという、当たり前のことがなされるべきと思われる。
参考までに僅差でトランプが負けた激戦4州のバイデン vs. トランプの得票と差を以下に記しておく(カッコ内は得票数で千の位を四捨五入)。この内、ジョージアの11,779票に関してRICO訴訟が提起されている。
アリゾナ | 10,457票差(167万票[50.2%] vs. 166万票[49.8%]) |
ジョージア | 11,779票差(247万票[50.1%] vs. 246万票[49.9%]) |
ペンシルベニア | 81,660票差(346万票[50.6%] vs. 338万票[49.4%]) |
ウィスコンシン | 20,682票差(163万票[50.3%] vs. 181万票[49.7%]) |