宮沢孝幸氏の新書の超過死亡に関する考察について論評

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宮沢孝幸氏による新書「新型コロナは人工物か? パンデミックとワクチンをウイルス学者が検証する」の論評です。ただし、この本に記述されている超過死亡の部分についての論評です。人工ウイルス説に関しては、私自身詳しくないためコメントは控えます。

今回この新書を取り上げた理由は、超過死亡の主因はコロナ間接死(肺炎以外の持病の悪化などによる死亡)であり、それにはコロナワクチンが深く関与しているという趣旨のことが記述されていたからです。超過死亡の主因をコロナ間接死とするのは、これまではワクチン推進派や中立派の主張でしたので、コロナワクチンに批判的な立場の宮沢氏のこの主張は、私には少々意外でした。

具体的には、宮沢氏の新書には次のように記述されています。

「mRNAワクチンを頻回接種すると、新型コロナウイルスに感染しても炎症反応が起こりにくくなり、さらに、感染細胞を除去できなくなってしまい、結果的に亡くなってしまう」というものです。補足して説明すると、「頻回接種により新型コロナウイルスに感染しても免疫による炎症反応や、感染細胞の除去能力が弱くなり、症状が目立たないまま感染が見過ごされ、増殖したウイルス自体の傷害性(感染した細胞を殺す)やスパイクタンパクの毒性によって感染者が衰弱したり、別の病気(循環器系疾患など)を誘発して、あるいは持病の悪化につながって亡くなってしまう」ということです。

簡単にまとめますと、「mRNAワクチンの頻回接種により、コロナ間接死が増加した」ということになります。

反ワクチン派は、これまでは「コロナワクチンにより死亡者が増加した」と主張してきました。ただし、この説は、「死亡者数はワクチン接種回数よりも感染者数に相関して変動している」という事実に 矛盾していました。そこで、宮沢氏は、死亡はコロナ間接死であるが、そのメカニズムにコロナワクチンが深く関与しているというように論理を組み替えたのです。確かにそうすれば相関の矛盾は解消されます。

私自身は、超過死亡の主因はワクチン関連死(直接死+間接死)と考えています。2022年の超過死亡の増加に関しては、私は以下のような論考を公開しています。

アルファ株・デルタ株では間質性肺炎による直接死が多く、オミクロン株では持病の悪化による間接死が多いという特徴がありました。インフルエンザの場合、年間の直接死は2000~3000人、関連死が約10000人です。したがって、インフルエンザの間接死は直接死の2.3~4.0倍となります。間接死の多いオミクロン株の場合、インフルエンザのように間接死が直接死の2.3~4.0倍存在していたとしても不思議ではありません。つまり、間接死が多い感染症の方が超過死亡に与える影響が大きい可能性があります。そして、間接死の一部が何らかの理由でコロナ死として報告されなかった可能性があるわけです。

持病の悪化による間接死が多いオミクロン株では、コロナ直接死(肺炎による死亡)の2.3~4.0倍の間接死が存在することは有り得るという考え方です。間接死者数を正確に捕捉することは実際にはかなり難しいのです。そのため、間接死者数を推定するために超過死亡という概念が考案されました。 

宮沢氏の仮説は、この間接死の増加に、コロナワクチンの頻回接種が関与しているのではないかという主張です。確かに何らかの影響があった可能性は完全には否定できません。

間接死を増加させるメカニズムについては、新書には次のように記述されています。

私が主張しているのは、呼吸器であまりウイルスが増えておらず(呼吸器症状を伴わずに)、他の臓器や組織でウイルスが増えて、その結果、感染者がダメージを受けるというものです。新型コロナウイルスの感染が疑われたとして、鼻咽頭のぬぐい液を用いてPCRを行ったとしても、腸管のみで増えている人は陰性になってしまいます。その場合はあくまでも肛門スワブ(糞便)サンプルからのPCRをしないと感染しているかはわかりません。

2020年の時点で、新型コロナ感染後に数週間にわたり便のPCR検査が陽性となる事例が多数存在していることが報告されています。早い時期より腸管での新型コロナウイルスの増殖は注目されていました。現在は、持続感染はコロナ後遺症の原因の一つとされています。

宮沢氏の仮説を立証するには、接種群と未接種群との比較が必要です。この比較がないと、間接死が多いことは単にオミクロン株の特性ということになってしまいます。また、コロナ間接死の人数の確定も必要です。

ただし、厚労省は2022年~2023年の死亡の増加がコロナ関連死であることを認めているわけではありませんし、調査分析をする予定もないようです。つまり、コロナ間接死の人数は不明なのです。仮説としては興味深いのですが、検証は容易ではありません。

最後に、新書には超過死亡に関して不適切な記述があった点を指摘しておきます。

厚労省は2022年については超過死亡があったことを認めました。しかし、2023年には死亡者数の予測値を大幅に引き上げてきました(図4-2)。その結果、2023年には超過死亡が出ていないことになっています。そして、国は公式には2023年に超過死亡が出ていることを認めていません。

この記述では、「2023年の超過死亡がなかったことにするために、厚労省(感染研)が意図的に予測値を大幅に引き上げた」ように読めます。実際にはそのような事実はありません。つまり、2023年の超過死亡がでないように厚労省が計算方法を変更したという事実はないのです。

感染研は、過去5年のデータを基にして超過死亡数を算出してきました。2022年の死亡者数が極めて多かったため、予測値の計算に2022年のデータが含まれた結果、予測値が大幅に引き上がり、2023年の超過死亡がでなくなったということが事実なのです。厚労省が意図的なデータ操作をしたわけではありません。

この問題はネット論考で何回か指摘しましたし、論文でも指摘しています。感染研が提示する超過死亡数を解釈する場合には他にも様々な注意点がありますが、一般的にあまりこれらの問題は理解されておりません。 論文に詳しくまとめましたので興味のある方はご覧ください。