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先の論考で、コロナワクチンのロットによる死亡率の差を検討したところ、厚労省の発表する各ロットの死亡報告頻度と沼津市の開示したデータで検討した各ロットの死亡率に大きな違いが見られた。

厚労省の発表する各ロットの死亡報告頻度は、副反応疑い報告制度に基づき、医師や製薬会社が予防接種との関連性を疑って医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告した事例を各ロットの納入数で割った数値と考えられる。
報告された事例には、ワクチン接種と因果関係がある場合と因果関係がない偶発的な場合とが含まれており、厚生科学審議会副反応検討部会でワクチン接種と死亡との因果関係が検討されている。これまで検討された2,283件のうち、因果関係が否定されたのが2件、因果関係は認められないとされたのが11件、残りの2270件(99.4%)は、情報不足等により評価不能とされている。
副反応疑い報告制度では、コロナワクチン接種後に死亡した事例を報告するのは、医師が予防接種との関連性が高いと認めた場合とされており、報告するかしないかは医師の判断に任せられている。接種から死亡までの期間も、予防接種との関連性が高いと医師が認める期間とされており、医師によって、接種する基準は異なる。
米国においても、予防接種安全性監視システム(VAERS)によって、ワクチン接種後死亡事例の登録が行われている。米国では、コロナワクチンが緊急使用許可(EUA)承認によって認可されたことから、理由の如何に拘らず、全ての接種後死亡事例の報告が義務付けられている。コロナワクチンの接種が開始された2020年12月14日から2021年11月17日までに、9,205件のワクチン接種後の死亡事例が報告されている。
この期間の死亡数と比較して、VAERSへ報告された事例の割合は、接種後7日以内で10.4%、42日以内では2.8%であった。筆者も以前に、接種後10日間における全死亡に対する副反応疑い報告制度に報告された死亡数の割合を推定したことがあるが2.3%であった。
新型コロナワクチン接種後の死亡例は漏れなく報告されているか?

最近、いくつかの自治体が、コロナワクチン接種後死亡事例に関するデータを開示した。開示されたデータには、死亡事例の年齢、性別、ワクチン接種日、死亡日、ロット番号が含まれている。副反応疑い報告例が記載されている厚生科学審議会の資料にも、死亡事例の年齢、性別、ワクチン接種日、死亡日、ロット番号が含まれているので、両者の照合がほぼ可能と考えられる。
そこで、浜松市、春日井市から報告されたワクチン接種後死亡事例のうち、厚生科学審議会の資料に記載されている事例の割合を検討した。
浜松市でワクチン接種開始から2021年12月末までに、70歳以上の高齢者でワクチン接種後に死亡したのは2,872人であったが、そのうち、審議会資料に記載されていたのは9人(0.3%)であった。春日井市における検討でも、同期間のワクチン接種後の死亡総数は、1,027人であったが、審議会資料に記載があったのは1人(0.1%)のみであった。
図1には、コロナワクチン接種から死亡までの日数を示す。副反応疑い報告例では、ワクチン接種後2週間までに集中していたが、春日井市の死亡登録では、このような傾向は見られず、接種後1〜2ヶ月をピークに、半年後まで死亡登録は継続していた。接種直後の死亡は、ワクチン接種との関連が疑われるが、時間が経過するほどワクチン接種との関連は疑われず報告されにくいという報告バイアスを反映した結果と考えられる。

図1 コロナワクチン接種から死亡までの日数
図2には、副反応疑い報告制度に登録された2,283人の死亡した時期を示す。2021年5月が206人、6月が500人、7月が383人と接種開始早期に集中しており、12月末までの総数は1,494人であった。2022年の登録数は、467人に減少した。2023年になると更に減少し、1月が18人、2月が16人であったが、3月、4月は1人、8月には0人と、1月〜12月の死亡数を合計しても101人にすぎなかった。図1で示すワクチン接種から死亡までの日数とは異なり、死亡した日の報告なので、時間経過による報告バイアスでは説明がつかない。

図2 副反応疑い報告制度に登録された事例の登録時期
図3は、春日井市における80歳以上高齢者のワクチン接種後月別死亡数を示す。各回のワクチン接種が始まると直近のワクチン接種後の死亡数が増えるが、接種直後のみでなく、その後も長期にわたって死亡例は観察されている。高齢者のワクチン接種率が90%以上に達した2021年10月以降は、死亡数が100人を下回る月は見られなかった。副反応疑い報告制度の登録例とは異なり、年度間における死亡数の報告に、大きな差は見られなかった。

図3 春日井市におけるワクチン接種後月別死亡数
次に、副反応疑い報告制度に登録された2,283例のワクチン接種日から死亡日までの日数が、時期によって差があるかを検討した。表1は2021年3月から5月に死亡したNo.1からNo.140の、表2は、2021年7月から8月に死亡したNo.1,001からNo.1,140の接種日から死亡日までの日数を示す。
表1では、接種から死亡までの日数が21日以上であったのは3件のみであったが、表2では、24件が21日以上であった。黄色のマーカーは、接種から死亡までの日数が連続して同じ日数であった事例を示す。表1では、No.47〜No.50が連続して接種から死亡までの日数が1日、No.54〜No.57が4日であったのをはじめ、42件において前後の日数が同じであった。表2では、前後の日数が同じであったのは8件のみであった。

表1 副反応報告制度に登録されたNo.1~No.140の接種から死亡までの日数

表2 副反応報告制度に登録されたNo.1,001~No.1,140の接種から死亡までの日数
コロナワクチンの功罪を論じるにあたっては、ワクチン接種によると考えられる死亡数の把握が必須である。
2023年12月17日に開催された参議院予算委員会で、鷲見学厚労省感染症対策部長は、2023年の人口動態統計では、コロナワクチンによる死亡は37人で、ワクチンが原因で死亡が増えたとは考えていないと述べている。また、2025年2月21日の時点で、予防接種健康被害救済制度によって認定された死亡は983件であるが、申請にはハードルが高く、この件数はワクチン接種後死亡事例のごく一部と思われる。
副反応疑い制度に基づき厚労省から公表されている事例は、臨床情報や剖検所見の記載もあり、ワクチン接種後の死亡数を検討するにあたっては、最も重要な情報源と考えられる。
しかし、各自治体の開示データと照合することで、ワクチン接種後死亡事例のうち、副反応疑い制度でワクチン接種との因果関係を検討されているのは1%にも満たないことが明らかになった。
ワクチン接種後の死亡事例の多くは偶発的なものと考えられるが、厚生科学審議会副反応検討部会で審議された2,283件のうち、ワクチン接種との因果関係が否定されたのは11件(0.5%)にすぎない。報告制度で登録されていない多くの事例のなかには、ワクチン接種による死亡事例も含まれている可能性が高い。同時に、2023年以降、極端に、登録数が減少した理由についても検討する必要があると思われる。