中国経済に関する日経社説はどうも親中派らしい

国防費の増大に触れず

トランプ米大統領は4日、議会での施政方針演説を行い、中国の李強首相もほぼ同じタイミングの5日、全国人民代表大会(全人代)で政府活動報告(所信表明)を読み上げ、国務院(政府)は25年度予算案を発表しました。2超大国・米中の国家戦略が対比でき、「米国/製造業復権へ保護主義鮮明、関税引き上げ」、「中国/大手銀行に公的資金10兆円、不良債権処理/軍拡堅持」などと、各紙は表現しました。

「中国経済はとりわけ消費が落ち込んでいる。消費振興と内需の全面的な拡大を行う。不良債権が不動産産業向けを中心に増加している」と、各紙は指摘しています。25年の国防費(中央政府分)は前年比で7.2%増の36兆7600億円、4年連続で7%を超えました。経済停滞が深刻化すれば、国防費を抑制すべきなのに、巨額の防衛予算を組んだのは、米中の覇権争いのためです。習近平氏独裁の中国を侵略しようとする国はまずない。

日本の各紙はこの問題をどう考えたか。社説を比べると、読売、朝日、毎日はそろって軍備増強を進める中国に批判的です。対照的なのは日経で、国防費の増強について一行も触れていません。日経社説は転機にきている中国経済を論じる際、いつも国防費の問題をほとんど素通りしています。私には不思議に思えてしょうがない。日経の立ち位置は「親中派」と考えられる。他紙の多くは反中派でしょう。

日経新聞本社 同社HPより

李首相の演説について、日経社説(7日)の見出しは「中国はデフレ回避へ政策の総動員を」という見出しです。「中国は深刻なデフレの泥沼にはまるかどうかの瀬戸際にある」、「深刻な不動産不況を背景に中国経済は苦境から抜け出せずにおり、5%成長(25年の政府目標)の実現に向けたハードルは極めて高い」、「状況次第でさらなる財政出動も検討すべきだ」などと指摘しています。中国経済が不振に陥れば、世界経済、日本経済が深刻な影響を受けることをまっ先に懸念しているのでしょう。

私なら「中国経済の成長率の鈍化は、長期的には軍事費の膨張を抑制するだろう。いつまでも富国強兵路線をとるわけにいかなくなる。そういう視点からすれば、日本のメディアが習近平政権と同じような目線で心配をする必要はない」と考えます。「中国経済の停滞」には歓迎していい点も少なくないのです。

朝日の社説はどうだったのでしょうか。「この大国の経済と社会には将来の不透明感が立ち込める。長期的な経済成長の鈍化と長引く不動産不況という問題がある」、「不安を抱えて倹約に努める市民に対しては、社会保障制度の充実こそが王道だ。年金、医療制度の補強が必要だ」と指摘しています。

読売はもっと明解です。「トランプ政権からの圧力をかわしつつ、経済と軍事の両面で足場固めを急いでいる」と、強調しています。経済停滞、成長率の低下で「経済と軍事の両面」に国力を傾注することはだんだん無理になってきている。軍事優先からの転換が必要になっていると私は思います。

さらに読売は「消費者の節約志向は高まっている。治安も悪化し、各地で無差別殺傷事件が起きている。目先の景気刺激策だけでなく、社会保障制度の充実が不可欠だ」、「軍事予算案は過去最高の36兆7000億円が計上され、経済成長率目標を上回る7・2%の伸びになった」、「中国軍内では汚職が蔓延し、高官の摘発が相次いでいる。軍拡路線の内部で一体何が起きているのか」と手厳しい。

日本も米国の要求で防衛費をGDP比で2~3%まで上げる方向です。EUもロシア対策、米国の欧州離反で125兆円規模の資金を投入する計画を決めました。日欧は自国を守るための国防費でしょう。一方、中国を侵略しようとする国はまずなく、中国圏の拡大、覇権確立のための国防費です。毎年の予算を巨額の軍備拡張費に割いていけば、長期的には軍事予算な経済成長率に寄与するどころか、低下を招きます。

日経は一般記事では「米国に対抗、軍拡堅持」「削減要求反発、台湾有事にらむ」と書いています。そこまでは強調しているのに、社説では全く触れていません。「台湾有事にらむ」といっても、有事を引き起すのは中国側です。「予算を軍事でなく、民生安定に振り向けるべきだ」と書くべきです。

日経の中国経済の社説を私はブログ(23年7月22日など)で何度か取り上げてきました。どうも日経には、中国経済を軍拡路線との関係でみつめてみるという問題意識が希薄としか思えません。一言でいえば、「日経の社説は親中派か」という見方をしたくなります。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。