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新・中野サンプラザの開発計画は白紙となった。詳細は『サンプラザ再開発計画白紙へ:中野区議会からみた顛末』をご覧いただきたい。

新・中野サンプラザは従前の計画でオフィス棟・分譲住宅棟・交流拠点の割合を4:4:2としていたところ、事業収支を合わせるために分譲住宅を4割から6割に増床、オフィス棟を2割以下にする方針を示していた。
分譲住宅比率を上げれば、事業採算性はよくなるかもしれないが、中野区、中野区民の資産である中野サンプラザと旧中野区役所の土地建物を供出して、タワーマンションと呼ばれるものができることが本当に良いのか疑問符が残る。中野区のシンボルタワーはオフィスとして人気が出ないのか、私はそうとは思わない。
事実、先月、『すかいらーくHDが本社移転 東京都武蔵野市→中野区』の報が届いた。中野駅周辺のポテンシャルがあるという証左と考える。分譲住宅は現在、金融資産として取り扱われ、空室が目立つ可能性もあり、にぎわいは生まれない。オフィス棟であれば、会社の従業員と関係者が往来する可能性があり、中野区の経済力を高めることになる。中野区は今後、オフィス街として、発展できる可能性は『中野区の未来をデータで描く:RESASが示すまちづくりの羅針盤』で詳述している。

オフィス街として発展するにもゼロから産業を築き上げることは困難であり、中野区の長所を生かすことが肝要である。中野はアニメの町ともいわれるが、実態はよくわからない。そこで中野区の産業におけるアニメの重要性を分析する。また図1に示すアニメ産業市場をみると特に海外における事業が大きくなり、年々、市場は拡大しており、2023年には3兆円を突破した。

図1 アニメ産業市場の推移[2002~2023]
(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)
参考:一般社団法人日本動画協会報告書「アニメ産業レポート2024」サマリー版
それでは中野区内におけるアニメ産業の位置づけについて、オープンデータでわかる範囲で調べた。RESAS産業構造データには図2に示す中野区の生産額の産業別シェアを表示できた。ちなみにこの画面は2025年4月から表示はされないようであるが類似の図は存在する。生産額ベースで最も大きい産業は情報通信業3581億円(13.1%)である。中野区が強いといわれているアニメ産業は情報通信業に含まれる。

図2 中野区の生産額の産業別シェア(旧RESAS)
無料で企業情報を調べられるサイト『Alarmbox』を参考とすると、2025年4月9日現在、中野区内の「情報通信業」は135社であり、その情報通信業のうちアニメ産業が登録する「映像・音声・文字情報制作業」は38社で約30%の割合である。
図3はアニメ業界の構造を示しているが、テレビ・映画・ネットなどの「配給会社」をクライアントとした階層が形成されている。配給会社以下の「元請け制作会社」、「下請け制作会社」、「専門スタジオ」があり、この三階層すべてをアニメ制作会社という。会社によっては3つの役割すべてを担っている場合もある。

図3 アニメ業界の構造
アニメ制作会社のうち元請け制作会社の権限は大きい。マイナビ2026の『業界地図』にアニメの元請け制作会社がある程度整理されており、これを参考に所在地、代表作をまとめたのが表1である。
中野区に所在した元請け会社を赤字で示したが、東映アニメーション、トムス・エンタテインメント、CloverWorks 、MAPPA の4社ある。また着目するべき点として、SPY×FAMILYを手掛けるCloverWorks、進撃の巨人を手掛けるMAPPAは最近、杉並区から中野区に移転している。鬼滅の刃を手掛けるユーフォ―テーブルは杉並区から新宿区に移転している。
中野区で働く魅力づくりを進めていかなければ、他の自治体に移転される可能性があることに留意する必要がある。

表1 大手アニメ元請け会社一覧
マイナビ2026業界地図を参考に著者加筆
そして表2に表1の中野区のアニメ元請け制作会社にマッドハウス社を加え、代表作を列挙した。ONE PIECE、ドラゴンボール、プリキュア、名探偵コナン、アンパンマン、SPY×FAMILY、進撃の巨人、呪術廻戦、葬送のフリーレン、ちはやふる、HUNTER×HUNTERなどとんでもない有名コンテンツがたくさんある。

表2 中野区のアニメ制作会社・代表作
また読売新聞『子育て世帯に手頃な住宅供給、都がファンド設立へ…中野区にアニメ施設10月メド開設へ』によると小池百合子東京都知事は、今年度の予算査定で10月を目途とした、中野区内へのアニメ振興の施設費に1億円を計上している。
そして、酒井区長は中野区報1月11日号で「アニメの力を中野から世界へ」の特集でブシロードとマッパ社長と対談され、アニメ振興を訴えている。

写真1 中野区報(令和7年1月11日号、pp.2-3)
中野区はベッドタウンからオフィス街になりつつあり、その過渡期に完成する中野のシンボルタワーである「新・中野サンプラザ」のオフィスには中野区がアニメの街であるというメッセージを出すためにもアニメ制作会社に入ってもらうことも一考の余地がある。
実際、ブランディングとして、新・中野サンプラザが完成次第に入りたいというアニメ制作会社があるとも聞く。アニメ会社であれば、子ども施設も併設するなどのタイアップ政策を推進することを条件に区が所有するオフィスを賃貸することも有用と考える。
中野は世界に誇るアニメ企業城下町を目指すべきである。