大金を手にした時:変わりつつある日本人の家計管理

新入社員が初めての給与をもらってすぐに訪れるゴールデンウィーク。今年は特に30万円台の初任給が続出したこともあり、若者の羽振りは一層よかったのではないかと思います。ただ、「宵越しの銭は持たない」などと江戸時代の話を持ち出して散財するのも果たしてどうかと思います。

日本ではマネーの教育がほとんどされていないため、お金の使い方が極端なケースが散見できます。また退職時に2000万円の貯蓄が必要という一定の枠組みに当てはめようとする考え方も私は賛同できません。1000万円しかなくてもとても充実した暮らしをする方もいれば1億円あっても「この方の人生は不幸だよね」と思わせる方もいます。

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私のマリーナの顧客にも困った散財者がいます。総資産10数億円、子なし、ワイフは老人ホーム、親戚とは縁遠いという方はとにかくお金で人心を買おうとします。女性絡みの話は山のようにあるのですが、ある時、マリーナの真ん前にしゃれたレストランがオープンしました。彼はその店の従業員に目をつけたのですね。聞けば30代ぐらいのチャーミングな方らしいのですが、その人に「俺とヨーロッパ旅行に行こう。飛行機はファーストクラスで。小遣いもやるからこんなレストランで働くのを辞めろよ」と。その方は忠実に言うことを聞き、旅行にも行ったようですが、一回の旅行で縁は切れたようです。

かつて私の仲間が「原稿料が50万円入ったから奢るから飲もう」と。確か6-7人いましたが、ずいぶん太っ腹な方だなと思いました。今日は俺、カネが入ったから飲もうぜというタイプの人は確かに多いと思うし、それにより皆がついてくることが気持ちがいいのかもしれません。「ゴチです!」とみんなから言われれば気分もよいでしょう。つまり、ひと時のボスの気分を味わいたいのでしょうか?

私は使うのがだめと言っているのではないのです。使い方が大事だと思うのです。人にとってお金は最終的にあの世に持ち込めないので現生において使い切るのがベストです。それに向けて稼ぎ方と使い方のバランスがとれていることが最も重要なのです。その訓練として日本人の場合は月給という仕組みで1か月間を与えられた給与でしのぐのが当たり前になっています。

ところが北米では月給は少なく、一番多いのが月2回払い、次に2週間ごと払い、あとは週休とか、日給になりますが、なぜ、月給が少ないかといえば貰ったマネーを一か月間きれいに使う管理できないため、頻繁に給与を出すことで給与日前の金欠を避ける、という意味があります。故に月給の人は上級マネージメントクラスの方だけという会社も多いはずです。昔は給与が木曜日とか金曜日に支給され、それで週末飲んでしまう、という生活をした人が多かった頃の名残であります。

その点、日本人はしっかりしており、特に家計を守る主婦の存在は大きかったと思います。ところが最近は共稼ぎもあり、お金の管理が夫婦により様々な形態になっています。純粋にお互いに稼いだものを一つの口座に入れて共同名義で仲良く管理、なんていうのは初期の共同生活物語のようでかわいいもの。俺の稼ぎは俺のモノ、私の稼ぎは私のモノで夫婦生活は双方が10万円ずつ家計に入れるといったところもあります。すると余ったお金は男は飲み屋で散財し、ギャンブルで浪費、女性はブランドものの買い物かしっかりへそくりを貯めるのでしょう。

先日、私の東京の外国人向けアパートを退去したロシア人夫婦。コロナ中に日本の永住権も取り、ついに世田谷区に戸建ての家を買ったと。退去の日にロシア人の奥さんが「このアパートに入って5年間、頑張って2人で働いたのでどうにか買えました!」と嬉しそうでしたが、はて、いったいどうやって貯めたのか、すごいなと思います。

大金を手にしたとき、その扱いに困るケースで最も多いのが退職金でしょう。私はゼネコンが倒産して一時的に銀行管理の会社に転籍してその後、独立したのですが、ゼネコンの退職金と銀行管理の会社の退職金が同じ年に支給された関係で給与を含めカナダの確定申告では5千万円以上ありました。私はそれを全部つぎ込んで今住んでいるコンドミニアムを買いましたがその時私は41歳でまだ働ける年齢でしたからそういう全額注入という強引なやり方も可能だと判断しました。

一般的な意味の一定年齢での退職金は先ほどの月給とか隔週給の発想と同じで残りの人生をどう賄うか、という発想になります。よって私なら基本的には借入金の返済に充て、余りを堅めの複数の投資先に分散すると思います。間違っても退職金では一攫千金を狙うべきではなく、よほど資金的余力がある場合に限り、例えば総資産額の1割までといった枠組みを設定すべきでしょう。それが成功して増えればそれを種銭にして再投資すればよいのです。

大金は人の心を惑わすものです。宝くじの一等に当たるとその人の人生観が変わると言います。お金に振り回されない人生を送る、それがまずは第一歩ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月9日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。