過激派によるテロの増加で景観まで変わってしまった欧州

谷本 真由美

日本の人々はヨーロッパの街並みというのは中世のような石畳や建物が並んでいて異常にクラシカルでありロマンチックだというイメージを持っている方が多いかと思います。

都市部は第二次世界大戦中の空襲などで伝統的な街並みが焼けてしまったために近代的な高層ビルが建っているところもありますし、その一方でクラシカルな建物を作り直して昔の街並み通りというところもあります。例えば近代的なビルを建てまくってしまったのがロンドンの東部やバーミンガムであり、昔の町並みを懸命に作り直したのがポーランドやドイツの各都市であります。

Isabel O./iStock

ところが人々が大変な努力をして伝統的な街並みを維持している欧州の国々も近年は事情が大きく変わってきており、ある理由で景観を変えなければならない状況になってきています。

その理由の一つが過激派によるテロの増加です。

欧州はここ20年ばかりの間に特に都市部でイスラム過激派を中心とする宗教を背景とするテロが激増しています。

そのような過激派がターゲットとするのはクリスマスマーケットや夏祭り、伝統的な市街地の目抜き通りや遊園地といったところです。

欧州でよくあるパターンはそういったお祭りや目抜き通りにトラックや車両で突っ込んで行ったり、爆発物を爆破させたり、刃渡りの長い刃物や斧で通行人を襲撃したり銃撃をすることです。

ロンドンで私がよく行っていたレストランも数年前にイスラム過激派の人々により襲撃され、中にいたお客さんたちは店の中の椅子を使ってバリケードを築きラグビーをやっていた方が犯人に体当たりして他の人を守りました。しかしそのお店があった近くには爆薬を積んだ車両が持ち込まれ、そのままロンドン橋を通って国会に突撃しようとしていたのです。

ロンドン橋でその後何が起きたかというと橋の出入り口に大きな鉄製のバリケードが常時設置されることになったのです。それは日本で想像するような選手とは大違いで本当に鉄の塊です。車両が通行できないようにブロックしてあるのです。中世と変わらない街並みの橋なのにそんなものが置かれるようになってしまい人々は常にテロを意識して暮らすようになっています。

そしてそれはロンドンのような大都市だけではなくイギリスのヨークのような小さな中世の街でも同じです。

石畳が並ぶ中世の姿を残した街の中心の通りには直径50センチほどのsliding bollardsと呼ばれる鉄製の巨大なポールが建てられていて車両の侵入を防ぐようになっています。

クラシックな景観が永遠に変わる ― シャンブルズがテロ対策のbollardsを設置して再オープン YorkMix

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sliding bollardsはこのような通りに設置されるだけではなく建物の前や一般家庭の駐車場などにも設置することがあります。なぜならば爆薬を積んだ車両などが突っ込んでくることがあるからです。こういう防御はイギリスだけではなく欧州大陸の主要な都市でも本当に当たり前の光景になってしまいました。

地元の人々は一生懸命努力をして昔ながらの風景を維持しているのにもかかわらず、社会の変化によりこのようなインフラに大変な費用を費やさなければならず、常にいつ攻撃されるかわからないということを意識して暮らしていかなければならない社会になっているのです。

日本の方々には多様性の代償というものが、単に町の風景が変わるということではなく、リスクを常に意識して暮らしていかなければならないという心理的な抑圧も及ぼすということも知っておいて欲しいと思います。

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