
接続されなかった観光と集住
これまで、佐倉市のふるさと広場拡張整備事業について、構造と評価の両面から問題を指摘してきた。
前稿では、本事業が観光地開発でありながら、コンパクトシティを前提とした補助制度の枠組みで評価されているという「構造のズレ」を整理した。

また、続く稿では、費用便益比(B/C)6.4という数値が、旅行費用法による来訪価値の推計であり、観光地としての実体的な成果を示すものではないことを確認した。

本稿では、その両者を接続する。
補助金を「取りにいく」という行為
まず前提として、自治体が国の補助制度を活用すること自体は、合理的な判断である。
限られた財源の中で、外部資金を活用することは、行政運営において重要な選択肢である。
しかし、その過程で問題が生じる場合がある。
それは、制度に事業を合わせることによって、本来の目的とのズレが生じるというケースである。
ズレはどこにあるのか
ふるさと広場拡張整備事業は、明らかに観光地開発である。
来訪者を増やし、地域経済に効果をもたらすことが目的とされている。
一方で、活用されている補助制度は、コンパクトシティの促進、すなわち居住誘導を目的とするものである。
ここで、すでに一つのズレが生じている。
手段としての不整合
さらに問題は、そのズレが構造にとどまらない点にある。
コンパクトシティ政策の核心は、「住む場所の選択」に影響を与えることである。つまり、「ここに住みたい」と思わせる環境を整備することが眼目だ。
しかし、観光地としての公園整備は、「訪れたい場所」をつくることであり、これは必ずしも「住みたい場所」と一致しない。
以上からみえてくるのは、目的(集住)に対して、手段(観光公園)が直接的に機能していない可能性がある、という問題だ。
評価の断絶
このズレは、評価の段階でさらに拡大する。
本事業では、旅行費用法により、来訪者の行動コストをもとに「利用価値」が算出されている。
これは、前稿でみてきたとおり、「(A)その場所に行く価値」を測るものである。しかし、コンパクトシティ政策で本来測るべきは、「(B)そこに住む価値」だ。
この二つの間には、明確な断絶がある。
もちろん、うまく設計された計画ならば、(A)と(B)がリンクし、効果を発揮する可能性はある。
全国の「接続できている事例」
実際、全国には、観光資源を活用しながら、集住政策と整合的に設計されている事例が存在する。
例えば、居住誘導区域の近接地に観光交流拠点を配置し、それを「住み続けたくなる生活環境」の一部として位置づける設計である。
その場合、成果指標も来訪者数だけでなく、定住率や居住人口維持など、政策目的に即して設定される。つまり、観光と集住は、本来、設計次第で接続し得る。
問題なのは、佐倉市のふるさと広場拡張整備では、その接続設計が見当たらないことである。
さらに、ふるさと広場の場合、集住を促したい住宅地からは離れ、恒常的に渋滞が発生する狭い道路に囲まれている。最寄りの京成臼井駅からも徒歩圏内ではない。
加えて、同広場ではイベント時に、周辺住宅地で車庫から車を出せなくなるほどの渋滞が発生しているにもかかわらず、佐倉市は交通影響評価を一度も実施していないことが、一般質問で明らかになっている。
この計画に関する限り、(A)と(B)を接続させようとする意図は見受けられない。
宙に浮く「6.4」と分断された政策
こうしてみると、「費用便益比6.4」という数値の位置づけは明確になる。
それは、
- 観光地としての成功を示すものでもなく
- コンパクトシティの達成度を示すものでもなく
いわば、どの政策目的にも直接接続していない指標となってしまっている。
ここまでを整理すると、本事業は次のような構造を持つ。
- 目的:コンパクトシティ(集住)
- 手段:観光地開発(来訪)
- 評価:旅行費用法(利用価値)
それぞれが別の方向を向いている。
結論
本件の本質は、単なる数値の妥当性ではない。
補助金に合わせた結果、政策の軸が分解してしまっていることにある。
そしてその結果、評価指標だけが宙に浮き、何を成功とみなすのかすら曖昧なまま、巨額の公共投資が進められている。
だからこそ、今あらためて立ち返るべき問いがある。
この事業は何を達成するためのものなのか。
そのための手段は適切なのか。
そして、その成果は何で測るのか。
この三つが一致しない限り、どれほど精緻な数値が示されても、それは政策判断の根拠にはなり得ない。







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