周回遅れの「高圧経済」でスタグフレーションがやって来る

池田 信夫

国民民主党の玉木代表が高圧経済を卒業した。今は「積極財政」のときではないというのが、浜田宏一氏から黒田東彦氏に至るまで共通の経済学の主流派の見解である。

供給不足なのに総需要を拡大する「高圧経済」

高圧経済は、バイデン政権のバラマキ財政を正当化するためにイエレンFRB議長が提唱したスローガンである。「高圧経済で供給力を高めてインフレを抑制する」と称して4000億ドルのインフレ抑制法(IRA)を制定し、火に油を注いで10%近いインフレの原因になった。

ところが今月になって「高圧経済」を主張する本が出版された。政府の成長戦略会議のメンバーになった会田卓司氏である(リフレ派から転向した高橋洋一氏も仲間らしい)。

会田氏は金融業界ではあちこち売り込む有名人で、数年前に私にも「書評してくれ」と本を贈ってきた。本書の内容はそれと同じ笑い話だが、高市政権に影響を与えているので「読んではいけない本」として書評しておこう。

本書に★を一つつけたのは、正しいことも言っているからだ。それは政府の一般会計の「国債費」に債務償還費を二重計上しているのはおかしいという話である。これはその通りだが、単なる帳簿上の問題で、二重計上をやめたら財源が増えるわけではない。

マクロ経済についても「企業が貯蓄過剰(投資不足)になっていることが日本経済の長期低迷の原因だ」という指摘は正しいが、これは14年前に深尾京司氏が指摘して以来、日本の経済学者の常識である。

積極財政がインフレと円安と金利上昇をもたらす

問題はその解決策として、会田氏が財政赤字の拡大をあげていることだ。これは2010年代の需要不足のときは意味があったが、今は大幅な供給不足であり、イラン戦争で需給ギャップは拡大している。2%を超えるインフレが4年以上も続いているのがその証拠である。

この状況でさらに「高圧経済」で政府が総需要を追加すると、人手不足がひどくなってインフレが悪化し、クラウディングアウトで金利が上がり、債券価格が下がって円安になる。それがいま起こっていることだ。

さらに長期金利>名目成長率になると財政が悪化し、さらなる金利上昇をもたらす。これはブランシャールが高市政権に警告したことだが、会田氏はブランシャールの本を読んでもいない。

会田氏が(高市首相も)理解していないのは、企業の貯蓄過剰の原因は供給力(国際競争力)の低下にあるので、政府投資を増やしても解決できないということだ。玉木氏はようやく本質的な問題が供給力にあると理解したようだが、これは容易な問題ではない。

日本の供給力が低下した原因は、高齢化や産業空洞化や雇用の硬直化など複雑で、財政支出でどうにかなる問題ではない。周回遅れの「積極財政」がもたらすのは、インフレと円安と金利上昇である。それを財政バラマキで解決しようとすると、1970年代のようなスタグフレーションがやってくるだろう。

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