高市さんのXは、公文書じゃないんだそうです。
7月23日の記者会見で木原官房長官が言ったんですが、高市首相がXに投稿しているものは公文書管理法上の行政文書には当たらない。理由は「個人名義のアカウントだから」「内閣官房が運用しているものではないから」。8月16日には共同通信が、就任から7月末までで投稿は600件超、それが一件も保存対象になっていないと報じています。
つまりですね。総理大臣が政府統計と政府資料の図表を貼って政策の成果を語っているのに、それは公文書ではない。記録に残す義務もないし、明日ぜんぶ消しても制度上は何も起きない。わたしはここが一番おそろしいと思っていて記者会見なら「その数字、何月分ですか」で終わる話が、Xだと誰も聞けないんですよ。リプ欄は荒れるけど、記録されないし答える義務もない。反論されない場所で、消せる形で、公的な数字を語る。そういう構造になっている。まあ、髙市さんが都合の悪い事をたくさん書いていた過去のブログをすべて消去したのと同じ設定です。
というわけで外側から添削します。対象は8月14日の「物価高対策」5連投。赤い枠がわたしのツッコミです。
1
https://x.com/takaichi_sanae/status/2088128752148738057?s=20
2
https://x.com/takaichi_sanae/status/2088129011507720260?s=20
3
https://x.com/takaichi_sanae/status/2088129649314513138?s=20
4
https://x.com/takaichi_sanae/status/2088129843892543614?s=20
5
https://x.com/takaichi_sanae/status/2088129993352396961?s=20
この5連投、①から④まではひたすら「物価を抑えました」という話なんです。そして得意のチェリーピッキングとすり替えが凄い。ここまで1人で書けるほど頭は良くないからブレーンの誰かに代筆して貰ったと睨んでいます。
ガソリンを170円に抑えた、電気ガス代を補助した、授業料と給食費を無償化した、G7で最も低いインフレ率を実現した。ここまではまあわかる。
ところが最後の⑤で、急にこうなる。
添削タイトルが「物価高対策」で、結論が「もっと値上げを受け入れろ」。
①〜④で税金を突っ込んで価格を抑えたと自慢して、⑤で価格転嫁を促す。短期は補助金で抑える、中長期は値上げを飲め。同じスレッドの中で、政策の向きが真逆です。
しかも⑤の理屈をそのまま当てはめると、①〜④は全部やってはいけない政策になるんですよ。ガソリン補助も電気ガス補助も無償化も、「コストの価格への反映」を財政で打ち消す施策なんだから。自分の政策を、自分の理屈で否定している。これ、5件を続けて読んだ人がどれくらいいるかにかけてますよねww
⑤はこう始まります。
じゃあその2%目標って何のために作られたのか。原典を見ましょう。2013年1月22日、政府と日銀の共同声明。タイトルがこれです。
添削2%目標は「物価が上がらない」病気の処方箋です。需要が足りなくて誰も値上げできない、だから金融緩和で押し上げよう、という目標。
で、いま日本が困っているのは真逆の病気なんですよ。需要が強すぎて物価が上がっているんじゃない。輸入コストが上がって物価が上がっている。下の図を見てください。
出所:日本銀行「企業物価指数」(2026年7月速報、2026年8月13日公表/年度指数長期時系列)。2020年度〜2025年度は年度平均、末尾は2026年7月の月次速報値。2026年7月の輸入物価は、円ベースで前年比+29.1%。契約通貨ベース、つまり現地通貨での値段だと+17.7%。差の約10ポイントが円安分です。水準で見ると、日本が実際に払っている輸入代金は2020年度のほぼ2倍。
添削デフレ期の処方箋を、輸入インフレの患者に出している。これが5連投で一番深いところの問題です。
「デフレマインドを捨てろ」というのは、需要不足で値上げできない企業に向けた言葉なんですよ。原油と円安でコストが2倍になって、値上げせざるを得ない企業に向かって言う言葉じゃない。マインドの問題じゃないんだって。仕入れ値の問題なんだよ。
⑤の理屈はこうです。価格に転嫁する→企業収益が増える→給与が上がる→需要が増える。教科書としては正しい。ただしそれ、上がったコストが国内で発生している場合の話です。
輸入品の値上がりを転嫁したらどうなるか。増えた売上のうち仕入れ値の上昇分は、国内の誰の所得にもなりません。産油国と海外のサプライヤーに出ていく。そして「出ていった分」はGDP統計にちゃんと計上されていて、これを交易損失といいます。
出所:内閣府「2024年度国民経済計算年次推計」(2025年12月23日公表)。交易利得・損失は実質GNI(および実質GDI)と実質GDPの差として計上される、交易条件の変化による実質所得の海外への流出入。2025年度は年次推計が未公表のため掲載していない。添削2021〜2024年度の4年間で、累計48.2兆円が海外に出ていってます。2022年度は単年で18.2兆円。実質GDPの約3.1%。
別の角度から見るともっとはっきりする。2022年度、消費者物価は+3.2%上がりました。同じ年、国内で生み出された付加価値の価格(GDPデフレーター)は+1.2%しか上がってない。差の約2ポイントが、日本国内の誰の所得にもならなかった分です。
つまり「値上げを受け入れれば賃金が上がる」というのは、輸入インフレの局面では成立しない。受け入れた分の一部は、そのまま国外に出ていくだけ。
ちなみに内閣府自身が、今年の経済財政白書でこう書いてます。「今般の中東情勢を受けた原油価格等の上昇により、我が国の交易条件は悪化し、交易損失という形で企業収益や家計の実質所得を下押しする圧力が生じた」。
政府の白書が「実質所得を下押しする」と書いてる現象について、首相が「転嫁しないと給与が上がらない」と言ってる。同じ政府の中で話が合ってない。誰か言ってあげてください。
数字そのものは正しいんです。2026年6月の全国CPI(総合)は前年同月比+1.7%で、G7の6月を並べたら確かに最下位。ただ問題が3つある。
1つめ。その1.7%は、補助金で作った数字。投稿自身が、ガソリン暫定税率廃止・燃料油補助で0.7ポイント、教育無償化で0.3ポイント押し下げたと書いています。ということは、政策がなければ2%を超えていたってことですよね。
添削ここで⑤に戻ってください。⑤は「2%を持続的に実現するのが目標」と書いている。①は「2%を1ポイント下回らせたのが成果」と書いている。
どっちかが嘘というより、両方本気で書いてるのが怖い。目標の未達を、成果として発表している。
ついでに言うと日銀は6月に政策金利を1.0%に上げて、7月の展望レポートでコアCPIの見通しを2026年度+2.5%にしてます。当局は物価を「低すぎる」なんて全然見てない。
2つめ。補助金は一時的。ガソリン補助も電気ガス補助も期限のある措置なので、剥落すればCPIは戻ります。総務省のCPI資料には、もう前年の補助剥落による押し上げ寄与が計上されはじめている。わかりやすい実例がドイツで、7月のインフレ率が2.3%から2.8%に上がったんですが、Destatis自身が「燃料税減免が6月30日で切れたから」と書いてます。
添削「G7で最も低いインフレ率」は、経済の強さの指標じゃない。いま価格抑制策をやってるかどうかの指標です。
念のため付け加えると、2025年4月、日本はG7で最も高いインフレ率でした(3.6%)。1年2か月前の話ですよ。あとフランスとの差は0.1ポイントしかない。
3つめ。上昇率の話であって、水準の話じゃない。ここが一番、生活実感とズレるところ。
出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」令和7年分結果確報および同参考資料(事業所規模5人以上・調査産業計・現金給与総額、2020年平均=100、原指数)。指数には2024年1月のベンチマーク更新による断層があり、断層を除いた前年比を連鎖させると2025年は2020年比で約▲4.4%。添削実質賃金の水準は、1996年のピークから約16%低い。しかも直近は4年連続でマイナスだった。
そこから半年プラスが続いて「G7で最高の上昇率」。穴の底で、上りはじめた角度を自慢してる状態です。
生活実感と噛み合わないのは当たり前で、噛み合わないほうが正しい。あなたの感覚は間違ってないですよ。
あと細かいけど、この「1.7%」は厚労省のヘッドライン(+1.6%)じゃなくて、CPI「総合」で実質化した参考系列のほう。そして実質がプラスになった理由も、賃金が加速したからじゃない。名目賃金は2025年7月の+4.1%から2026年6月の+3.4%へ、むしろ減速してます。分子じゃなくて分母が動いただけ。
③にこう書いてある。「今年12月の年末調整では、納税者1人あたり3〜6万円の所得税減税が実施されます」。
これね、答えは投稿が自分で添付した図表に書いてあるんですよ。図は「R8改正」と「R7改正込み」を2段に分けていて、R8改正単独は0.4万円(年収200万)〜3.6万円(年収600万)、R7改正込みが2.7万〜5.6万円。「3〜6万円」は明らかに下段。↓髙市さんが投稿した画像ね

添削R7改正分は、2025年12月の年末調整でもう実施済みです。国税庁のサイトで確認できます。
今年12月に「新たに」生じる減税はR8分だけ。年収200万円の人なら0.4万円で、投稿の下限3万円の7分の1。
図はちゃんと2段に分けてるんです。分けてないのは本文だけ。これは事務方が泣くやつ。
この5連投、構造はこうです。
短期は、税金で価格を抑える。そしてその結果としてのCPI低下を「G7最低のインフレ率」という成果として発表する。中長期は、値上げを受け入れろと国民に言う。そのときの理屈は、デフレ期に作られた2%目標とデフレマインド論。
ところがいまの物価高は、需要が強すぎて起きてるんじゃない。輸入コストが上がって起きている。輸入物価は円ベースで2020年度の2倍。値上げを転嫁しても、その相当部分は国内の所得にならず、交易損失として海外に出ていく。4年間で48.2兆円出ていきました。
だから⑤の処方箋では実質賃金は上がりません。実際、上がってない。水準は1996年から16%低いままで、直近の「プラス」も補助金でCPIを押し下げた結果。
「物価高対策」という看板で、「物価上昇を受け入れろ」と言っている。これは表現の問題じゃなくて、診断の問題です。病名を間違えてるから、薬も間違ってる。そりゃ治らない。
そして冒頭に戻るんだけど、この診断は公文書じゃないので、いつでも消せる。わたしはスクショを取っておきました。あなたも取っておいたほうがいいですよ。
まあ髙市さんのこうした手法が浸透してきて、支持率も急落。割と体感に近いと思ってる選挙ドットコム×JX通信社 最新全国意識調査(8/15-16)調査 ネットでは完全に不支持が上回り、電話でもかなり拮抗しています。

最近、虫がたくさんくるようになりまして、ブヨくらいならまだしも先日はムカデが侵入。そこでこいつをゲット。充電式でスイッチ入れてパチと火花が飛んで虫が即死。安いのは安全性不安なので高いの買いました。さっきもこれで一匹撃墜
【但し書き】原典が確認できなかったもの
本稿の数値は原則として政府・日銀の一次資料に当たっています。ただし以下は原典に到達できていないので、その旨を書いておきます。
1. 「0.7%ポイント/0.3%ポイント」の押し下げ効果の出典。日銀展望レポート(2026年1月・4月・7月)、内閣府の月例経済報告・年次経済財政報告、官邸の総理会見をすべて当たりましたが、この組み合わせの記載はありませんでした。日銀は「押し下げる方向に作用する」と定性的に書くだけで数値は非公表。総務省CPI動向資料の「ガソリンの暫定税率廃止及び政策による効果の寄与度 エネルギー▲0.74」と0.7が整合するのみで、0.3のほうは単月の授業料等寄与度(▲0.18)とは一致せず、2年累積の水準効果としてのみ整合します。基準の異なる2つの数字を並べて足している可能性が高いのですが、原典がないので断定はしていません。
2. 「基礎控除等の引上げ(令和8年度改正)」図表の出典。財務省・国税庁・官邸のいずれにも同じ図はありませんでした。数値自体は改正内容から再現でき、R8単独列は全階級で一致することを確認しています。
3. 実質賃金指数の長期系列。1996年のピーク116.5は厚労省の令和7年分確報参考資料に収録された長期系列(2020年平均=100)の値ですが、30年間には複数回の基準改定・ベンチマーク更新が含まれ、厳密に連続した系列ではありません。
4. 冒頭の「公文書ではない」件の担当部署名。確認できたのは2026年7月23日の木原稔官房長官の会見発言(時事通信)と、2026年8月16日の共同通信報道(就任から7月末までで600件超)です。内閣府公文書管理課という具体的な部署名までは裏が取れませんでした。本文は「政府見解」として書いています。「いつでも消せる」は制度上の帰結についてのわたしの見解で、政府がそう言ったわけではありません。
5. 当局は現在の物価上昇を「コストプッシュ型」と明示的に断定してはいません。日銀は輸入コスト要因と賃金・需要要因の併存として記述しています。本稿の「輸入コスト由来」という評価は、輸入物価・交易損失・GDPデフレーターの数値にもとづくわたしの判断です。
政府・日本銀行「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」(2013年1月22日)/日本銀行「金融政策運営の枠組みのもとでの『物価安定の目標』について」(同)/日本銀行「企業物価指数」2026年7月速報/日本銀行「経済・物価情勢の展望」2026年7月
内閣府「2024年度国民経済計算年次推計」/内閣府 四半期別GDP速報(デフレーター)/内閣府「令和8年度 年次経済財政報告」第1章第1節
厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和7年分結果確報 参考資料」/同 2026年6月分結果速報/同「毎月勤労統計調査の解説」
総務省統計局「消費者物価指数 全国 2026年6月分」/同 動向編/同 年度平均
国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」/同「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
Destatis(ドイツCPI 2026年7月)/時事通信「高市首相のX、行政文書に当たらず 政府」(2026年7月23日)/共同通信「首相のX、行政文書に当たらず 公務発信、保存義務求める声も」(2026年8月16日)
編集部より:この記事は永江一石氏のブログ「More Access,More Fun!」2026年8月17の記事より転載させていただきました。







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