立憲民主党を名乗って政治活動を発信していた「中村りほ@立憲民主党」という女性アカウントが、実際にはAIで作られた架空の人物だったことが明らかになり、波紋が広がっている。運営していたのは立憲民主党の男性党員だったという。
不可解なのは、AI画像を使って架空の政治人物を作り上げ、出産や女性問題についてまで「本人の体験」として語らせたことだ。少し調べれば実在しないことが判明しかねない。なぜ、これほど危うく、すぐに発覚する可能性のある手法を選んだのだろうか。
「出産」「靖国参拝」まで作られた人格
問題となった「中村りほ@立憲民主党」は、女性の画像を掲載し、立憲民主党に関係する政治活動家であるかのような体裁で発信を続けていた。
女性支援について発言するだけでなく、自ら女児を出産したとする詳細な体験談を投稿。靖国神社を参拝したとして、AI生成とみられる女性の画像も掲載していた。
さらに性暴力や望まない妊娠など、女性政策と深く関係するテーマについても「当事者」と受け取られかねない設定で発信していた。
問題は単なるAI画像ではない。存在しない女性に名前、容姿、人生経験を与え、政治的主張の説得力を高める材料として利用していた点にある。
堀潤氏の確認で男性党員と判明
疑問を持ったジャーナリストの堀潤氏が立憲民主党栃木県連に確認したところ、県連側はアカウントを作成したのは実際に党籍を持つ男性だと説明したという。
党本部も事態を把握し、男性に対してアカウント名などで「立憲民主党」と名乗らないよう求めるとともに、AIで作成した人物画像を政治的発信に用いることについて不適切だと指導したとされる。
現時点で党本部や県連が組織的にこのアカウントを作ったことを示す事実は確認されておらず、党員個人の活動とみられている。
なぜ、こんな「すぐばれる捏造」をしたのか
最大の疑問はここにある。
実在しない政治人物を作り、しかも出産歴や女性としての体験まで細かく設定すれば、本人確認や過去の経歴を調べられた時点で破綻する。選挙に立候補した経歴や所属組織、活動実績など、政治に関わる人物は一般人以上に検証されやすい。
運営者本人が説明していない以上、目的を断定することはできない。ただ、考えられる理由の一つは、男性が女性政策を語るよりも、「当事者の女性」が語る方がSNS上で共感を得やすいと考えた可能性だ。
「私は出産を経験した」「私は女性としてこう感じた」という一人称の物語には強い説得力がある。政策論をそのまま投稿するより、架空の人物に体験談を語らせた方が拡散されやすいと考えたとしても不思議ではない。
もう一つ考えられるのは、生成AIによって架空人物を作ることがあまりにも簡単になり、「どこまでなら通用するのか」という感覚が麻痺していた可能性だ。画像、経歴、文章までAIで短時間につくれるため、以前なら大掛かりだった「架空人格」の作成コストは急激に低下している。
しかし、作ることが簡単になっても、嘘がばれにくくなったわけではない。むしろ政治アカウントは多くの人から検証されるため、設定を積み重ねれば積み重ねるほど矛盾が見つかる。
「政策を伝えたいから捏造する」という倒錯
仮に女性支援政策を広めることが目的だったとしても、そのために架空の女性を作って当事者を演じれば、政策そのものへの信頼まで損なう。
「良いことを訴えているのだから、多少の演出は構わない」という発想があったとすれば、それは政治では特に危険だ。
民主主義では、何を主張するかだけでなく、誰が、どのような立場から語っているのかも有権者の判断材料になる。存在しない人物の体験談で支持を集めれば、それは広告表現の問題では済まない。
今回の騒動が皮肉なのは、女性の声を代弁しようとして、実際の女性ではなく男性が作ったAI女性に語らせていたことだ。女性の当事者性を重視する政治姿勢とも大きく矛盾する。
選挙で100人、1000人作られたら
今回のアカウントが1人だったから、比較的早く疑問が持たれた。しかし生成AIを使えば、架空の人物を100人、1000人作ることも技術的には難しくない。
「子育て中の母親」「地方で働く若者」「介護に苦しむ会社員」「候補者に救われた有権者」などを作り、それぞれに写真と人生を与えれば、人工的な「世論」を演出できる。
そこに大量の「いいね」やリポストが加われば、本当に社会で支持されている意見なのか、AIが作った架空の群衆なのかを見分けることはさらに難しくなる。
これまで選挙のAI問題といえば、候補者本人の偽動画や偽音声が中心だった。だが今回のケースが示したのは、もっと地味で厄介な危険である。
これから確認しなければならないのは「この発言は本物か」だけではない。
その発言をしている人物は、本当に存在するのか。
「中村りほ」騒動は、AI時代の政治において、有権者がそこまで疑わなければならない時代が始まったことを示している。









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