トランプの思考回路:郵便投票と世論調査

11月3日の中間選挙に向けて、全米各州で郵便投票が始まった。大統領選と併せて行われた24年の郵便投票は約48百万件に上った。郵便投票に否定的とみられているトランプ大統領だが、今回自身も郵便投票を済ませ、支持者にも必要なら利用するよう促した。これを5日の『ロイター』は、「長年にわたり郵便投票を不正の温床と批判してきたが、姿勢を転換した」と報じた。

が、10年来トランプをwatchしている筆者からみれば、彼は「姿勢を転換した」のではない。郵便投票が「不正の温床」の一つであることは明白な事実だし、21年1月にジョージアの州務長官に電話で求めたのも『ワシントンポスト』が印象操作した「11780票を見つけろ」ではなく、郵便投票用紙と有権者登録の「署名の突き合わせ」だった。

下院は通過したが上院で店晒しになって、この中間選挙に間に合わなくなったトランプ肝煎の「SAVE法」は、投票時に身分証明書提示を義務付ける主旨だ。「ハーバード大学/ハリスX世論調査」も成人の米国民の約7割が党派を超えてこれに賛成するとの結果を示している。トランプの一貫した思考は「資格を持った有権者による投票」だ。無論、24年に郵便投票を含めて77百万票を取ったことへの自信もあろう。

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そこで中間選挙のことになる。数日前から上下両院と知事選の注目選挙区について、共和党(赤)と民主党(青)の候補に対するインタビュー形式の討論がネットに続々アップされ始めた。が、どれも1時間以上ありとても観きれない。今のところ任期満了で大統領選を狙うニューサムの後釜を争うカリフォルニア(加)州知事選、そしてミシガン上院議員選の2件を観た。

加州知事選の世論調査は、青の牙城州だけあってどの調査も民主党ベセラ(元同州司法長官)がバイデン政権保健福祉長官の知名度を生かし55%前後と、共和党ヒルトン(コメンテーター)を20%pointも離している。が、討論を見る限りニューサム8年の問題点を『CNN』のアンカー、ジェイク・タッパーとダナ・バッシュから突かれてタジタジになるベセラの様子が目立った。

タッパーとバッシュといえば、トランプが「フェイク・タッパー」と呼ぶなど長年の確執がある上、目下、『CNN』は『MSNOW』・『Politico』と共にホワイトハウスから出禁にされて訴訟状態だ。が、親会社のワーナーがトランプの畏友エリソン家のパラマウントに買収されたからか、この討論会では2人とも公平かつ真っ当な質問を両者に当てていた。

ヒルトンが指摘すべき青の問題点は幾つもある。聖域都市として200万〜250万を受け入れた不法移民のホームレス化や住宅不足、治安悪化や高税率に伴う高額所得者や企業の州外流出、環境規制や再エネ重視によるガソリンや電気代の高止まりなど、全米でもワーストランク上位を占める項目が並ぶが、これらを『CNN』の二人は淡々と両候補に問う。冷静に見ればヒルトンの勝ちだが、僅差であっても青が制するのではなかろうか。

ミシガン上院選の討論では、話題の進歩派青エル=ザイードと元下院議員の赤マイク・ロジャースが舌戦を繰り広げた。エル=ザイードがなぜ話題かといえば、彼の出自(両親がエジプト人)や反イスラエルの進歩派のこともあるが、予備選の世論調査で2桁の差をつけていた相手候補に、本戦では僅か1%p差の辛勝だったからだ。

それは、左派の公共放送『PBS』が「今年の予備選挙の世論調査がなぜこれほど不正確なのか」とのネット番組を組むほどの珍事。出演した世論調査会社「イプソス」の副社長は、理由の一つに「テキスト・トゥ・ウェブ」なる、調査員がウェブ調査へのリンクを記載したテキストを送信する調査方法を挙げ、こう述べた。

この調査方法は、人件費が掛からないので安価だが、それなりの成果しか得られない。結果からも明らかだったように、積極的で進歩的な若い有権者層にリーチするのに明らかに効果的だったが、ミシガン州の中道派層にリーチするのは非常に困難だった。

本欄の読者諸兄姉に「またか」と呆れられるかも知れないが、筆者は、「トランプ2.0」こそ明確に予想はしなかったもが、「斎藤2.0」の「100万票台乗せ」も、「高市2.0」の「Max.300議席超え」も、「古謝1.0」の「40万票超え」も、勝者のみならず得票数あるいは獲得議席数までほぼ的中させた。

用いた手法は各拙稿に記したが、予想の際に参考にするのは世論調査ではなくて、前回の投票率・得票数と選挙前半年ほどの社会状況や世論の動向の情報だけだ。これをオールドメディアだけでなく、信頼の置ける一次ネット番組などからも広く入手し、それに無党派層の良心と常識を考量して分析したということ。

そうした観点から米国中間選挙を占うに際し、興味深い世論調査がある。1つは有権者に「自由市場資本主義を支持する共和党候補を選ぶか、大きな政府による社会主義を支持する民主党候補を選ぶか」を問う「マクラフリン(Mclaughlin)調査」で、これだと共和党がかなり有利になることを拙稿で紹介した。

ところが親トランプの『Newsmax』が9月25日、「マクラフリン世論調査で有権者が社会主義を受け入れる危険性」と報じた。記事は「自由市場資本主義」vs「大きな政府による社会主義」の支持率の差が、「7月:49%vs36%」⇒「8月:47%vs40%」、「9月:45%vs41%」という具合に、13pから4pまで縮まったと記している。

右派メディア『Free Beacon』も10月8日、「米国の大学生は資本主義よりも社会主義を好むことが調査で判明」との見出し記事で、「イェール大学のバックリー研究所(保守系の学生団体)が実施した学部生を対象とした全国調査によると、社会主義の政治候補者がアメリカ政界で台頭するのと時を同じくして、大学生の間で社会主義の人気が急上昇している」と報じた。

他方、『ギャラップ』は8月6日、「米国人は資本主義、社会主義、自由企業をどのように捉えているかと題する調査報告で、「自由形式の回答からは、自由企業(free enterprise)には資本主義につきまとうとされる負の側面がいくつか欠けていることが明らかになった一方、社会主義には良い面よりも悪い面が多いと世論が考えていることが分かった」と記していた。

「自由企業」と「資本主義」の違いが少々判然としないが、「社会主義には良い面よりも悪い面が多いと世論が考えていることが分かった」という報告には安堵させられる。また、「誰に投票するか」といったありきたりの「木を見る」調査と違って、この種の「森を見る」世論調査は、米国社会の目下の傾向を理解するのに役立つ。

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イラン戦争に伴うガソリン高騰などでトランプの支持率が低迷していても、筆者は未だ「マクラフリン調査」の結果を信じ、進歩派に牛耳られている民主党が勝つとは思っていない。が、ミシガン州の赤ロジャース候補のイランに係る受け答えには大いに不安を覚える。質問はどうしても、物価上昇⇒ガソリン高騰⇒イラン戦争に行き着くからだ。

彼は「戦争は止めるべきだ」と「イランに核を持たせるべきではない」の両方をいう。が、これは別の話ではないし、進歩派のエル=ザイードも同じ答えだ。が、トランプは3月初め、「この戦争は、47年続いている戦争を終わらせるための戦争だ」「イランには核を持たせない」と述べた。つまり、赤の候補は「イランに核を放棄させるまで戦争は続ける」と答えねばならない。

では、ガソリン高騰についてどういえば良いか。答えは「我慢しろ!」だ。ガソリンも軽油も2倍3倍になっている訳ではないし、資源が枯渇したのでもない。イラン戦争はプーチンのように、トランプがイランの民間インフラ(発電所や原油施設、場合によって淡水化施設)を空爆すれば戦争は直ぐ終わるだろう。それを頻りに説く元将軍も少なくない。

が、イラン国民を慮るトランプは決してそうしない。ヴェネズエラを見れば判る。戦争は国軍と国軍がするもので無辜の国民は局外者、だから時間が掛かるのだ。一方、米国内を見れば、関税によって投資が増え、雇用も順調、関税を原資にした「OBBBA」の大減税で名目収入は3%台後半の増加率だ。だから多少の物価高は「我慢しろ」なのだ。

実は「我慢」の期間は有権者が決められる。イラン指導部は目下、中間選挙で共和党が負けると信じて踏ん張っている。よって共和党の勝利は、45年8月のソ連による対日参戦と同じ効果をイランに及ぼすだろう。トランプにすれば、4月7日の停戦まででこの戦争は終わっているのである。

空から見えるイラン国軍の軍事施設・航空機・艦船は15千回に及ぶ爆撃でほぼ壊滅し、以降の半年間はトンネル内で一部生き延びた革命防衛隊ロケット部隊のミサイルとドローンによって、湾岸諸国の米軍基地とホルムズの艦船が散発的に攻撃されたに過ぎない。

米中央軍の火器攻撃はこれへの応戦に過ぎず、代わりにオマーン湾封鎖でイラン原油の出入りを塞ぐ、経済的な締め上げに徹している。そこへベッセントの「エコノミック・アウトキャスト作戦」が加わり、イランを国際的なモノとカネの流れから締め出した。イラン経済が長く持つとは思われない。

トランプの思考回路もきっと同じで、究極的には「多少の物価高」と「イランの核保有」という格段に次元の異なる二者択一なのだ。投票日まで各州で続く討論会での争点はミシガンと同じになる。共和党は各候補に「我慢しろ」との答えを徹底させよ。民主党の進歩派候補と同じ答えでは危うい。

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