ホワイト国外しや半導体素材の輸出管理強化に対して、やれ徴用工判決への経済報復だ、やれ日本製品不買だとの、韓国政府や国民の的外れな言動が溢れる中、10日のFNNプライムは「韓国の『不正輸出』リスト入手 専門家驚愕…戦略物資の不正輸出は4年間で156件も」との衝撃的な見出し記事を報じた。
これで韓国アウト!と思われた。が、11日の朝鮮日報は「戦略物質流出報道に韓国政府が弁明『日本製はない』『韓国製または中国製』」との見出しで、「FNNが入手したという資料は、…趙源震議員が今年5月に産業通商資源部から提出を受けた『戦略物資無許可輸出摘発現況』であると思われる。…本紙も当時、同議員から資料の提供を受け…報道した」との記事を載せた。
韓国政府もこのリストを「管理している証拠」と述べ、WTOでの舌戦も始まったが、その割には文政権の慌て振りはどうしたことか。経済界の要人を集めて「悲壮な覚悟」を述べ、日本のやり方を「政治的だ」と難じている。が、政府が韓国のWTO提訴を念頭に置いて準備してきたことなので、WTOに「政治的措置」と受け取られるようなヘマを日本がするはずはない。
優遇除外の問題はじきにその真相や影響がはっきりして来ようし、WTO提訴となればその場で議論すれば良い。日本は政財界とも影響を織り込み済みだ。他方、韓国ではむしろ文政権とマスコミが大騒ぎしていることによって、日本への反感と同時に文大統領への批判も増幅しているようだ。10日の中央日報にはかなり真っ当な記述のある記事が二本載った。
どちらも韓国経済新聞(以下、「韓経」)の転載記事で、一つは「日本の経済報復の導火線になった大法院判決…『徴用賠償責任』は依然として議論」という見出しの記事(以下、「記事」)、他は「『メイド・イン・ジャパン』なく暮らす=韓国」という題のコラム(以下、「コラム」)。見出しは控えめだが中身はなかなか辛辣だ。
「記事」の見出しにある「…導火線になった大法院判決」とは、共に同じ2012年5月24日に出された三菱重工と新日鉄に対する大法院のいわゆる徴用工裁判の差し戻し判決を指す。原告が三菱は徴用工で新日鉄が応募工であるがゆえの相違が事実関係の記述にある以外は、両判決文の内容はほとんど同じといって良い。
「記事」は、次のようにいくつかの実に真っ当な理由を挙げて、正面切って大法院判決はおかしい、と論じている。(太字は筆者)
(請求権協定締結の翌年に)韓国政府は請求権補償法などを制定し、1975~1977年に強制徴用死亡者9546人に対し28億6100万ウォン、1人当たり30万ウォンを支給した。
大法院は「請求権協定で被害者の慰謝料請求権は剥奪されていない」として…1、2審判決をひっくり返した…
これに対し請求権協定条文2条に明示された「国民」という単語と当時の交渉資料、これまで韓国外交部が堅持してきた立場などを考慮すると、強制徴用被害補償はすでに行われたとみるべきとの見方もある。当時の議事録などによると、韓国政府が交渉過程で提示した「対日請求要綱」8項目の中には「被徴用韓国人の未収金、補償金とその他請求権の返済請求」内容が含まれている。
大法院は「国が国民個人の同意なく個人請求権を直接的に消滅させられると考えるのは近代法の原理に相反する」と判断した。
国際法専門家らは大法院が国際紛争解決過程で広く認められている「一括補償協定方式」と相反する判断を下したと指摘する。ある法科大学院教授は「植民支配など関連した被害者が多い紛争の場合、個人の請求権を個別訴訟を通じてひとつひとつ解決するには時間がとても長くかかる。第二次世界大戦後に台湾、インドネシア、ミャンマー、旧ソ連なども国家間協定を通じて一括的に賠償問題を解決した」と説明した。
韓国の裁判所が国際条約解釈など外交問題に過度に深く介入したのではないかとの指摘もある。ある国際法専門家は「国家間の利害関係が複雑に絡まっている外交問題に司法府が政権の意見と相反する判断を下すことには慎重でなければならない」と強調した。
いささか手前味噌になるが、韓国政府による補償や「8項目第5項」の被徴用韓国人の未収金、そして司法が高度な政治案件で判断を避けるケース(いわゆる統治行為論)などは、これまで筆者も本欄への投稿で何度か述べてきたところだ。
が、これまで韓国のマスコミが、こういった指摘を一つの記事でまとめて掲載するようなことはなかったように思う。匿名の国際法専門家や法科大学院教授の口を借りる体裁ではあるものの、ようやく韓国の、それも経済紙の「韓経」がまとめて指摘したところに、韓国経済界がこの事態をどれほどに深刻に受け止めているかが現れているのではあるまいか。
一方、「コラム」は日本品不買運動が2012年の尖閣諸島紛争の時に中国で広がった事例などを述べて、「国民の一致団結した姿は相手国に圧力要因として作用することもある」としつつも、重篤な副作用があり得ることに言及し、悔しくとも「克日の実力を育てること」が重要だと次のように述べている。
年間1000万人が韓日両国を行き来する時代に不買運動が呼ぶ副作用も考えなくてはならない。その影響が韓国の輸入・流通・販売・旅行業界従事者と日本に住む同胞・留学生・就業者に返ってきかねないためだ…
より現実的な問題は「メイド・イン・ジャパン」がなければ韓国がさらに苦しくなるという点だ。…日本の核心部品素材なくしてスマートフォン、自動車、精密化学など韓国の産業は回らない。こうした日本製品は「インテル・インサイド」のように目に付かない。病院の超音波CTなどは日本製が大半で、放送も日本製装備がなければ撮影や送出は難しい。
さらに、自由、民主、憲法などの概念語と専門用語はほとんどが近代日本の造語からきた。うどん、とんかつ、ラーメン、居酒屋などは韓国人の生活の中に溶け込んだ。日本のアニメーション人気もそうだがこれを原作にした『オールドボーイ』のような映画やドラマも作らなかったか。悲憤慷慨な不買運動を理解できないわけではないが、本当に切実なのは切歯腐心して日本に勝つ克日の実力を育てることではないだろうか。
5月5日に朝鮮日報が「『反日』で韓国を駄目にして日本を助ける『売国』文在寅政権」と題した朴正薫論説委員の署名記事を載せた。朴委員が「国力競争で日本に勝つことが真の光復だった」としたことに共感し、筆者はそれを「克日」と表現して記事を書いたが、「韓経」の「コラム」の指摘は同じ趣旨と思う。
再び優遇除外に戻るが、文政権の御用紙ハンギョレは別として、朝鮮日報も「大量破壊兵器に転用可能な戦略物資、韓国からの違法輸出が急増」との暴露風記事を載せ、また「戦略物資管理も弁明もでたらめな韓国産業部」との記事では、韓国産業部の「日本側担当局長の座が空席」で戦略物資会議が開かれなかったとの反論が、世耕経産相に「事実誤認」と即刻指摘され、「勘違いだった」と釈明したことなどの不様振りを報じている。果たして韓国国民はこれらをどう読むのだろうか。
今回の措置で筆者は一昔前のココム規制を思い出した。軍事転用を念頭に置いている以上、日本が同盟関係にある米国との事前打ち合わせ抜きに今回の措置を行ったとは考えられない。韓国外相が米国務長官に電話で訴えたらしいが頓珍漢だ。北朝鮮に対する制裁監視を西側諸国が協力して行っている中、もし韓国の不正が事実なら歴史的な事件となり、韓国の国威は地に落ちるだろう。
そして今回の日本の対応の根底には、表向きとは裏腹に、一連の韓国の対日不法行為に日本が堪忍袋の緒を切ったことがあるに違いない。とりわけいわゆる徴用工判決の問題は、ここ半世紀にわたってそれが封じ込められていたパンドラの箱を文大統領が開けてしまった、極めて根の深い重要事案だ。日本はあらゆる手段を講じてこれを屠らねばならない。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。