中間選挙の結果が示した「24年はトランプ」

米中間選挙の投票から一夜明けて、バイデン大統領は「赤い波は起きなかった」と述べた。内外の主要メディアの論調も概ねそのようで、BBCは「活気あふれる民主党の支持基盤」とさえ報じた。共和党圧勝との前評判がさせたことだが、本稿では改選議席の増減に焦点を当てて24年を占ってみたい。

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先ず州知事選。全米50州のうち非改選の14州(共和党現職:8州、民主党現職6州)を除く36州で投票が行われた。36州のうち20州を共和党が、16州を民主党が占めていたが、共和党知事4州と民主党知事3州が多選制限によって新人候補の争いとなり、残り29州が現職知事の信任選挙となった。

多選制限で新人同士の争いとなった共和党現職4州の結果は、アーカンソー:共和党大勝、アリゾナ:民主党接戦辛勝、マサチューセッツ:民主党大勝、メリーランド:民主党大勝で、一方、民主党現職3州の結果は、ハワイ:民主党大勝、オレゴン:民主党辛勝、ペンシルベニア:民主党大勝だった。

こう見ると民主党が大勝ちした印象を受けるが、ネバダで共和党候補が民主党現職を接戦の末破ったので、改選36州の勝敗は共和党18vs民主党17、最終的にアリゾナの負けが確定しても18vs18のイーブンということになり、これに非改選を加えると共和党26州vs民主党24州となる。

そこで激戦となったアリゾナ州だが、いつも何かと揉めるこの州は、ベトナム戦争に従軍し、搭乗していた爆撃機が撃ち落され、過酷な捕虜生活から6年振りに生還したジョン・マケインを、18年8月に亡くなるまでの35年半余り(下院4年と上院31年半)米国議会に送り込んだ共和党の牙城だった。

 

が、トランプが16年の大統領選挙活動中にマケインを「戦争の英雄ではない」と発言するなど、共和党内の対立が生じたことから、トランプは16年には52%vs48%でヒラリーに勝ったものの、20年には49.8%vs50.2%の僅差でバイデンに負ける憂き目に遭うことになる。

この20年の大統領選挙では、州の投票全体の61%(約2百万票)を占める大票田のマリコパ郡で、開票結果に疑念を懐いた州上院の共和党議員団が、独自に資金を出して投票用紙のフォレンジック監査を行なうなど大きな話題を呼び、筆者も2年前の5月にその経緯を本欄に書いた

多選制限で出馬できなかった同州のダグ・デューシー知事は、今回の知事選で再選を果たしたフロリダのデサンティス、テキサスのアボットと共に、不法移民をワシントンやニューヨークにバスで大勢送り込んだ共和党知事トリオの一人で、制限なかりせばおそらく再選されていたことだろう。

新人同士で戦われた今回の知事選、民主党候補はこのフォレンジック監査に反対の立場だった州務長官ケイティ・ホッブス、一方の共和党候補は長らくフェニックスのテレビ局に勤め、ニュース番組のアンカーもしていたカリ・レイクで、彼女はトランプの強い支持を受けていた。

結果は、ホッブス:50.3%(1,282,532票)、レイク:49.7%(1,265,394票)の17,138票差でコールされた。が、レイクは現地時間17日、「私は最高で最も優秀な法務チームを編成し、この1週間で行われた多くの過ちを正すためにあらゆる手段を模索している」とツイート、結果に異議を唱える構えだ。

その理由としてレイクは、例のマリコパ郡で投票機の故障が生じて、レイク側が投票時間の延長を求めたことや、ドロップボックス(投票箱)や郵便投票を信用できない有権者38万人余りが、郵便投票用紙に記入して投票日に持参したことなどを挙げている。

次に上院。各州2議席の合計100ある議席の3分の1が2年毎に改選されるので、今回は35議席(一部補選者を含む)が争われた。改選前議席は50vs50だったが、改選議席の党派別内訳は共和党21vs民主党14と共和党が7議席多いので、共和党にとってハンデ戦だったと判る。

結果は共和党20vs民主党14と共和党が過半数を制した。残り1議席は、これも20年の大統領選でのトランプ電話事件で揉めたジョージアで、両者50%未満のため12月6日の再選挙となったので、目下は非改選と合わせ共和党49vs民主党50。ジョージアで共和党が勝っても50vs50となり選挙前と同数だが、フィリバスター(議事妨害)を避けるには60票必要なので、ジョージアは大勢に影響しない。

上院で21年のトランプ弾劾に賛成票を投じた共和党議員は7人だった。うち4人は今回非改選、2人は不出馬で、アラスカのマコウスキーだけが出馬し当選した。ペンシルベニアで不出馬のパット・トゥーミー後継で出たメフメト・オズが民主党ジョン・フェターマンに負けたが、予備選中に脳卒中に罹ったフェターマンの無残なTV討論が、却って判官贔屓票を呼んだ結果と筆者は見る。

最後は下院。2年毎に435議席全てを争うので、218取れば過半数を占めることになる。結果は共和党218vs民主党212(19日8時現在)と選挙前に比べ共和党+8、民主党-9となり、残り5議席を残して共和党の過半数が確定した。

下院共和党で21年のトランプ弾劾に賛成した議員は10人。うち8人は、4人が予備選敗退(1人はリズ・チェイニー)、4人が不出馬(1人はアダム・キジンガー)だ。チェイニーとキジンガーは1月6日の議事堂襲撃を調査する委員会の委員を務める。出馬したワシントン州4区のダン・ニューハウスは当選、カリフォルニア州22区のデビッド・バラダオも優勢(19日8時現在)だ。

トランプが強く推した下院候補は25人で、その勝敗は16勝8敗1優勢(19日8時現在)だ。予備選でチェイニーを破ったワイオミング全州区のヘイグマン、そして不出馬のキジンガーを継いだイリノイ16区のLaHoodは2人とも早々と当選を決めた。

有権者の意識としては、前評判が高い候補には「自分が投票しなくても当選するだろう」と投票意欲が減退する。『ニューヨークタイムズ』などの米国のメインストリームメディアが選挙前に盛んに「赤い波」が押し寄せると煽ったのは、こうした効果を狙ったものだろう。

共和党の改選議席の結果は、知事選は惜敗、上院と下院は勝利だった。特に下院はトランプ派候補が16勝8敗と健闘し過半数を制した。これはチェイニーが主導した「J6委員会」や司法省・FBIによるマーアラゴ急襲などの逆風が吹きながらも、米国民の多くが24年の「Make America great and glorious again」をトランプに託しているように筆者には見える。

そこに向けてのトランプ最大の課題はペンスとの和解だ。昨年1月6日の大統領選挙人による投票の議会合同会議で議長を務めたペンスは、初めてトランプに背いた。議長の権限についての憲法解釈の違いが原因だった。が、11月16日にペンスは、一度は怒ったトランプを「許す(Forgiveness is not optional)」と述べ、かつての上司に水を向けた。

トランプとペンスなら1期4年で、プーチンを鎮め、習近平と金正恩を黙らせ、シェールガスを増産してインフレを抑え、パリ協定再脱退とケリー気候皇帝更迭で過度な気候変動原理主義を排し、国境の壁によって不法移民を取り締まり、「1776委員会」を復活させて白人の原罪意識を宥めるだろう。

そして野にあるポンペオとニッキ・ヘイリーは重要閣僚に入り、まだ若いデサンティス知事やトム・コットン、ジョシュ・ホーリーらと28年を目指せば良い。斯くすれば、バイデン政権が失くしてしまった「偉大で光栄あるアメリカ」は取り戻せる。